グループ内役務に関するOECD移転価格ガイドライン第7章改訂案の公表(パブリック・コンサルテーション) | PwC Japanグループというニュース記事が発行されている。当記事によればOECDが公表した改訂案は、「グループ内役務提供の移転価格上の取扱いについて…指針をより明確にするとともに、新たな設例の追加を通じて実務指針として充実を図るものであり、…一般原則自体を変更するものでは」ないとのこと。(なお、「第7章」とはOECD移転価格ガイドラインの第7章「企業グループ内役務提供に対する特別の配慮」のこと。以上の引用は同記事P.2より。)
また、現時点では当改訂案は「コンセンサスを示すものではなく、…意見を募るための提案にとどま」(同記事P.2)るものとのことではあるが、OECDの公表文書(以下のリンク)そのものを見に行くと、実務上悩ましい、パススルーコストについての記載が増えているため、追加された内容の確認をしてみたい。
Public consultation on taxation: Revisions to Chapter VII of the OECD Transfer Pricing Guidelines
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まず、パススルーコストとは「営業利益指標の分母から除外される可能性のある原価」(移転価格の実務Q&A | 井藤正俊 |本 | 通販 | Amazon、P.221)と説明されている。もう少し付け加えた説明をするならば、「TNMMにおける総費用営業利益率の総費用(分母)の算定時、ないし、役務提供取引におけるコストプラスベース(総費用に利益を上乗せする方法)の業務委託料算定時において、『総費用』からは除外して、利益を乗せずに取引相手であるグループ会社に請求することが移転価格税制上認められるコスト」ということになるだろうか。
現行のOECD移転価格ガイドラインにおいては、パススルーコストとして扱えるかどうかは、それが独立企業間でも利益の上乗せをすることなしに請求することが認められるか否かによって決まる(パラグラフ2.99)とされ、ただ、実務上、そのようなことがわかる第三者の情報は限定的ともされている(パラ2.100)。(*1)
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今回の改訂案では、パススルーコストについて、概ね以下のような説明がされている。
- 比較可能な独立企業間での取り扱いを参照する必要がある、という既存ガイドラインのパラ2.99の原則を再確認。(改訂案パラグラフ7.63、注釈における引用は上記リンク先のOECD改訂案原文より、日本語訳はDeepLの翻訳結果を簡便的に調整したもの、以下も同様)*2
- また、独立企業の財務データからはそのような取り扱いについての情報を入手することは難しいという既存パラ2.100の指摘が繰り返されている。(同7.64)*3
- そのため、「グループ外企業との、会社自身の取引データ」など、その他の情報を考慮する必要があり、仮に特定コストが独立企業間でパススルーコストとして取り扱われているならば、グループ内でも利益を上乗せしてはならないとする。(同7.64)
- また、役務提供者が「単なる支払者」としての役割しか果たさない(merely acting as a paying entity)場合には、マークアップなしでコストを転嫁すべきであり、他方、役務提供者が「単なる支払者」を超えた付加価値を提供している(contributes value and is not merely acting as a paying entity)場合にはマークアップは必要とする。(同7.64)
- 改訂案で提示されている事例のうち、このパススルーコストに関連する事例である事例20*4は以下のような内容である。
- グループ各社のために、独立広告代理店との調整業務を行うグループ企業Z社について、Z社がグループ各社のために当該代理店に一括で支払う広告料及び広告戦略コンサル代については、マークアップなしで各社に転嫁すべき。
- 一方、Z社自身が行う調整機能の遂行については、マークアップをすべき。
この説明についての、感想めいたコメントは以下の通り。
- 会社自身が独立企業との間で行っている実際の取引例からマークアップのない事例を見つけ出し、それをグループ内取引の役務提供取引にも適用すべき、という指摘は理に適っているものの、実際に参照できそうな取引が仮にあったとしても、グループ内と同等の取引でなくても根拠とすることができるのか、その他に改訂案ではindustry norms and practices(業界の規範や慣習)も根拠の例として挙げられているが、これらも、どのindustryのものなら、自グループにおける取引に横展開できるのか、実務上の悩ましさはありそう。(例えば、事業会社の税務部門であれば外部コンサル、税理士法人等からの請求を受ける場合が多いと思われるが、これらの請求において、交通費等が実費請求されていたとした場合、(税務業務とは関係のない)自グループ内の役務提供取引においても、すべて同様に交通費等は実費請求してもよいのか?この例ではそれでよいように思うが、「業界の規範や慣習」なのかどうかはよくわからない。)
- 「単なる支払者」としてのみの役割を果たしているのか、それとも、「単なる支払者」を超えた付加価値を提供しているのか、の判断基準は常識的な内容であり、実務上も使いやすいと思われる。
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なお、ここまでは主としてグループ内における役務提供取引におけるパススルーコストを念頭に置いていたが、製造会社のTNMMにおける総費用営業利益率算定においても、理論的には当てはまる。

ごく簡単な例であるが、上記例のA社とB社とは利益額、NCP(総費用営業利益率)は全く同じであるが、原価構成は大きく異なる。A社は材料費以外の付加価値が大きいのに対して、B社原価のほとんどは材料費であり、B社が付加した価値は(金額的には)わずかである。この場合に、B社には過剰な利益が配分されていると感じるが、実務上、材料費を除いたNCPで主張ができるかというと、そういうことにはならない。
Amazon.co.jp: 移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50 : 田島 宏一, 西村 憲人, 南 繁樹, 田島 宏一, 西村 憲人, 南 繁樹: 本では、この点について、以下の通り指摘されている。(P.63)
…あるコストが第三者間取引において実際にパススルーコストとして扱われるべきものであるかどうかの判断については、慎重に行う必要があります。また、検証対象法人(国外関連者)のパススルーコストを利益水準指標の分母(マークアップベース)から除外する場合、同様に比較対象会社のパススルーコストもマークアップベースから除外する必要がありますが、比較対象となる独立企業については原材料費の詳細等、パススルーコストを特定するだけの公開情報がないケースが多いことから、実際にはそのような調整をすることは難しいといえます。そのため、製造業については、やはり総原価をマークアップベースとして参照することが多いのが実情です。
*1:OECD租税委員会による「OECD移転価格ガイドライン2022年版」の公表について(令和4年1月)|国税庁
2.99 原価を分母とした取引単位営業利益法を適用する場合、当該事業の間接費を適切に配分し、当該活動又は取引に帰属する全ての直接費及び間接費を含むフルコストを用いることが多い。ここで生じうる問題は、納税者の原価の大部分を、利益を生まないパススルーコストとして(すなわち、営業利益指標の分母から除外される可能性のある原価として)取り扱うことが独立企業間で認められるか否か、また、どの程度認められるかということである。これは、比較可能な独立当事者ならば、自社に生じた部分の原価に対しマークアップがなされないことを、どの程度まで認めるかということによって決まる。その答えは、当該原価の分類が「内部原価」か「外部」かに基づくのではなく、比較可能性分析(機能分析を含む)に基づくべきである。パラグラフ7.34参照。
2.100 原価をパススルーコストとして取り扱うことが独立企業間でも見られる場合、次に、比較可能性及び独立企業間価格幅の決定の影響に関する問題が生じる。類似のもの同士を比較することが必要であることから、パススルーコストが納税者の営業利益指標の分母から除外されるならば、比較対象の原価もその営業利益指標の分母から除外されるべきである。比較対象の原価の内訳について利用できる情報が限定的である場合、実務上、比較可能性についての問題が生じるかもしれない。
*2:C.2.3.3 Pass-through costs
7.63. The appropriate treatment of a cost under a transfer pricing method as either recharged at cost without a markup (i.e. a pass-through cost) or recharged with a mark-up in addition to the cost is determined on a case-by-case basis. As outlined in paragraph 2.99 of Chapter II, the over-arching principle in making such determinations is to observe their treatment in comparable arm’s length circumstances. 7.63. 移転価格算定方法において、あるコストを、利益の上乗せなしのコストのみで転嫁するか(すなわち、パススルーコスト)、あるいはコストに加えて利益を上乗せをして転嫁するかの適切な取扱いは、事案ごとに判断される。第II章第2.99項で概説されているとおり、こうした判断を行う上での基本原則は、類似の独立企業間取引における取扱いを参照することである。
*3:7.64. It is often difficult to determine whether costs are marked up at arm’s length based on the financial data of independent enterprises in comparable circumstances. Thus, it may be necessary to consider other information, such as industry norms and practices, or company specific transactional data with external parties, which may indicate certain types of costs are typically pass-through costs. If the information shows that independent parties do not apply a mark-up to certain costs in comparable circumstances, then similar costs should not be marked up in computing the tested party’s compensation. However, it will still be necessary for those costs to be recharged to the recipient as pass-through costs to which no mark-up is attributed. For example, it is appropriate to recharge costs without a mark-up where the provider is merely acting as a paying entity, and the recipient would have incurred the costs directly. Conversely, where the service provider contributes value and is not merely acting as the paying entity, a mark-up on the service provider’s costs associated with such contribution may be appropriate in line with the arm’s length principle. See Annex I, Example 20.
7.64. 類似の状況にある独立企業の財務データに基づいて、コストが独立企業間取引の原則に従って利益の上乗せがされているかどうかを判断することは、しばしば困難である。したがって、業界の慣行や慣例、あるいは特定の種類のコストが通常は転嫁費用であることを示唆する、外部当事者との取引に関する企業固有のデータなど、その他の情報を考慮する必要がある場合がある。もし、その情報から、独立当事者が同等の状況において特定のコストに利益の上乗せを行っていないことが示される場合、当該検証対象法人の対価を算定する際には、同様のコストに利益の上乗せを行ってはならない。ただし、それらのコストは、利益上乗せが適用されないパススルーコストとして、依然として役務の受領者に転嫁される必要がある。例えば、役務提供者が単なる支払主体として機能しており、役務の受領者がそのコストを直接負担していたであろう場合には、利益の上乗せなしでコストを転嫁することが適切である。逆に、役務提供者が付加価値を提供しており、単なる支払主体として機能しているわけではない場合、そのような付加価値に関連する役務提供者のコストに対する利益の上乗せは、独立企業間原則に沿って適切である可能性がある。附属書Iの事例20を参照のこと。
*4:Example 20
MNE Group G sells branded consumer products that are popular in several regions due to high-quality standards and successful recurring advertising campaigns. Group G outsources its advertising media strategy to independent advertising agencies and media strategy firms. Group G incorporates Company Z to expand into Region Z. Company Z coordinates marketing for affiliates within Region Z, in particular Company Q based in Country Q. Company Z engages independent advertising agencies to develop marketing strategies and advertising campaigns for Company Q with respect to Country Q. Company Z has 5 employees who coordinate with such advertising agencies in Region Z. The marketing strategies and advertising campaigns are solely developed by the independent advertising agencies. Company Z executes an intercompany marketing services agreement with Company Q, which describes Company Z’s role to coordinate with the independent advertising agencies and affiliates to facilitate implementation in Country Q. The independent advertising agencies place 200 million Euro worth of advertisements per year in Region Z on behalf of Region Z affiliates, including Company Q, by acquiring advertising space from regional and local TV networks and other media outlets. Company Z also pays these independent advertising agencies for advertising strategy services totalling approximately 240 million Euro per year, to determine the best advertising spots, locations, and time slots for relevant products. Thus, Company Z pays the independent advertising agencies a total of 440 million Euro per year for the advertising placements and strategy services combined. The accurate delineation of the transaction shows that Company Z does not make contributions beyond its coordination activities for any of the affiliates within Region Z. Further, it shows that Company Z is merely an intermediary and is not contributing to the service being provided by the independent advertising agencies beyond its own intermediary activities. Furthermore, Company Q could have incurred the advertising spend and advertising strategy fees directly, with Company Z acting merely as the paying entity. Group G does not pay the independent advertising agencies a mark-up on the advertising spend. Information such as advertising industry studies and financial statements of purportedly comparable advertising firms show that advertising spend by independent advertising agencies on behalf of their clients is rarely marked up in uncontrolled transactions. Instead, once the independent advertising agencies pay such advertising spend directly to independent broadcast networks and media firms, they pass through those costs to the client with no mark-up in most cases, because the benefits provided by the independent advertising agencies’ role in selecting and booking ad campaigns are not proportionate with the advertising spend itself. Rather, the evidence shows that advertising agency compensation generally does not relate to the value or size of the advertising spend for advertising campaigns. Thus, the costs of 200 million Euro per year of placing the advertisements with TV networks which are most often passed through by independent advertising agency services firms themselves at arm’s length should be passed through from Company Z to Company Q without a mark-up. Additionally, Company Z only acts as the paying entity and does not make any contribution in relation to the 240 million Euro per year paid with respect to the advertising strategy fees beyond its own intermediary activities. Therefore, these costs should also be passed through to Company Q without a mark-up. Receiving a mark-up on advertising spend and advertising strategy services would result in compensation in excess of what Group G itself pays the advertising agencies, would be disproportionate with the benefit that Company Z provides, and would not be arm’s length. Company Z should earn an arm’s length remuneration for the performance of the coordination functions.
多国籍企業グループGは、高い品質基準と成功を収めている継続的な広告キャンペーンにより、いくつかの地域で人気のあるブランド消費財を販売している。グループGは、広告メディア戦略を独立系の広告代理店やメディア戦略会社に委託している。
グループGは、Z地域への事業拡大を図るため、Z社を設立した。Z社は、Z地域内の関連会社、特にQ国に拠点を置くQ社のマーケティングを統括している。Z社は、Q国におけるQ社のマーケティング戦略および広告キャンペーンを策定するため、独立した広告代理店を起用している。Z社には5名の従業員がおり、Z地域内の当該広告代理店との調整を行っている。マーケティング戦略および広告キャンペーンは、独立した広告代理店によって単独で策定されている。
Z社はQ社とグループ内マーケティングサービス契約を締結しており、この契約では、Q国における実施を円滑に進めるため、Z社が独立系広告代理店や関連会社と調整を行う役割が定められている。独立系広告代理店は、地域および地方のテレビネットワークやその他のメディアから広告枠を購入し、Q社を含むZ地域の関連会社に代わって、Z地域で年間2億ユーロ相当の広告を掲載している。また、Z社は、関連製品にとって最適な広告枠、場所、および放送時間帯を決定するための広告戦略サービスに対し、これらの独立系広告代理店に年間合計約2億4,000万ユーロを支払っている。したがって、Z社は、広告掲載と戦略サービスを合わせて、独立系広告代理店に年間合計4億4,000万ユーロを支払っている。
当該取引を正確に分析すると、Z社はZ地域内のいずれの関連会社に対しても、その調整業務の範囲を超える貢献を行っていないことが明らかになる。さらに、Z社は単なる仲介者に過ぎず、独自の仲介業務の範囲を超えて、独立系広告代理店が提供するサービスに貢献しているわけではないことも示されている。また、Q社が広告費および広告戦略策定料を直接負担し、Z社は単に支払主体として機能していた可能性もある。グループGは、独立系広告代理店に対して、広告費に上乗せ分を支払っていない。広告業界の調査や、比較対象とされる広告会社の財務諸表などの情報によれば、独立系広告代理店がクライアントに代わって支払う広告費は、独立取引において上乗せされることはほとんどない。その代わりに、独立系広告代理店がそのような広告費を独立系放送ネットワークやメディア企業に直接支払った後、それらのコストをほとんどの場合、上乗せなしでクライアントに転嫁している。これは、広告キャンペーンの選定や手配において独立系広告代理店が果たす役割によって提供される便益が、広告費そのものと比例していないためである。むしろ、証拠によれば、広告代理店の報酬は一般的に、広告キャンペーンの広告費の価値や規模とは関連していないことが示されている。
したがって、独立系広告代理店サービス企業自身が独立取引の原則に基づき最も頻繁に転嫁している、テレビネットワークへの広告掲載にかかる年間2億ユーロの費用は、上乗せなしに会社Zから会社Qへ転嫁されるべきである。さらに、会社Zは支払主体としてのみ機能しており、広告戦略手数料として支払われる年間2億4,000万ユーロに関しては、自社の仲介活動以外のいかなる貢献も行っていない。したがって、これらの費用も、上乗せなしに会社Qに転嫁されるべきである。広告費および広告戦略サービスに対して上乗せを受けると、グループG自体が広告代理店に支払う金額を上回る報酬となり、会社Zが提供する利益に見合わないものとなり、独立企業間取引の原則に反することになる。会社Zは、調整機能の遂行に対して、独立企業間取引の原則に基づく報酬を得るべきである。


