移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

パススルーコスト(のもやもや)

グループ内役務に関するOECD移転価格ガイドライン第7章改訂案の公表(パブリック・コンサルテーション) | PwC Japanグループというニュース記事が発行されている。当記事によればOECDが公表した改訂案は、「グループ内役務提供の移転価格上の取扱いについて…指針をより明確にするとともに、新たな設例の追加を通じて実務指針として充実を図るものであり、…一般原則自体を変更するものでは」ないとのこと。(なお、「第7章」とはOECD移転価格ガイドラインの第7章「企業グループ内役務提供に対する特別の配慮」のこと。以上の引用は同記事P.2より。)

また、現時点では当改訂案は「コンセンサスを示すものではなく、…意見を募るための提案にとどま」(同記事P.2)るものとのことではあるが、OECDの公表文書(以下のリンク)そのものを見に行くと、実務上悩ましい、パススルーコストについての記載が増えているため、追加された内容の確認をしてみたい。

Public consultation on taxation: Revisions to Chapter VII of the OECD Transfer Pricing Guidelines

 

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まず、パススルーコストとは「営業利益指標の分母から除外される可能性のある原価」(移転価格の実務Q&A | 井藤正俊 |本 | 通販 | Amazon、P.221)と説明されている。もう少し付け加えた説明をするならば、「TNMMにおける総費用営業利益率の総費用(分母)の算定時、ないし、役務提供取引におけるコストプラスベース(総費用に利益を上乗せする方法)の業務委託料算定時において、『総費用』からは除外して、利益を乗せずに取引相手であるグループ会社に請求することが移転価格税制上認められるコスト」ということになるだろうか。

 

現行のOECD移転価格ガイドラインにおいては、パススルーコストとして扱えるかどうかは、それが独立企業間でも利益の上乗せをすることなしに請求することが認められるか否かによって決まる(パラグラフ2.99)とされ、ただ、実務上、そのようなことがわかる第三者の情報は限定的ともされている(パラ2.100)。(*1

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今回の改訂案では、パススルーコストについて、概ね以下のような説明がされている。

  1. 比較可能な独立企業間での取り扱いを参照する必要がある、という既存ガイドラインのパラ2.99の原則を再確認。(改訂案パラグラフ7.63、注釈における引用は上記リンク先のOECD改訂案原文より、日本語訳はDeepLの翻訳結果を簡便的に調整したもの、以下も同様)*2

  2. また、独立企業の財務データからはそのような取り扱いについての情報を入手することは難しいという既存パラ2.100の指摘が繰り返されている。(同7.64)*3

  3. そのため、「グループ外企業との、会社自身の取引データ」など、その他の情報を考慮する必要があり、仮に特定コストが独立企業間でパススルーコストとして取り扱われているならば、グループ内でも利益を上乗せしてはならないとする。(同7.64)
  4. また、役務提供者が「単なる支払者」としての役割しか果たさない(merely acting as a paying entity)場合には、マークアップなしでコストを転嫁すべきであり、他方、役務提供者が「単なる支払者」を超えた付加価値を提供している(contributes value and is not merely acting as a paying entity)場合にはマークアップは必要とする。(同7.64)
  5. 改訂案で提示されている事例のうち、このパススルーコストに関連する事例である事例20*4は以下のような内容である。
    • グループ各社のために、独立広告代理店との調整業務を行うグループ企業Z社について、Z社がグループ各社のために当該代理店に一括で支払う広告料及び広告戦略コンサル代については、マークアップなしで各社に転嫁すべき。
    • 一方、Z社自身が行う調整機能の遂行については、マークアップをすべき。

この説明についての、感想めいたコメントは以下の通り。

  • 会社自身が独立企業との間で行っている実際の取引例からマークアップのない事例を見つけ出し、それをグループ内取引の役務提供取引にも適用すべき、という指摘は理に適っているものの、実際に参照できそうな取引が仮にあったとしても、グループ内と同等の取引でなくても根拠とすることができるのか、その他に改訂案ではindustry norms and practices(業界の規範や慣習)も根拠の例として挙げられているが、これらも、どのindustryのものなら、自グループにおける取引に横展開できるのか、実務上の悩ましさはありそう。(例えば、事業会社の税務部門であれば外部コンサル、税理士法人等からの請求を受ける場合が多いと思われるが、これらの請求において、交通費等が実費請求されていたとした場合、(税務業務とは関係のない)自グループ内の役務提供取引においても、すべて同様に交通費等は実費請求してもよいのか?この例ではそれでよいように思うが、「業界の規範や慣習」なのかどうかはよくわからない。)
  • 「単なる支払者」としてのみの役割を果たしているのか、それとも、「単なる支払者」を超えた付加価値を提供しているのか、の判断基準は常識的な内容であり、実務上も使いやすいと思われる。

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なお、ここまでは主としてグループ内における役務提供取引におけるパススルーコストを念頭に置いていたが、製造会社のTNMMにおける総費用営業利益率算定においても、理論的には当てはまる。

ごく簡単な例であるが、上記例のA社とB社とは利益額、NCP(総費用営業利益率)は全く同じであるが、原価構成は大きく異なる。A社は材料費以外の付加価値が大きいのに対して、B社原価のほとんどは材料費であり、B社が付加した価値は(金額的には)わずかである。この場合に、B社には過剰な利益が配分されていると感じるが、実務上、材料費を除いたNCPで主張ができるかというと、そういうことにはならない。

Amazon.co.jp: 移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50 : 田島 宏一, 西村 憲人, 南 繁樹, 田島 宏一, 西村 憲人, 南 繁樹: 本では、この点について、以下の通り指摘されている。(P.63)

…あるコストが第三者間取引において実際にパススルーコストとして扱われるべきものであるかどうかの判断については、慎重に行う必要があります。また、検証対象法人(国外関連者)のパススルーコストを利益水準指標の分母(マークアップベース)から除外する場合、同様に比較対象会社のパススルーコストもマークアップベースから除外する必要がありますが、比較対象となる独立企業については原材料費の詳細等、パススルーコストを特定するだけの公開情報がないケースが多いことから、実際にはそのような調整をすることは難しいといえます。そのため、製造業については、やはり総原価をマークアップベースとして参照することが多いのが実情です。

 

*1:OECD租税委員会による「OECD移転価格ガイドライン2022年版」の公表について(令和4年1月)|国税庁

2.99 原価を分母とした取引単位営業利益法を適用する場合、当該事業の間接費を適切に配分し、当該活動又は取引に帰属する全ての直接費及び間接費を含むフルコストを用いることが多い。ここで生じうる問題は、納税者の原価の大部分を、利益を生まないパススルーコストとして(すなわち、営業利益指標の分母から除外される可能性のある原価として)取り扱うことが独立企業間で認められるか否か、また、どの程度認められるかということである。これは、比較可能な独立当事者ならば、自社に生じた部分の原価に対しマークアップがなされないことを、どの程度まで認めるかということによって決まる。その答えは、当該原価の分類が「内部原価」か「外部」かに基づくのではなく、比較可能性分析(機能分析を含む)に基づくべきである。パラグラフ7.34参照。

2.100 原価をパススルーコストとして取り扱うことが独立企業間でも見られる場合、次に、比較可能性及び独立企業間価格幅の決定の影響に関する問題が生じる。類似のもの同士を比較することが必要であることから、パススルーコストが納税者の営業利益指標の分母から除外されるならば、比較対象の原価もその営業利益指標の分母から除外されるべきである。比較対象の原価の内訳について利用できる情報が限定的である場合、実務上、比較可能性についての問題が生じるかもしれない。

*2:C.2.3.3 Pass-through costs

7.63. The appropriate treatment of a cost under a transfer pricing method as either recharged at cost without a markup (i.e. a pass-through cost) or recharged with a mark-up in addition to the cost is determined on a case-by-case basis. As outlined in paragraph 2.99 of Chapter II, the over-arching principle in making such determinations is to observe their treatment in comparable arm’s length circumstances.

7.63. 移転価格算定方法において、あるコストを、利益の上乗せなしのコストのみで転嫁するか(すなわち、パススルーコスト)、あるいはコストに加えて利益を上乗せをして転嫁するかの適切な取扱いは、事案ごとに判断される。第II章第2.99項で概説されているとおり、こうした判断を行う上での基本原則は、類似の独立企業間取引における取扱いを参照することである。

*3:7.64. It is often difficult to determine whether costs are marked up at arm’s length based on the financial data of independent enterprises in comparable circumstances. Thus, it may be necessary to consider other information, such as industry norms and practices, or company specific transactional data with external parties, which may indicate certain types of costs are typically pass-through costs. If the information shows that independent parties do not apply a mark-up to certain costs in comparable circumstances, then similar costs should not be marked up in computing the tested party’s compensation. However, it will still be necessary for those costs to be recharged to the recipient as pass-through costs to which no mark-up is attributed. For example, it is appropriate to recharge costs without a mark-up where the provider is merely acting as a paying entity, and the recipient would have incurred the costs directly. Conversely, where the service provider contributes value and is not merely acting as the paying entity, a mark-up on the service provider’s costs associated with such contribution may be appropriate in line with the arm’s length principle. See Annex I, Example 20.

7.64. 類似の状況にある独立企業の財務データに基づいて、コストが独立企業間取引の原則に従って利益の上乗せがされているかどうかを判断することは、しばしば困難である。したがって、業界の慣行や慣例、あるいは特定の種類のコストが通常は転嫁費用であることを示唆する、外部当事者との取引に関する企業固有のデータなど、その他の情報を考慮する必要がある場合がある。もし、その情報から、独立当事者が同等の状況において特定のコストに利益の上乗せを行っていないことが示される場合、当該検証対象法人の対価を算定する際には、同様のコストに利益の上乗せを行ってはならない。ただし、それらのコストは、利益上乗せが適用されないパススルーコストとして、依然として役務の受領者に転嫁される必要がある。例えば、役務提供者が単なる支払主体として機能しており、役務の受領者がそのコストを直接負担していたであろう場合には、利益の上乗せなしでコストを転嫁することが適切である。逆に、役務提供者が付加価値を提供しており、単なる支払主体として機能しているわけではない場合、そのような付加価値に関連する役務提供者のコストに対する利益の上乗せは、独立企業間原則に沿って適切である可能性がある。附属書Iの事例20を参照のこと。

*4:Example 20

  1. MNE Group G sells branded consumer products that are popular in several regions due to high-quality standards and successful recurring advertising campaigns. Group G outsources its advertising media strategy to independent advertising agencies and media strategy firms.
    多国籍企業グループGは、高い品質基準と成功を収めている継続的な広告キャンペーンにより、いくつかの地域で人気のあるブランド消費財を販売している。グループGは、広告メディア戦略を独立系の広告代理店やメディア戦略会社に委託している。

  2. Group G incorporates Company Z to expand into Region Z. Company Z coordinates marketing for affiliates within Region Z, in particular Company Q based in Country Q. Company Z engages independent advertising agencies to develop marketing strategies and advertising campaigns for Company Q with respect to Country Q. Company Z has 5 employees who coordinate with such advertising agencies in Region Z. The marketing strategies and advertising campaigns are solely developed by the independent advertising agencies.
    グループGは、Z地域への事業拡大を図るため、Z社を設立した。Z社は、Z地域内の関連会社、特にQ国に拠点を置くQ社のマーケティングを統括している。Z社は、Q国におけるQ社のマーケティング戦略および広告キャンペーンを策定するため、独立した広告代理店を起用している。Z社には5名の従業員がおり、Z地域内の当該広告代理店との調整を行っている。マーケティング戦略および広告キャンペーンは、独立した広告代理店によって単独で策定されている。

  3. Company Z executes an intercompany marketing services agreement with Company Q, which describes Company Z’s role to coordinate with the independent advertising agencies and affiliates to facilitate implementation in Country Q. The independent advertising agencies place 200 million Euro worth of advertisements per year in Region Z on behalf of Region Z affiliates, including Company Q, by acquiring advertising space from regional and local TV networks and other media outlets. Company Z also pays these independent advertising agencies for advertising strategy services totalling approximately 240 million Euro per year, to determine the best advertising spots, locations, and time slots for relevant products. Thus, Company Z pays the independent advertising agencies a total of 440 million Euro per year for the advertising placements and strategy services combined.
    Z社はQ社とグループ内マーケティングサービス契約を締結しており、この契約では、Q国における実施を円滑に進めるため、Z社が独立系広告代理店や関連会社と調整を行う役割が定められている。独立系広告代理店は、地域および地方のテレビネットワークやその他のメディアから広告枠を購入し、Q社を含むZ地域の関連会社に代わって、Z地域で年間2億ユーロ相当の広告を掲載している。また、Z社は、関連製品にとって最適な広告枠、場所、および放送時間帯を決定するための広告戦略サービスに対し、これらの独立系広告代理店に年間合計約2億4,000万ユーロを支払っている。したがって、Z社は、広告掲載と戦略サービスを合わせて、独立系広告代理店に年間合計4億4,000万ユーロを支払っている。

  4. The accurate delineation of the transaction shows that Company Z does not make contributions beyond its coordination activities for any of the affiliates within Region Z. Further, it shows that Company Z is merely an intermediary and is not contributing to the service being provided by the independent advertising agencies beyond its own intermediary activities. Furthermore, Company Q could have incurred the advertising spend and advertising strategy fees directly, with Company Z acting merely as the paying entity. Group G does not pay the independent advertising agencies a mark-up on the advertising spend. Information such as advertising industry studies and financial statements of purportedly comparable advertising firms show that advertising spend by independent advertising agencies on behalf of their clients is rarely marked up in uncontrolled transactions. Instead, once the independent advertising agencies pay such advertising spend directly to independent broadcast networks and media firms, they pass through those costs to the client with no mark-up in most cases, because the benefits provided by the independent advertising agencies’ role in selecting and booking ad campaigns are not proportionate with the advertising spend itself. Rather, the evidence shows that advertising agency compensation generally does not relate to the value or size of the advertising spend for advertising campaigns.
    当該取引を正確に分析すると、Z社はZ地域内のいずれの関連会社に対しても、その調整業務の範囲を超える貢献を行っていないことが明らかになる。さらに、Z社は単なる仲介者に過ぎず、独自の仲介業務の範囲を超えて、独立系広告代理店が提供するサービスに貢献しているわけではないことも示されている。また、Q社が広告費および広告戦略策定料を直接負担し、Z社は単に支払主体として機能していた可能性もある。グループGは、独立系広告代理店に対して、広告費に上乗せ分を支払っていない。広告業界の調査や、比較対象とされる広告会社の財務諸表などの情報によれば、独立系広告代理店がクライアントに代わって支払う広告費は、独立取引において上乗せされることはほとんどない。その代わりに、独立系広告代理店がそのような広告費を独立系放送ネットワークやメディア企業に直接支払った後、それらのコストをほとんどの場合、上乗せなしでクライアントに転嫁している。これは、広告キャンペーンの選定や手配において独立系広告代理店が果たす役割によって提供される便益が、広告費そのものと比例していないためである。むしろ、証拠によれば、広告代理店の報酬は一般的に、広告キャンペーンの広告費の価値や規模とは関連していないことが示されている。

  5. Thus, the costs of 200 million Euro per year of placing the advertisements with TV networks which are most often passed through by independent advertising agency services firms themselves at arm’s length should be passed through from Company Z to Company Q without a mark-up. Additionally, Company Z only acts as the paying entity and does not make any contribution in relation to the 240 million Euro per year paid with respect to the advertising strategy fees beyond its own intermediary activities. Therefore, these costs should also be passed through to Company Q without a mark-up. Receiving a mark-up on advertising spend and advertising strategy services would result in compensation in excess of what Group G itself pays the advertising agencies, would be disproportionate with the benefit that Company Z provides, and would not be arm’s length. Company Z should earn an arm’s length remuneration for the performance of the coordination functions.
    したがって、独立系広告代理店サービス企業自身が独立取引の原則に基づき最も頻繁に転嫁している、テレビネットワークへの広告掲載にかかる年間2億ユーロの費用は、上乗せなしに会社Zから会社Qへ転嫁されるべきである。さらに、会社Zは支払主体としてのみ機能しており、広告戦略手数料として支払われる年間2億4,000万ユーロに関しては、自社の仲介活動以外のいかなる貢献も行っていない。したがって、これらの費用も、上乗せなしに会社Qに転嫁されるべきである。広告費および広告戦略サービスに対して上乗せを受けると、グループG自体が広告代理店に支払う金額を上回る報酬となり、会社Zが提供する利益に見合わないものとなり、独立企業間取引の原則に反することになる。会社Zは、調整機能の遂行に対して、独立企業間取引の原則に基づく報酬を得るべきである。

PE勉強の続き⑥(海外リモートワーク)

2025年11月のOECDモデル租税条約改訂(The 2025 Update to the OECD Model Tax Convention | OECD)のうち、第5条(PE)のコメンタリー改正について、確認していく。

ここでは『国際税務』の以下4記事を確認し、所々、コメンタリーの英語原文にも当たってみる。

  • EY税理士法人パートナー戸崎隆太「OECDモデル租税条約2025年改訂による『国境を越えたリモートワークの取扱い』について」『国際税務』2026年3月号(以下「戸崎」)
  • 税理士川田剛、税理士徳永匡子「OECDモデル租税条約条文及びコメンタリーの改正<1>」『国際税務』2026年5月号(以下「川田/徳永」)
  • EY税理士法人 税理士藤井恵「実例で学ぶ 外国人雇用と海外出向者にまつわる税務・給与・社会保険 第188回 海外リモートワーク時代の税務リスクと企業対応策 その1」『国際税務』2026年5月号(以下「藤井➀」)
  • EY税理士法人 税理士藤井恵「実例で学ぶ 外国人雇用と海外出向者にまつわる税務・給与・社会保険 第189回 海外リモートワーク時代の税務リスクと企業対応策 その2」『国際税務』2026年6月号(以下「藤井➁」)

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まず、第5条そのものを確認。

Model Tax Convention on Income and on Capital 2017 (Full Version) | OECD

ARTICLE 5
PERMANENT ESTABLISHMENT

  1. For the purposes of this Convention, the term “permanent establishment” means a fixed place of business through which the business of an enterprise is wholly or partly carried on.
  2. The term “permanent establishment” includes especially:
    a) a place of management;
    b) a branch;
    c) an office;
    d) a factory;
    e) a workshop, and
    f) a mine, an oil or gas well, a quarry or any other place of extraction of natural resources.

 

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その上で本題の背景を確認すると、「これまでPEとは、企業が自ら賃借したり所有したりするオフィス等を想定していた」ところ、「最近はテクノロジーの深化により」「従業員が海外の自宅等からパソコン1台で自国の企業のために働くことが可能にな」(藤井➀P.114)っていることがある。

そして、「リモートワークにおけるPEに関する問題点とは、リモートワークを行う個人の自宅等が」「『事業を行う一定の場所』」(”a fixed place of business”)「に該当するかどうかという点にあ」(戸崎P.68)る。

「今回の改訂により、リモートワークに係る自宅等に関するPEリスクの判定は、原則として、『一定性』、『勤務時間割合』、『商業上の理由』の3要素により行うことが明確化されました。」(戸崎P.73)これらの3要素をいずれも満たす場合において、「リモートワークを行う個人の自宅等が」「『事業を行う一定の場所』」(”a fixed place of business”)「に該当する」と判定される、という理解である。

 

以下、それぞれの要素について確認していく。

  • ➀『一定性』
    • 第5条に追加されたコメンタリー44.4は、第5条そのものの「事業の場所」(”a place of business”)の定義に立ち返り、「事業の場所」がPEを構成するためには、その場所は”fixed”である必要があるとする。続けて、そのためには「事業の場所」には、ある程度の”permanency”(川田/徳永P.87の訳語では「恒久性」)が必要であるとする。
    • この「一定性」、「恒久性」を今回の論点である海外リモートワークに当てはめた際に若干分かりづく感じたが、追加コメンタリー44.21に示されている例Aと例Bを対比させるとわかりやすい。
    • 以下の例Aと例Bの説明の引用は藤井➁P.133-4より。
      • 「例A R国の企業であるR社の従業員は、通常の勤務形態の一部としてR国から働いている。12か月の期間中、彼女はS国での休暇滞在に続き、連続する3か月間、S国の場所を借りてそこから働く。」
      • 「例B R国の企業であるR社の従業員は、12か月の期間を通じて週に1~2日、S国にある彼女の自宅から働く。これは、その12か月の期間中の彼女の労働時間の30%に相当する。」
      • ここで、例AではR社によるS国での事業は「12か月の期間中の3か月間のみであるため、彼女が働くS国の場所は『一定(fixed)』」ではなく「恒久性を欠いている」と判断されるのに対して、例Bでは「彼女が働くS国の自宅は、その場所が12か月の期間を通じてR社の事業に関連する活動を行うために使用されており」、「恒久性を有している」。
    • つまり、”permanency”の基準とは、12か月の期間中ずっとその場所が『事業の場所』として確保されているかどうか、と理解した。(事業の性質等による短期的な使用について、既存のコメンタリー(パラグラフ28~34)を参照すべき点が川田/徳永P.87で指摘されている。)
  • ➁『勤務時間割合』
    • この『勤務時間割合』と次の『商業上の理由』は、追加コメンタリー44.6における「第5条第1項におけるPEを構成するためには、自宅等がa place of business of the enterpriseである必要がある」を判断するための要素として提示されている。
      • 44.6では単純に従業員等が事業に関連する活動を行うためにある場所を使用するというだけで自動的にその場所が「事業の場所」(川田/徳永P.87の訳語)であるという結論にはならない、とされている。
      • 続けて44.7では従業員等の自宅において事業に関連する活動を行った場合でも、その活動はintermittent or incidental(断続的ないし偶発的)であることが多く、その場合にはその場所が「事業の場所」となることはないと指摘する。しかし、一定の事実があればその場所が「事業の場所」と判定されるべきということになるかもしれないとして、提示されているのが➁『勤務時間割合』と➂『商業上の理由』である。
    • ➁『勤務時間割合』について、追加コメンタリー44.8で「当該事業年度に開始又は終了するいずれかの12か月においても、その個人が自宅等から勤務する時間が、その企業のための全労働時間の50%未満である場合は、その自宅等は一般に事業を行う場所とはみなされないとされ」(戸崎P.69)た。
    • この判断基準から、上記例Bは、➀『一定性』は満たすものの、➁『勤務時間割合』は「30%」であることから満足せず、PEには該当しないという結論となっている。
  • ➂『商業上の理由』
    • 上記➁『勤務時間割合』の条件に該当し、「個人が総労働時間の少なくとも50パーセントをその自宅又はその他の関連する場所で働く場合、企業が当該場所に事業の場所を有するか否かは、当該場所が所在する締約国において当該個人が行う活動に『商業上の理由』があるか否かで判断される。」(川田/徳永P.88)
    • この「商業上の理由」(”a commercial reason”)は、自宅等が所在する締約国におけるその個人の物理的存在(”the physical presence of the individual”)自体が企業の事業を推進(”facilitate”)する場合に、存在するものと判定される。(追加コメンタリー44.11)
    • 例えば、当該個人による、企業の顧客とのミーティング、新規得意先の開拓や新規事業機会の探索、異なる時間帯に所在する顧客等とのリアルタイムでの対応、事業に関連する専門知識へのアクセス等の活動を行う場合に「商業上の理由」が存在するとみなされる。(追加コメンタリー44.17)
    • これらの得意先等との「関与が断続的また付随的なものであるとき」、「当該個人の役務を確保又は維持するためにのみ自宅…で仕事することを認める場合」、「単にコスト削減(例えば、オフィススペースの支出削減)を目的として自宅…での仕事を許可する場合」等には「商業上の理由があるとはみなされない。」(川田/徳永P.89)

日本からの各種支払い時の外国法人の課税関係(おさらいの続き)

前回記事の続き。

tpatsumoritaira.hatenablog.com

同様のケース(ただし、役務提供の場所についてパターンを増やして考えたい)において、消費税がどうなるのか、を考えたい。「考えたい」というより、ごく初歩的な内容と思われるので、自分が勉強するだけである。勉強に使用するのは租税法概説 第4版である。(以下特に示さない場合には本書のページ数を表記する。)

  • 日本親会社(P社)が中国子会社(C社)に製品の設計業務を委託する。
  • P社からC社に業務委託料を支払う際における、C社にとっての日本での課税関係を考える。
  • C社は日本にPEを有さない。
  • C社による役務提供の場所は以下の3ケースで考える。
    • ケース1)中国でのみ行われる。
    • ケース2)日本でのみ行われる。
    • ケース3)多くが中国で行われるが、一部詰めの業務が日本で行われる。

まず、消費税の「課税対象の取引は、➀国内において、➁事業者が事業として、➂対価を得て行われる、➃資産の譲渡および貸付けならびに役務の提供」(P.235)である。

消費税法第4条も見てみる。ここの「資産の譲渡等」とは、消費税法第2条1項8号「事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供…をいう」とされている。

第四条 国内において事業者が行つた資産の譲渡等(特定資産の譲渡等に該当するものを除く。第三項において同じ。)及び特定仕入れ(事業として他の者から受けた特定資産の譲渡等をいう。以下この章において同じ。)には、この法律により、消費税を課する。

 

このうち、上記ケースにおいて中国子会社C社が行う受託設計業務は「➂対価を得て行われる」「➃役務の提供」に該当することは明らかである。

また、「➁事業者が事業として」行うについては、消費税法第2条1項4号における事業者の定義をみると「個人事業者及び法人をいう」とされており、当該「法人」には内国法人の限定がないところをみると、外国法人であるC社も該当するものと考えられる。

 

となると、残る論点はC社による設計業務が「➀国内において」行われたと判定されるかどうか、にかかっている。

P.236「役務の提供については、原則として役務の提供地が判定基準となる」とのことである。引用元である消費税法第4条第3項もみてみる。

3 資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める場所が国内にあるかどうかにより行うものとする。ただし、第三号に掲げる場合において、同号に定める場所がないときは、当該資産の譲渡等は国内以外の地域で行われたものとする。
一 資産の譲渡又は貸付けである場合 当該譲渡又は貸付けが行われる時において当該資産が所在していた場所(当該資産が船舶、航空機、鉱業権、特許権、著作権、国債証券、株券その他の資産でその所在していた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
二 役務の提供である場合(次号に掲げる場合を除く。) 当該役務の提供が行われた場所(当該役務の提供が国際運輸、国際通信その他の役務の提供で当該役務の提供が行われた場所が明らかでないものとして政令で定めるものである場合には、政令で定める場所)
三 電気通信利用役務の提供である場合 当該電気通信利用役務の提供を受ける者の住所若しくは居所(現在まで引き続いて一年以上居住する場所をいう。)又は本店若しくは主たる事務所の所在地

国内において行われたかどうかは「当該役務の提供が行われた場所」で判定されるので、

  • ケース1)中国でのみ行われる。
    • 「役務の提供地=国外」となるため、不課税取引となる。
  • ケース2)日本でのみ行われる。
    • 「役務の提供地=国内」となり、消費税の課税対象取引となりそうである。

 

役務提供が両国で行われるケース3はどう考えたらよいのだろうか。

上記の消費税法第4条第3項で参照されている政令は消費税法施行令第6条2項なので、これも以下で確認する。(下線は当記事筆者。)

2 法第四条第三項第二号に規定する政令で定める役務の提供は、次の各号に掲げる役務の提供とし、同項第二号に規定する政令で定める場所は、当該役務の提供の区分に応じ当該役務の提供が行われる際における当該各号に定める場所とする。
一 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる旅客又は貨物の輸送 当該旅客又は貨物の出発地若しくは発送地又は到着地
二 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる通信 発信地又は受信地
三 国内及び国内以外の地域にわたつて行われる郵便又は信書便(民間事業者による信書の送達に関する法律(平成十四年法律第九十九号)第二条第二項(定義)に規定する信書便をいう。第十七条第二項第五号において同じ。) 差出地又は配達地
四 保険 保険に係る事業を営む者(保険の契約の締結の代理をする者を除く。)の保険の契約の締結に係る事務所等の所在地
五 専門的な科学技術に関する知識を必要とする調査、企画、立案、助言、監督又は検査に係る役務の提供で次に掲げるもの(以下この号において「生産設備等」という。)の建設又は製造に関するもの 当該生産設備等の建設又は製造に必要な資材の大部分が調達される場所
イ 建物(その附属設備を含む。)又は構築物(ロに掲げるものを除く。)
ロ 鉱工業生産施設、発電及び送電施設、鉄道、道路、港湾設備その他の運輸施設又は漁業生産施設
ハ イ又はロに掲げるものに準ずるものとして財務省令で定めるもの
六 前各号に掲げる役務の提供以外のもので国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供その他の役務の提供が行われた場所が明らかでないもの 役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地

ここで両国にまたがって行われる設計業務は6号(「前各号に掲げる役務の提供以外のもので」「国内及び国内以外の地域にわたつて行われる役務の提供」)に該当すると考えられるので、その場合の役務の提供場所は「役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地」から、C社所在地、つまり中国=国外と判定してよさそう。(また、ここでは「多くが中国で行われるが、一部詰めの業務が日本で行われる」ことを想定しており、恐らく、不課税取引と判断してよいだろう。)

一方で、消費税法基本通達5-7-15の下線部(下線は当記事筆者)を確認すると、ケース3は「同一の者に対して行われる役務の提供で役務の提供場所が国内と国外の双方で行われるもの」に該当すると考えられ、この場合、「その対価の額が合理的に区分されていないものについて」は、上記で参照した消費税法施行令第6条2項「の規定により判定する」、すなわち、「役務の提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地」が役務の提供場所と判定される。逆にいえば「その対価の額が合理的に区分されてい」るものは、内外判定を区分しないといけない、ということだろう。(「その対価の額が合理的に区分されてい」るとは、どういう意味か、までは理解できていない。C社が業務委託料を中国での実施分と、日本での実施分を分離して請求してくれば、日本での実施分は消費税の課税対象になるのであろうが、例えば業務委託料を中国分/日本分を分けて計算しようと思えばできたが、C社はそうせずに、両方をまとめてP社に請求した場合はどうなるのだろうか。)

(役務の提供に係る内外判定)
5-7-15 法第4条第3項第2号《課税の対象》に規定する役務の提供が行われた場所とは、現実に役務の提供があった場所として具体的な場所を特定できる場合にはその場所をいうのであり、具体的な場所を特定できない場合であっても役務の提供に係る契約において明らかにされている役務の提供場所があるときは、その場所をいうものとする。
 したがって、法第4条第3項第2号、令第6条第2項第1号から第5号まで《資産の譲渡等が国内において行われたかどうかの判定》の規定に該当する場合又は役務の提供に係る契約において明らかにされている役務の提供場所がある場合には、これらに定められた場所により国内取引に該当するかどうかを判定することとなり、役務の提供の場所が明らかにされていないもののほか、役務の提供が国内と国外の間において連続して行われるもの及び同一の者に対して行われる役務の提供で役務の提供場所が国内と国外の双方で行われるもののうち、その対価の額が合理的に区分されていないものについて、令第6条第2項第6号《役務の提供が国内、国外にわたるものの内外判定》の規定により判定することに留意する。(平27課消1-17により改正)

 

なお、「ケース2)日本でのみ行われる。」は、「消費税の課税対象取引となりそう」としたが、以下だけ追記しておきたい。

  • P.242「小規模事業者の事務負担等を軽減する目的から、基準期間における課税売上高が1000万円以下の事業者は、『消費税を納める義務を免除』される(消税9条1項)」ので、C社の取引がこれに該当すれば免除される。
  • C社社員が継続的に日本でP社向けの受託業務を実施する場合、消費税とは関係ないが、C社の日本におけるPEの可能性があるだろう。

 

日本からの各種支払い時の外国法人の課税関係(おさらい)

過去の記事(以下)で勉強したはずだが、国際税務のごく初歩の、今更ながらのおさらい。(身に付いていない…。)

tpatsumoritaira.hatenablog.com

 

<前提>

上記記事で設定した事例を少しアレンジして使用する。また、上記記事では4つのケースについて検討したが、ここでは以下の一つのケースのみを取り上げる。

  • 日本親会社(P社)が中国子会社(C社)に製品の設計業務を委託する。
  • P社からC社に業務委託料を支払う際における、C社にとっての日本での課税関係を考える。
  • C社は日本にPEを有さない。(国内法(法人税法第2条第1項第12号の19)に定めるPEに該当しない。ただし、検討の途中では租税条約の定めではPEを有する、というパターンも考える。)
  • C社による役務提供が日本で行われる場合を考える。

 

過去記事の時と同様、国際取引と海外進出の税務 | 仲谷 栄一郎, 井上 康一, 梅辻 雅春, 藍原 滋 |本 | 通販 | Amazon、特にP.34-5にて説明されている規定の辿り方に基づいて検討を行い、その結果を以下にまとめてみる。(本記事に限らずであるが、記述に誤りがある場合はすべて自分の理解不足によるものなので、本書そのもの、あるいは該当条文にあたって頂きたい。)過去記事から時間が経ったにもかかわらず、まだまだ理解は不十分なので、引き続き勉強していきたい。

 

<検討>

ステップ1:所得税の検討

ステップ2:法人税の検討

ステップ3:租税条約の検討

 

<追加検討>

  • 上記事例では「C社による役務提供が日本で行われる場合」を考えていたが、「C社による役務提供が中国で行われる場合」にはC社は所得税法・法人税法に定める国内源泉所得を有さないことになるので、日本における所得税・法人税を課されない理解。
  • 例えば、C社による役務提供場所が中国、日本の両方にまたがる場合はどうか。基本的な設計業務は中国で行うが、詳細の詰めをC社社員が来日してP社技術者と行う場合等を想定する。
    • この場合には、中国で実施する役務提供と、日本で実施する役務提供とを分けて検討する必要がある理解。
    • 日本で実施する業務については、上記検討の通り、日中租税条約におけるPEの有無によって取り扱いが異なるが、仮に日本にC社のPEがあるという結論になった場合には、PEに帰属する事業所得部分については日本で課税対象となる。(PE帰属所得の算定についてはここでは置いておく。)

 

消費税の検討もしたかったが、また別で…。

いわゆる「異常原価」について(続き)

以下の前回記事の続き。「異常原価」の移転価格上の取り扱いについて。蛇足かもしれないが。

tpatsumoritaira.hatenablog.com

 

前回記事では、TNMMで使用する営業利益について、国税庁による「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集 」P.37においては、いわゆる「異常原価」は除外されるべきと説明されているが、移転価格税制におけるグループ内におけるリスク負担を考えると、典型的な日系の多国籍企業においては、むしろ、前回記事引用部分になぞらえて言えば「機能・リスクの限定的な海外子会社を経営する上で、様々な特別な事象が起きるのは当然であり、それらを踏まえた損益をコントロールするのも日本の親会社の責任であり、特別損益までをも含めた利益配分を子会社に行う」のがむしろ理論的には正しいように思う。

つまり、「様々な特別な事象」のせいで機能・リスクの限定的な海外子会社の利益が確保されないのであれば、それはもはや「リスクの限定的な」主体ではない。

「リスクの限定的な」主体として海外子会社を位置付けるのであれば、発現した不利な方向のリスクであっても「守る」、すなわち「海外子会社の利益を維持する」必要がある。そこで「守られる」存在であるからこそ、海外子会社の事業が好調な際の利益上振れに対してキャップを嵌めることが正当化されるはずである。

もちろん、「様々な特別な事象」のうち、その子会社自身の過失に起因する損失については親会社が負担することはできないので、子会社努力によってはいかんともし難い要因なのかどうかの峻別は必要ではある。

 

このように考えるとIFRSベース、ないしIFRSに近い考え方のLOCAL GAAPベースのPLの営業利益から、「異常原価」を切り出す必要はない、というよりも切り出してはいけない。

「独立企業なら『異常原価』が発生した場合には短期的には赤字になることもあるのだから、機能・リスクの限定的な海外子会社だって短期的な赤字は許容されて然るべきであり、そこまで日本の親会社が補填する必要はない」という主張も十分に理解できる。しかし、私見だが、結局のところ、「独立企業間原則」、「TNMM」、「機能・リスクの限定的な海外子会社」ということ自体がフィクション、「そういう『お約束』に従って利益配分をしておいて、それ以上は言わないようにしましょう」というものではないだろうか。「独立企業」ならば、どんなに単純な機能を果たす会社であったとしても、本質的には「次の仕事をもらえなくなるかもしれない」という最大の「リスク」と常に隣り合わせで事業を運営している。「一定のリターンを安定的に計上する」ことが期待される「機能・リスクの限定的な海外子会社」とは本質的に異なる。この本質的な違いには目を瞑る前提でTNMMが運用されて以上、そして、海外税務当局が「リスクの限定的な海外子会社」に対して常に一定の利益を求めてくる以上、それに淡々と「一定利益」で応え続けていくことが、実務上、海外税務当局による「より大きな利益配分」の主張を封じ込める唯一の方法であると考える。

なので、私見ではコンパラブルの「異常原価」は除く(ないし、異常原価が除けない場合にはコンパラブルから外す)べきであるが、検証対象法人である海外子会社側からは海外子会社自身の瑕疵、過失に起因する「異常原価」以外は除くべきではないと考える。一時的には(単年度では)価格調整が間に合わない等の理由で海外子会社が赤字になることがあったとしても、複数年度で見たときには「異常原価」もカバーされるように利益が確保されるべきであろう。

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この点はコロナ禍における移転価格対応について論じた以下の記事が参考になるように思う。(いずれも下線は当記事筆者。)

まず一点目は、井上康一「コロナ禍と移転価格対応ー外国子会社の今期業績に係るTNMM検証の問題点とその対策」『国際税務』2020年12月号における、井上先生の以下ご発言。

「…結局TNMMを採用しているということは、まさに重要な機能とリスクは日本の親会社に集中していて、価値ある無形資産も親会社にあるということが前提事実となります。海外子会社の機能・リスクは限定されていますから、グループ全体として損失が発生するような事態が生じたとしても、直ちに海外子会社に損失を負担しろという考え方には、やはり違和感があります。日本だけではなくて相手国での課税リスクも考慮する必要がありますので、その観点からもリスク・機能が限定されているはずの海外子会社に損失を負担させることについては慎重になるべきだと思っています。」

二点目は、水野正夫・藤原拓哉「OECD『新型コロナウィルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス』の概要」『国際税務』2021年2月号における以下ご指摘。

「本ガイダンスは、いわゆる『限定リスク』と呼ばれる事業体が独立企業間で損失を被る可能性があるかどうかを判断する際には、具体的な事実と状況を考慮する必要があるとする(パラ39)。OECD TPGは、『特に、単純な又はリスクの低い機能の事業で、長期間に渡り損失となることは考えにくい』としており、単純または低リスクの機能が短期的に損失を被る可能性があることまでも否定するものではない。限定リスク事業体が損失を被る可能性があるかどうかを判断する際には、その事業体が予め想定するリスクが特に重要となる。限定リスクの関連者であっても一切のリスクから解放されていない以上、取引の正確な描写に基づいて一定の損失を計上する場合がありうることを示唆している(パラ40)。」

これはコロナ禍のような事態においては一時的には「リスクの限定的な海外子会社」であっても赤字になることは許容されるべきではあるが、基本線としてはやはり「リスクが限定的」と整理する以上は、利益の確保は必須であると理解した。

 

なお、多くの日系多国籍企業が「リスクの限定的な海外子会社」を所在させていると思われる中国の税務当局のスタンスは以下の通り説明されている。これを読むと、単純に「異常原価」を営業利益から切り分けるだけでは済まないであろうことは容易に想像できるし、多くの方々にとっての実務上の実感も同様ではないだろうか。

  • 移転価格税制のフロンティア (西村高等法務研究所理論と実務の架橋シリーズ) | 中里 実, 太田 洋, 弘中 聡浩, 宮塚 久 |本 | 通販 | Amazon(P.374-5)
    • 従来から中国の課税当局は営業損失や低い利益水準を計上している企業に対して、移転価格税制の観点から非常に厳しい傾向を示す傾向があるが、2009年7月6日付けの通達である国税函[2009]363号においては、単一の機能しか有さないような事業主体性が極めて限定されている業態の中国法人については、移転価格税制との関係において、原則として損失計上は認めないとしている。…
      当該通達は、受動的な位置付けにある業態であれば、自ら事業の方向性を左右することができず、受託者等の事業主体性を有する取引相手の事業戦略に大きく依存することになるため、損失についても取引相手の責任とされるべきであるという中国の課税当局の考えに依るものである。

  • チャイナタックスアラート(中国税務速報)- 第10回, 2017年3月-中国国家税務総局が「特別納税調査調整および相互協議手続管理弁法に関する公告」を公布
    • 「単一機能」企業: 6号公告によると、簡単な生産業務、簡単な卸売業務、または受託研究開発に従事する企業は、原則として合理的な利益水準を保たなければならない。欠損が出た場合、同時文書の準備基準に達するか否かにかかわらず、欠損年度の同時文書のマスターファイルとローカルファイルを準備しなければならない。また、企業が負担する、戦略の失敗、低稼働率、研究開発の失敗などの原因で被った関連者が負担すべきリスクと損失に対して、税務当局は特別納税調査を実施できる。363号文にも類似する規定がある。 

       

 

いわゆる「異常原価」について

企業会計審議会「原価計算基準」の「3 原価の本質」において、「(四)原価は、正常的なものである。原価は、正常な状態のもとにおける経営活動を前提として、は握された価値の消費であり、異常な状態を原因とする価値の減少を含まない。」とされている。そして、同じ「原価計算基準」の「5 非原価項目」ではこの「異常な状態を原因とする価値の減少」について、以下のように例示されている。(下線は当記事筆者。)

5 非原価項目  非原価項目とは、原価計算制度において、原価に算入しない項目をいい、おおむね次のような項目である。
(一) 経営目的に関連しない価値の減少、たとえば
1  次の資産に関する減価償却費、管理費、租税等の費用
(1) 投資資産たる不動産、有価証券、貸付金等
(2) 未稼動の固定資産
(3) 長期にわたり休止している設備
(4) その他の経営目的に関連しない資産  
2  寄付金等であつて経営目的に関連しない支出  
3  支払利息、割引料、社債発行割引料償却、社債発行費償却、株式発行費償却、設立費償却、開業費償却、支払保証料等の財務費用  
4  有価証券の評価損および売却損
(二) 異常な状態を原因とする価値の減少、たとえば  
1  異常な仕損、減損、たな卸減耗等  
2  火災、震災、風水害、盗難、争議等の偶発的事故による損失  
3  予期し得ない陳腐化等によつて固定資産に著しい減価を生じた場合の臨時償却費  
4  延滞償金、違約金、罰課金、損害賠償金  
5  偶発債務損失  
6  訴訟費  
7  臨時多額の退職手当  
8  固定資産売却損および除却損  
9  異常な貸倒損失
(三) 税法上とくに認められている損金算入項目、たとえば  
1  価格変動準備金繰入額  
2  租税特別措置法による償却額のうち通常の償却範囲額をこえる額
(四) その他の利益剰余金に課する項目、たとえば  
1  法人税、所得税、都道府県民税、市町村民税  
2  配当金  
3  役員賞与金  
4  任意積立金繰入額  
5  建設利息償却

ここでは、上記の非原価項目のうち、主に「異常な状態を原因とする価値の減少」、特に上記(二)のうちの1~3、7といった主に企業の主たる事業活動に係るもの、あるいは関連するような(一)1(2)、(3)について考えてみたい。これらをまとめて、ここでは仮に「異常原価」と呼ぶこととして(名称として矛盾があることは承知しつつ…)、会計上の取り扱い、法人税法上の取り扱いを見た上で、移転価格に接続して考えてみたい。

 

会計上の取り扱い(日本基準)

上記の非原価項目は会計上は期間費用として、営業利益の中で(販管費として)計上するか、営業外費用とするか、特別損失とするか、となる。

ここでは深入りしないが、「企業活動は、主たる営業活動とそれに付随する金融活動に大別され」(桜井久勝「財務会計講義 第23版」中央経済社、P.295)、この金融活動から生じた損益が営業外損益として取り扱われる。

営業利益と営業外損益をあわせて「当期の正常な企業活動から規則的・反復的に生じた収益と費用だけから」(同P.297)経常利益が算定される。そして、この経常損益に対するものとして「特別損益」が存在する。

「特別損益」とは「『経常性を持たない』『臨時異常の』『特別な』項目という意味合い」で「毎期、反復して発生する項目ではなく、偶発的・突発的に発生する損益または過年度損益の修正」(田中弘「新財務諸表論 第5版」税務経理協会、P.534)である。これらの定義からすれば「異常原価」は、基本的には特別損益に該当しそうであるが、「正常」かどうか、「規則的・反復的」かどうかの判断には主観的な部分が残るため、実務上はどこで計上するのかについて、総合的な判断が行われるのだろう。

また、BS観点から言えば、「異常原価」部分を期間費用扱いとするのは、「異常原価」部分が期末棚卸に含まれて資産計上されてしまうと、本来の資産価値を超えた計上になってしまうのを防ぐため、という意味合いだろう。

 

法人税法上の取り扱い

法人税法上の論点としては、これらの「異常原価」が製造原価に算入されるべきか、それとも丸ごと当期の期間費用として処理をすることができるか、になるだろう。法人税基本通達5-1-4(製造原価に算入しないことができる費用)には以下のように記載されている。

5-1-4 次に掲げるような費用の額は、製造原価に算入しないことができる。
… 
(8) 事業の閉鎖、事業規模の縮小等のため大量に整理した使用人に対し支給する退職給与の額
(9) 生産を相当期間にわたり休止した場合のその休止期間に対応する費用の額 …

これらは上記の「異常原価」と重なるものであると思われるが、本通達の解説(「法人税基本通達逐条解説(十一訂版)」P.578)ではこれらは「例示」であって、「法人の支出する費用につき原価性があるかどうか、製造原価項目であるかどうかの判定は一般に認められた適正な企業会計、原価計算基準に基づいて行う」と説明されていることから、基本的には上記「原価計算基準」の「5 非原価項目」に従えばよいはずである。ただ、会計に従うとしても、正常/異常の区分の判断はどうしても主観的になるため、税務当局側との見解の一致が見られるかどうかという不安は残る。

 

会計上の取り扱い(IFRS)

IFRSにおいても、「IAS第2号 棚卸資産」において以下のように定められており、日本基準とあまり変わらないように見える。

16 棚卸資産の原価から除外され、発生した期間に費用として認識されるコストの例として、次のものがある。
(a) 仕損に係る材料費、労務費又はその他の製造コストのうちの異常な金額

一方でIFRSにおけるPLの区分表示は「IFRSと日本基準の違いとは-財務諸表、損益計算書の相違点 Vol.3【事例で解説】 | GLOBIS学び放題×知見録」の下記引用(下線は当記事筆者。)の通りであることから、上記の日本基準では営業外ないし特別損失に計上される可能性のある「異常原価」も、基本的には営業費用に計上されることになる。

IFRSでは、「営業に関する損益」と「金融損益(営業以外に関する損益)」の区分のみ存在します。IFRSには、日本基準で「ケイツネ」と言われる「経常利益」(経常損失)の概念はなく、また、「特別損益」の表示も禁止しています。したがってIFRSにおいては、営業利益の次は、いきなり税引前利益になります。リストラ費用、固定資産の売却損益や火災・災害等の特別な事象による損益でも、特別損益を計上することは認められず、営業損益に含まれることになります。IFRSにおいて経常利益が存在しない理由は、特別損益が認められていないからだと考えることも可能です。

そして、このような扱いの背景としては、上記記事のなかで「企業を経営する上で、様々な特別な事象が起きるのは当然であり、それらをコントロールするのも経営者の責任であり、特別損益までをも含めて収益力を測る、とするのがIFRS の考え方」と説明されている。

 

移転価格上の取り扱い

TNMMでは通常、営業利益率を使用した検証を行う。そして、このTNMMで使用する営業利益については、国税庁による「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集 」P.37において、以下のように説明されている。(下線は当記事筆者。)

(参考)営業利益について
取引単位営業利益法を適用する場合、国外関連取引に係る検証対象の当事者の営業利益については、原則として、本業である企業の営業活動に伴い計上された損益(いわゆる事業利益)のうち、当該国外関連取引に直接又は間接に関係があるものを用いる必要がある。 したがって、受取利息や支払利息、法人税のような営業外の損益や反復的性格を有しない特別損益に属するような項目は一般的には除外することとなる。 また、比較対象取引の選定に係る作業においても、上記の点を考慮して、国外関連取引に係る利益指標と一貫性のある指標を決定する必要がある。

上記記事の引用の通り「IFRSでは、「営業に関する損益」と「金融損益(営業以外に関する損益)」の区分のみ存在」するので、「受取利息や支払利息」はIFRSにおいても営業に関する損益からは外れ、また、「法人税」についても、IFRS上営業利益外で計上されるものの、「反復的性格を有しない特別損益」はIFRSでは営業損益で計上されることになる。

つまり、日本基準を使用したPLに基づくのであれば、上記「事例集」通りの対応はしやすい(というより「事例集」でのこの記述は日本基準における「経常利益」「特別損益」を前提としていると思われる)が、典型的な日系の多国籍企業グループであれば、多くの取引において、TNMMにおける検証対象法人は海外子会社側であり、海外子会社側が日本基準を使用したPLを作成しているわけがない。

海外子会社が作成するのはLOCAL GAAPに基づくPL、及び、グループ全体の連結決算に採用されているIFRSやUS GAAPベースのPLである。LOCAL GAAP上、「異常原価」は営業損益の外に計上することになっていればよいが、IFRSに近い考え方の会計基準となっていれば上記の問題が出てくる。(さらに言えば、そもそもTNMMの適用上、検証対象法人の損益はLOCAL GAAPベースのPLに基づくのか、連結決算用の会計基準(例えばIFRS)のPLに基づくのか、という問題もあるが。)

IFRSベース、ないしIFRSに近い考え方のLOCAL GAAPベースのPLをTNMMの検証対象法人損益に使用する場合には、営業利益には「異常原価」が含まれるため、「事例集」の指摘に対応しようとすると、営業損益に含まれている「異常原価」を切り出す作業が必要となる。しかし、それには、➀そもそも検証対象法人のPL上で切り出されていないものを移転価格目的でのみ切り出すことになるので、恣意性、主観が入ってきやすく、税務当局の同意が得られるとは限らない、➁この切り出し作業を比較対象取引においても実施するのは更に難しい、ということになる。

 

まだ検討すべきことは残っているが、長くなってきたのでここまで。

 

ESGと移転価格

ESGの観点から移転価格を考えてみたい。

「ESGにおける税務観点」とは、

➀企業(多国籍企業グループ)は税務面でいかにガバナンスされるべきか、端的に言えば租税回避をいかにさせないか、という観点

  • OECD等によるBEPSプロジェクトは各国がいかに多国籍企業グループの租税回避に対抗するかという観点が主であったが、ESGは「資本市場における投資家による投資判断…と結びついた概念」であり、投資家からの観点という違いはある。

➁ESG活動コストの取り扱いと移転価格税制との関係という観点

…の二つが思い浮かぶ。➀はもちろん重要な論点であり、租税回避との関係で移転価格税制と接続して検討することはできるが、ここでは企業内の日常的な実務寄りのテーマということで、➁に絞って考えてみたい。

 

そもそもESGとは?

  • そもそも「コーポレートガバナンスとは、本来的には、会社経営者に対して…『規律づけ(discipline)』をするための制度的な担保及び具体的な制度運用の総体を意味するもの」であり、その目的は「出資者たる株主及び債権者を保護」するため(コーポレートガバナンス入門 (岩波新書 新赤版 2065) | 太田 洋 |本 | 通販 | Amazon、P.3)である。
  • 「企業の視点からのコーポレートガバナンス」(同P.7)もある。企業の「究極的な目標は、すべからく『効率よく最大限に利益を上げること』であり、そのために、アクセルとしての『経営効率の向上』と、ブレーキとしての『リスク管理体制及び内部統制システムの整備・実効性確保」とが必要とされ」(同)、「具体的な要素」(同P.8)としては「『情報保存・管理体制』『リスク管理体制』『コンプライアンス体制』…といったものなど」(同)が挙げられる。
  • そして、より広く、「従業員・顧客・社会・環境・人権の視点からのコーポレートガバナンス」(同P.11)もある。この文脈で「ESG経営」が出てくるが、もともと「『ESG』は、二〇〇六年に国連環境計画・金融イニシアティブが提唱した『責任投資原則』…のなかで使われた概念」(同P.12)であり、「投資家による投資判断と分かち難く結びついた概念」(同)。「『持続可能性(サステナビリティ)』をキーワードと」し、多様なステークホルダーの視点を取り込む経営を目指すものである。
  • 冒頭の➁の観点、それも企業内の実務担当者目線では、「ESG」とは、上記のような企業に対する多様な要求であり、そのような要求への対応を迫られているというのが正直な実感である。

 

企業グループ内におけるESG活動の分類

Stefan Greil, Christian Schwarz and Stefan Stein “ESG Value Creation from a Transfer Pricing Perspective”, INTERNATIONAL TRANSFER PRICING JOURNAL, March/April 2023は、ESG目標を実現するための多国籍企業グループの活動と移転価格税制との関係について論じる。この中で、ESGをターゲットにした活動がどの程度、既存の価値創造モデルに影響を与えるかについて、以下の3分類が提示されている。(P59):

  • Supported by ESG elements(支援):既存のビジネスモデルをESG要素で支援する(だけの)活動。既存事業のCO²排出量や廃棄物を削減する活動が典型例。
  • Enabled by ESG elements(促進):既存のビジネスモデルの成長をESG要素で促進する。サステナブルな容器を導入することで、プラスチック製の容器を避けていた消費者の需要が取り込める例が示されている。
  • Driven by ESG elements(主導):ESG要素自体がビジネスモデルの中心的価値を占める。カーシェア事業、新たなエネルギー源を使用した電力事業等。

本論文では、移転価格観点で重要となるのは、ESG要素そのものがkey value driverとなる場合(Driven by ESG elements)のみで、SupportedやEnabledの状態では既存のビジネスモデルにおける他要素の方が重要であり、ESG要素は価値創造の中心とはならない、むしろ、そのようなESG活動はa rather routine characterと指摘されている。(P.61)

例えば、

  • コーポレートガバナンス体制の整備
  • 持続可能性観点からのサプライヤー選定や、燃料消費量を抑制するための調達活動
  • エネルギー、水、原材料等を効率的に使用するための生産活動
  • 自社製品のリサイクルや循環を推進する活動
  • 自社製品の環境対応の優位性についての訴求活動

のような活動は基本的には上記のDriven段階の活動ではなく、Supported/Enabled状態にとどまるものとされる。

そしてDriven段階と言えるESG活動になって初めて、R&D活動と同様に、重要な無形資産を生み出し得る活動として、移転価格分析上の重要性を持つことになる。

 

移転価格税制上の整理

SupportedやEnabledに該当する、ほとんどのESG活動は、企業に対する社会的な要求水準の上昇に伴う対応であり、競争優位/差別化の源泉(=重要な無形資産の構築)に直接的に/明示的に繋がるものではなく、(上記論文の指摘の通り)移転価格の整理としては、ルーティン的な活動(の追加)に過ぎないと言えよう。このような活動は親会社はもちろんであるが、機能・リスクの限定的な子会社も含めた、グループ内のすべての個社が自らの機能の範囲内で、法的な義務、得意先からの要求、あるいはもっと広く社会からの要請に応える形で実施する必要があるものである。

とするならば、このようなESG対応コストは一義的にはグループ各社自身が負担すべきものであり、それはもしそのグループ会社が機能・リスクが限定的な会社ならば、TNMMで回収すべき費用が増えただけの状態、と言えるだろう。(なお、付記するならば、親会社がグループ全体として達成すべきESG各方面の水準を方針としてグループ内で提示したり、あるいは、子会社のESG目標の達成状況をモニタリングするような活動は、親会社本来の業務、もっと言えば株主活動として整理できる(=親会社が費用を負担する、移転価格事務運営要領 3-10(3)トに該当する)ものと考える)。

Drivenに該当するESG活動は、上記の整理の通り、R&D活動的な意味合いを持つものであり、このような活動は、典型的な日系の多国籍企業グループであれば、基本的には親会社がそのコストとリスクを負担する(ここから生まれる超過利益も享受する)ことになるだろう。

 

もちろん、Drivenに該当するESG活動が出てくればよいのだが、Drivenではない活動が移転価格の整理上、Routineと整理されるとしても、これらが本当の意味で実効性のあるESG活動になっていれば、それは究極的には企業の競争力を裏から支えることになるはずであり、「ブルシット」ではない、意味のある活動ができるか、が大事かな…と思う(当たり前すぎて面白味は全くないが)。