移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

110字日記➀

定期的に読むブログの一つに翻訳家の高橋茅香子さんの「ヴァシュリ通信」がある。この中に「98字日記」という好きなコーナーがある。これにならって、110字日記、ただし土日祝くらいしか更新できなさそう、を始めてみる。(なぜ110字なのかは、しょうもない語呂合わせ。)

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松岡正剛「多読術」に「本はノートでもある」と。これを知ってから勉強本にはどんどん書き込みをするようにしている。今書き込みながら読んでいるのは佐和周さんの「海外取引の経理実務ケース50」第3版。苦手分野はこれで復習。

関連者間取引に係る書類の整理保存の特例

令和8年度の税制改正で導入された「関連者間取引に係る書類の整理保存の特例」制度に関しては、すでに様々な解説記事が出ている(例えば、企業グループ間の取引に係る書類保存の特例 | PwC Japanグループ)ので、基本的なリンクをまとめておくだけとする。(以下引用箇所における下線は当記事筆者。)

 

■条文

まず創設された特例の前提として、既存の法人税法施行規則第59条第1項第3号において、「取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類」等を整理・保存する義務が青色申告法人には課されていることを確認する。

(帳簿書類の整理保存)
第五十九条 青色申告法人は、次に掲げる帳簿書類を整理し、起算日から七年間、これを納税地(第三号に掲げる書類にあつては、当該納税地又は同号の取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地)に保存しなければならない。
一 第五十四条(取引に関する帳簿及び記載事項)に規定する帳簿並びに当該青色申告法人の資産、負債及び資本に影響を及ぼす一切の取引に関して作成されたその他の帳簿
二 棚卸表、貸借対照表及び損益計算書並びに決算に関して作成されたその他の書類
三 取引に関して、相手方から受け取つた注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類及び自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものはその写し

これに加える形で創設されたのが同第59条の2。(普通法人に準用する同第67条の2は省略。)

(関連者間取引に係る書類の整理保存の特例)
第五十九条の二 青色申告法人は、当該事業年度において当該青色申告法人に係る関連者との間で次に掲げる取引(法第二十二条第三項第二号(各事業年度の所得の金額の計算の通則)に掲げる費用の額の基因となるものに限る。以下この条において「関連者間取引」という。)を行つた場合において、当該関連者間取引に関して受領し、又は作成した注文書、契約書、送り状、領収書、見積書その他これらに準ずる書類(自己の作成したこれらの書類でその写しのあるものは当該写しを、これらの書類の作成に代えて電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)の作成がされている場合には当該電磁的記録を、それぞれ含む。)で、前条第一項その他法人税に関する法令の規定により保存しなければならないこととされているものに次の各号に掲げる当該関連者間取引の区分に応じ当該各号に定める事項の記載又は記録がないときは、その記載又は記録がない事項(次項において「特定事項」という。)を明らかにする書類(以下この条において「特定事項記載書類」という。)を当該事業年度の法第七十四条第一項(確定申告)の規定による申告書の提出期限までに取得し、又は作成し、当該特定事項記載書類を整理し、前条第二項に規定する起算日から七年間、これを納税地又は当該関連者間取引に係る国内の事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存しなければならない。

一 当該関連者が当該青色申告法人に対して行う工業所有権等(工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの、著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)又は著作権法(昭和四十五年法律第四十八号)第二条第一項第十号の二(定義)に規定するプログラムの同項第一号に規定する著作物をいう。以下この号及び第七項において同じ。)の譲渡又は貸付け(工業所有権等に係る権利の設定その他工業所有権等を使用させる行為を含む。以下この号において同じ。) 次に掲げる事項
イ その譲渡又は貸付けに係る工業所有権等の明細
ロ その譲渡又は貸付けに係る工業所有権等の当該青色申告法人において果たす機能
ハ その譲渡又は貸付けに係る対価の額の明細及び当該対価の額の設定の方法

二 当該関連者が当該青色申告法人に対して行う役務の提供のうち次に掲げるもの 次に掲げる役務の提供の区分に応じそれぞれ次に定める事項
イ 次に掲げるもののいずれかに該当する事業活動で、当該事業活動に要する費用の全部又は一部をその役務の提供を受ける者(以下この号において「役務被提供者」という。)が負担することを定めている契約又は協定に基づき行うもの 当該契約又は協定に基づいて行つた当該事業活動の内容及び当該契約又は協定に基づき当該青色申告法人が負担することとなる費用の額の計算の方法
(1) その役務の提供をする者(以下この号において「役務提供者」という。)が有する産業、商業又は学術に関する知識経験その他の当該役務提供者が有する経営資源を活用して行われる研究開発、広告宣伝その他の事業活動
(2) 専用資産(専ら役務被提供者(当該役務被提供者に係る関連者を含む。)及び役務提供者の事業の用に供することを目的とする資産をいう。)を当該役務被提供者に使用させる行為並びにその使用に係る当該専用資産の維持及び管理
ロ 役務提供者が役務被提供者に対して行う経営の管理又は指導、情報の提供その他の役務の提供で当該役務提供者が有する産業、商業又は学術に関する知識経験に基づき行うもの(イに掲げるものを除く。) 当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法
ハ イ及びロに掲げるもののほか、これらの役務の提供に類するもの 当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法

(第2項以降、省略)

 

■事務運営指針

関連者間取引に係る書類の整理保存の特例の運用に当たっての基本的な考え方及び取扱いについて(事務運営指針)|国税庁

ここでは、特に以下2点の記載が興味深い。

  • 指針3(1)「必要記載事項は、関連者間取引の内容を第三者の立場からみて客観的に把握することができる程度の記載が求められるものである。」
  • 指針4(1)「他方、関連者間取引に係る必要記載事項の記載等がある書類等については、当該内国法人の親会社その他の関連者において一元的に保存等がなされている場合がある。このような場合には、事務負担に配慮する観点から、調査担当者の求めに応じて、当該内国法人が関連者から、当該書類等に記載等がある事項のうち特定事項記載書類に記載すべきものを遅滞なく入手し、当該事項を提示することができると認められるときは、当該内国法人の納税地等において特定事項記載書類の保存等がなされているものとして取り扱う。」

「第三者の立場からみて客観的に把握できる程度の記載」とは、例えば、事業会社の税務部門が外部専門家に業務を委託し、請求を受ける際の請求書や請求額の明細書に添付されている資料をイメージすればよいのだろうか。

また、特定事項記載書類は支払い会社側が原則として納税地等にて保存する必要があるのだが、請求会社側できちんと計算されており、その計算資料が請求会社側で残されていて、これを「遅滞なく入手」できるようにしていれば問題ない、とされたことは実務上はありがたい。

 

■法人税法基本通達

「法人税基本通達等の一部改正について」(法令解釈通達)(目次)|国税庁

17-3-1~17-3-10が新設されている。

 

■税制改正の解説

令和8年度 税制改正の解説 : 財務省の中の、「法人税法等の改正」の中で、本制度が解説されている。ここでは「法人税法等の改正」より以下2点を引用する。

一点目は「2 制度の趣旨及び制度の概要」より。

⑴ 制度の趣旨
 法人は、帳簿とともに、取引に関して相手方から受け取った注文書、契約書等の書類及び自己の作成したこれらの書類等を保存しなければならないこととされています。税務調査では、調査対象法人の協力の下、調査対象法人が保存している帳簿及び書類の提示又は提出を受けて行われることが一般的です。一方で、調査対象法人が取引に関して相手方から受け取った書類に、その取引の詳細な内容や支払額の計算の根拠の全部又は一部が記載されていない場合があります。このように、取引の内容や計算の根拠の全部又は一部の記載がない書類は、共通の利害関係を有する企業グループ内の法人間において行われる取引の中でも、工業所有権等の譲渡又は貸付けや「シェアードコスト取引」において散見されています。
(注) シェアードコスト取引とは、一般的に、企業グループ内で発生する共通の事業活動(研究開発、広告宣伝、システムの維持管理等)を企業グループ内の特定の法人に集約し、その事業活動に係る費用を、企業グループ内の他の法人に対して一定の基準により、経営指導料、利用料等の名目で請求する取引をいいます。このような取引においては、共通の利害関係を有する企業グループ内の法人間で取引が完了するため、恣意的な支払額の調整が行われやすいと考えられています。(P.440-1)

委託元と委託先が一対一の関係の、通常の役務提供取引よりも、特定のグループ会社が複数のグループ会社に対して役務を提供し、その役務提供にかかったコストをそれぞれの受益側グループ会社に対して配賦して算定した業務委託料等を請求する場合の取引が、本制度の主要な狙いの一つであることが明らかにされている。

 

二点目は「3 制度の内容」より。

ロ 対象取引
 対象となる取引は、対象法人が行う関連者間取引とされています(法規59の2①)。
 関連者間取引とは、関連者との間で行う次の取引のうち法人税法第22条第3項第2
号に掲げる費用の額の基因となるものをいいます(法規59の2①一・二)。
(注1) 法人税法第22条第3項第2号に掲げる費用の額とは、その事業年度の販売
費、一般管理費その他の費用(償却費以外の費用でその事業年度終了の日ま
でに債務の確定しないものを除きます。)をいいます。したがって、売上原
価、完成工事原価等の原価の額の基因となる取引は含まれません。

(P.442)

支払う側にとって販管費となる取引のみが対象。

 

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「当該役務の提供の明細及び内容並びに当該役務の提供に係る対価の額の明細及び計算の方法」等を支払い側のグループ会社に提示させたとして、仮に問題があった場合、すなわち「役務の提供の明細」がなく役務提供の存在自体が疑われる場合、あるいは役務提供の事実はあったとしても「対価の額の…計算の方法」がきちんと行われていなかった場合等には寄附金認定が論点になるのだろう。しかし、海外取引(国外関連者間取引)におけるこのような書類の必要性は理解できるとして、国内100%グループ間にも本制度を適用する趣旨は今一つ理解しがたい。(国内100%グループ間取引においても、受益側が欠損会社である場合等には寄附金を認定する動機があることは理解するが、実務上の負荷への配慮があってもよかったと思ってしまう…。グループ内取引にどこまで事務コストをかけるのかという観点で。)

パススルーコスト(のもやもや)

グループ内役務に関するOECD移転価格ガイドライン第7章改訂案の公表(パブリック・コンサルテーション) | PwC Japanグループというニュース記事が発行されている。当記事によればOECDが公表した改訂案は、「グループ内役務提供の移転価格上の取扱いについて…指針をより明確にするとともに、新たな設例の追加を通じて実務指針として充実を図るものであり、…一般原則自体を変更するものでは」ないとのこと。(なお、「第7章」とはOECD移転価格ガイドラインの第7章「企業グループ内役務提供に対する特別の配慮」のこと。以上の引用は同記事P.2より。)

また、現時点では当改訂案は「コンセンサスを示すものではなく、…意見を募るための提案にとどま」(同記事P.2)るものとのことではあるが、OECDの公表文書(以下のリンク)そのものを見に行くと、実務上悩ましい、パススルーコストについての記載が増えているため、追加された内容の確認をしてみたい。

Public consultation on taxation: Revisions to Chapter VII of the OECD Transfer Pricing Guidelines

 

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まず、パススルーコストとは「営業利益指標の分母から除外される可能性のある原価」(移転価格の実務Q&A | 井藤正俊 |本 | 通販 | Amazon、P.221)と説明されている。もう少し付け加えた説明をするならば、「TNMMにおける総費用営業利益率の総費用(分母)の算定時、ないし、役務提供取引におけるコストプラスベース(総費用に利益を上乗せする方法)の業務委託料算定時において、『総費用』からは除外して、利益を乗せずに取引相手であるグループ会社に請求することが移転価格税制上認められるコスト」ということになるだろうか。

 

現行のOECD移転価格ガイドラインにおいては、パススルーコストとして扱えるかどうかは、それが独立企業間でも利益の上乗せをすることなしに請求することが認められるか否かによって決まる(パラグラフ2.99)とされ、ただ、実務上、そのようなことがわかる第三者の情報は限定的ともされている(パラ2.100)。(*1)

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今回の改訂案では、パススルーコストについて、概ね以下のような説明がされている。

  1. 比較可能な独立企業間での取り扱いを参照する必要がある、という既存ガイドラインのパラ2.99の原則を再確認。(改訂案パラグラフ7.63、注釈における引用は上記リンク先のOECD改訂案原文より、日本語訳はDeepLの翻訳結果を簡便的に調整したもの、以下も同様)*2

  2. また、独立企業の財務データからはそのような取り扱いについての情報を入手することは難しいという既存パラ2.100の指摘が繰り返されている。(同7.64)*3

  3. そのため、「グループ外企業との、会社自身の取引データ」など、その他の情報を考慮する必要があり、仮に特定コストが独立企業間でパススルーコストとして取り扱われているならば、グループ内でも利益を上乗せしてはならないとする。(同7.64)
  4. また、役務提供者が「単なる支払者」としての役割しか果たさない(merely acting as a paying entity)場合には、マークアップなしでコストを転嫁すべきであり、他方、役務提供者が「単なる支払者」を超えた付加価値を提供している(contributes value and is not merely acting as a paying entity)場合にはマークアップは必要とする。(同7.64)
  5. 改訂案で提示されている事例のうち、このパススルーコストに関連する事例である事例20*4は以下のような内容である。
    • グループ各社のために、独立広告代理店との調整業務を行うグループ企業Z社について、Z社がグループ各社のために当該代理店に一括で支払う広告料及び広告戦略コンサル代については、マークアップなしで各社に転嫁すべき。
    • 一方、Z社自身が行う調整機能の遂行については、マークアップをすべき。

この説明についての、感想めいたコメントは以下の通り。

  • 会社自身が独立企業との間で行っている実際の取引例からマークアップのない事例を見つけ出し、それをグループ内取引の役務提供取引にも適用すべき、という指摘は理に適っているものの、実際に参照できそうな取引が仮にあったとしても、グループ内と同等の取引でなくても根拠とすることができるのか、その他に改訂案ではindustry norms and practices(業界の規範や慣習)も根拠の例として挙げられているが、これらも、どのindustryのものなら、自グループにおける取引に横展開できるのか、実務上の悩ましさはありそう。(例えば、事業会社の税務部門であれば外部コンサル、税理士法人等からの請求を受ける場合が多いと思われるが、これらの請求において、交通費等が実費請求されていたとした場合、(税務業務とは関係のない)自グループ内の役務提供取引においても、すべて同様に交通費等は実費請求してもよいのか?この例ではそれでよいように思うが、「業界の規範や慣習」なのかどうかはよくわからない。)
  • 「単なる支払者」としてのみの役割を果たしているのか、それとも、「単なる支払者」を超えた付加価値を提供しているのか、の判断基準は常識的な内容であり、実務上も使いやすいと思われる。

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なお、ここまでは主としてグループ内における役務提供取引におけるパススルーコストを念頭に置いていたが、製造会社のTNMMにおける総費用営業利益率算定においても、理論的には当てはまる。

ごく簡単な例であるが、上記例のA社とB社とは利益額、NCP(総費用営業利益率)は全く同じであるが、原価構成は大きく異なる。A社は材料費以外の付加価値が大きいのに対して、B社原価のほとんどは材料費であり、B社が付加した価値は(金額的には)わずかである。この場合に、B社には過剰な利益が配分されていると感じるが、実務上、材料費を除いたNCPで主張ができるかというと、そういうことにはならない。

Amazon.co.jp: 移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ50 : 田島 宏一, 西村 憲人, 南 繁樹, 田島 宏一, 西村 憲人, 南 繁樹: 本では、この点について、以下の通り指摘されている。(P.63)

…あるコストが第三者間取引において実際にパススルーコストとして扱われるべきものであるかどうかの判断については、慎重に行う必要があります。また、検証対象法人(国外関連者)のパススルーコストを利益水準指標の分母(マークアップベース)から除外する場合、同様に比較対象会社のパススルーコストもマークアップベースから除外する必要がありますが、比較対象となる独立企業については原材料費の詳細等、パススルーコストを特定するだけの公開情報がないケースが多いことから、実際にはそのような調整をすることは難しいといえます。そのため、製造業については、やはり総原価をマークアップベースとして参照することが多いのが実情です。

 

*1:OECD租税委員会による「OECD移転価格ガイドライン2022年版」の公表について(令和4年1月)|国税庁

2.99 原価を分母とした取引単位営業利益法を適用する場合、当該事業の間接費を適切に配分し、当該活動又は取引に帰属する全ての直接費及び間接費を含むフルコストを用いることが多い。ここで生じうる問題は、納税者の原価の大部分を、利益を生まないパススルーコストとして(すなわち、営業利益指標の分母から除外される可能性のある原価として)取り扱うことが独立企業間で認められるか否か、また、どの程度認められるかということである。これは、比較可能な独立当事者ならば、自社に生じた部分の原価に対しマークアップがなされないことを、どの程度まで認めるかということによって決まる。その答えは、当該原価の分類が「内部原価」か「外部」かに基づくのではなく、比較可能性分析(機能分析を含む)に基づくべきである。パラグラフ7.34参照。

2.100 原価をパススルーコストとして取り扱うことが独立企業間でも見られる場合、次に、比較可能性及び独立企業間価格幅の決定の影響に関する問題が生じる。類似のもの同士を比較することが必要であることから、パススルーコストが納税者の営業利益指標の分母から除外されるならば、比較対象の原価もその営業利益指標の分母から除外されるべきである。比較対象の原価の内訳について利用できる情報が限定的である場合、実務上、比較可能性についての問題が生じるかもしれない。

*2:C.2.3.3 Pass-through costs

7.63. The appropriate treatment of a cost under a transfer pricing method as either recharged at cost without a markup (i.e. a pass-through cost) or recharged with a mark-up in addition to the cost is determined on a case-by-case basis. As outlined in paragraph 2.99 of Chapter II, the over-arching principle in making such determinations is to observe their treatment in comparable arm’s length circumstances.

7.63. 移転価格算定方法において、あるコストを、利益の上乗せなしのコストのみで転嫁するか(すなわち、パススルーコスト)、あるいはコストに加えて利益を上乗せをして転嫁するかの適切な取扱いは、事案ごとに判断される。第II章第2.99項で概説されているとおり、こうした判断を行う上での基本原則は、類似の独立企業間取引における取扱いを参照することである。

*3:7.64. It is often difficult to determine whether costs are marked up at arm’s length based on the financial data of independent enterprises in comparable circumstances. Thus, it may be necessary to consider other information, such as industry norms and practices, or company specific transactional data with external parties, which may indicate certain types of costs are typically pass-through costs. If the information shows that independent parties do not apply a mark-up to certain costs in comparable circumstances, then similar costs should not be marked up in computing the tested party’s compensation. However, it will still be necessary for those costs to be recharged to the recipient as pass-through costs to which no mark-up is attributed. For example, it is appropriate to recharge costs without a mark-up where the provider is merely acting as a paying entity, and the recipient would have incurred the costs directly. Conversely, where the service provider contributes value and is not merely acting as the paying entity, a mark-up on the service provider’s costs associated with such contribution may be appropriate in line with the arm’s length principle. See Annex I, Example 20.

7.64. 類似の状況にある独立企業の財務データに基づいて、コストが独立企業間取引の原則に従って利益の上乗せがされているかどうかを判断することは、しばしば困難である。したがって、業界の慣行や慣例、あるいは特定の種類のコストが通常は転嫁費用であることを示唆する、外部当事者との取引に関する企業固有のデータなど、その他の情報を考慮する必要がある場合がある。もし、その情報から、独立当事者が同等の状況において特定のコストに利益の上乗せを行っていないことが示される場合、当該検証対象法人の対価を算定する際には、同様のコストに利益の上乗せを行ってはならない。ただし、それらのコストは、利益上乗せが適用されないパススルーコストとして、依然として役務の受領者に転嫁される必要がある。例えば、役務提供者が単なる支払主体として機能しており、役務の受領者がそのコストを直接負担していたであろう場合には、利益の上乗せなしでコストを転嫁することが適切である。逆に、役務提供者が付加価値を提供しており、単なる支払主体として機能しているわけではない場合、そのような付加価値に関連する役務提供者のコストに対する利益の上乗せは、独立企業間原則に沿って適切である可能性がある。附属書Iの事例20を参照のこと。

*4:Example 20

  1. MNE Group G sells branded consumer products that are popular in several regions due to high-quality standards and successful recurring advertising campaigns. Group G outsources its advertising media strategy to independent advertising agencies and media strategy firms.
    多国籍企業グループGは、高い品質基準と成功を収めている継続的な広告キャンペーンにより、いくつかの地域で人気のあるブランド消費財を販売している。グループGは、広告メディア戦略を独立系の広告代理店やメディア戦略会社に委託している。

  2. Group G incorporates Company Z to expand into Region Z. Company Z coordinates marketing for affiliates within Region Z, in particular Company Q based in Country Q. Company Z engages independent advertising agencies to develop marketing strategies and advertising campaigns for Company Q with respect to Country Q. Company Z has 5 employees who coordinate with such advertising agencies in Region Z. The marketing strategies and advertising campaigns are solely developed by the independent advertising agencies.
    グループGは、Z地域への事業拡大を図るため、Z社を設立した。Z社は、Z地域内の関連会社、特にQ国に拠点を置くQ社のマーケティングを統括している。Z社は、Q国におけるQ社のマーケティング戦略および広告キャンペーンを策定するため、独立した広告代理店を起用している。Z社には5名の従業員がおり、Z地域内の当該広告代理店との調整を行っている。マーケティング戦略および広告キャンペーンは、独立した広告代理店によって単独で策定されている。

  3. Company Z executes an intercompany marketing services agreement with Company Q, which describes Company Z’s role to coordinate with the independent advertising agencies and affiliates to facilitate implementation in Country Q. The independent advertising agencies place 200 million Euro worth of advertisements per year in Region Z on behalf of Region Z affiliates, including Company Q, by acquiring advertising space from regional and local TV networks and other media outlets. Company Z also pays these independent advertising agencies for advertising strategy services totalling approximately 240 million Euro per year, to determine the best advertising spots, locations, and time slots for relevant products. Thus, Company Z pays the independent advertising agencies a total of 440 million Euro per year for the advertising placements and strategy services combined.
    Z社はQ社とグループ内マーケティングサービス契約を締結しており、この契約では、Q国における実施を円滑に進めるため、Z社が独立系広告代理店や関連会社と調整を行う役割が定められている。独立系広告代理店は、地域および地方のテレビネットワークやその他のメディアから広告枠を購入し、Q社を含むZ地域の関連会社に代わって、Z地域で年間2億ユーロ相当の広告を掲載している。また、Z社は、関連製品にとって最適な広告枠、場所、および放送時間帯を決定するための広告戦略サービスに対し、これらの独立系広告代理店に年間合計約2億4,000万ユーロを支払っている。したがって、Z社は、広告掲載と戦略サービスを合わせて、独立系広告代理店に年間合計4億4,000万ユーロを支払っている。

  4. The accurate delineation of the transaction shows that Company Z does not make contributions beyond its coordination activities for any of the affiliates within Region Z. Further, it shows that Company Z is merely an intermediary and is not contributing to the service being provided by the independent advertising agencies beyond its own intermediary activities. Furthermore, Company Q could have incurred the advertising spend and advertising strategy fees directly, with Company Z acting merely as the paying entity. Group G does not pay the independent advertising agencies a mark-up on the advertising spend. Information such as advertising industry studies and financial statements of purportedly comparable advertising firms show that advertising spend by independent advertising agencies on behalf of their clients is rarely marked up in uncontrolled transactions. Instead, once the independent advertising agencies pay such advertising spend directly to independent broadcast networks and media firms, they pass through those costs to the client with no mark-up in most cases, because the benefits provided by the independent advertising agencies’ role in selecting and booking ad campaigns are not proportionate with the advertising spend itself. Rather, the evidence shows that advertising agency compensation generally does not relate to the value or size of the advertising spend for advertising campaigns.
    当該取引を正確に分析すると、Z社はZ地域内のいずれの関連会社に対しても、その調整業務の範囲を超える貢献を行っていないことが明らかになる。さらに、Z社は単なる仲介者に過ぎず、独自の仲介業務の範囲を超えて、独立系広告代理店が提供するサービスに貢献しているわけではないことも示されている。また、Q社が広告費および広告戦略策定料を直接負担し、Z社は単に支払主体として機能していた可能性もある。グループGは、独立系広告代理店に対して、広告費に上乗せ分を支払っていない。広告業界の調査や、比較対象とされる広告会社の財務諸表などの情報によれば、独立系広告代理店がクライアントに代わって支払う広告費は、独立取引において上乗せされることはほとんどない。その代わりに、独立系広告代理店がそのような広告費を独立系放送ネットワークやメディア企業に直接支払った後、それらのコストをほとんどの場合、上乗せなしでクライアントに転嫁している。これは、広告キャンペーンの選定や手配において独立系広告代理店が果たす役割によって提供される便益が、広告費そのものと比例していないためである。むしろ、証拠によれば、広告代理店の報酬は一般的に、広告キャンペーンの広告費の価値や規模とは関連していないことが示されている。

  5. Thus, the costs of 200 million Euro per year of placing the advertisements with TV networks which are most often passed through by independent advertising agency services firms themselves at arm’s length should be passed through from Company Z to Company Q without a mark-up. Additionally, Company Z only acts as the paying entity and does not make any contribution in relation to the 240 million Euro per year paid with respect to the advertising strategy fees beyond its own intermediary activities. Therefore, these costs should also be passed through to Company Q without a mark-up. Receiving a mark-up on advertising spend and advertising strategy services would result in compensation in excess of what Group G itself pays the advertising agencies, would be disproportionate with the benefit that Company Z provides, and would not be arm’s length. Company Z should earn an arm’s length remuneration for the performance of the coordination functions.
    したがって、独立系広告代理店サービス企業自身が独立取引の原則に基づき最も頻繁に転嫁している、テレビネットワークへの広告掲載にかかる年間2億ユーロの費用は、上乗せなしに会社Zから会社Qへ転嫁されるべきである。さらに、会社Zは支払主体としてのみ機能しており、広告戦略手数料として支払われる年間2億4,000万ユーロに関しては、自社の仲介活動以外のいかなる貢献も行っていない。したがって、これらの費用も、上乗せなしに会社Qに転嫁されるべきである。広告費および広告戦略サービスに対して上乗せを受けると、グループG自体が広告代理店に支払う金額を上回る報酬となり、会社Zが提供する利益に見合わないものとなり、独立企業間取引の原則に反することになる。会社Zは、調整機能の遂行に対して、独立企業間取引の原則に基づく報酬を得るべきである。

PE勉強の続き⑥(海外リモートワーク)

2025年11月のOECDモデル租税条約改訂(The 2025 Update to the OECD Model Tax Convention | OECD)のうち、第5条(PE)のコメンタリー改正について、確認していく。

ここでは『国際税務』の以下4記事を確認し、所々、コメンタリーの英語原文にも当たってみる。

  • EY税理士法人パートナー戸崎隆太「OECDモデル租税条約2025年改訂による『国境を越えたリモートワークの取扱い』について」『国際税務』2026年3月号(以下「戸崎」)
  • 税理士川田剛、税理士徳永匡子「OECDモデル租税条約条文及びコメンタリーの改正<1>」『国際税務』2026年5月号(以下「川田/徳永」)
  • EY税理士法人 税理士藤井恵「実例で学ぶ 外国人雇用と海外出向者にまつわる税務・給与・社会保険 第188回 海外リモートワーク時代の税務リスクと企業対応策 その1」『国際税務』2026年5月号(以下「藤井➀」)
  • EY税理士法人 税理士藤井恵「実例で学ぶ 外国人雇用と海外出向者にまつわる税務・給与・社会保険 第189回 海外リモートワーク時代の税務リスクと企業対応策 その2」『国際税務』2026年6月号(以下「藤井➁」)

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まず、第5条そのものを確認。

Model Tax Convention on Income and on Capital 2017 (Full Version) | OECD

ARTICLE 5
PERMANENT ESTABLISHMENT

  1. For the purposes of this Convention, the term “permanent establishment” means a fixed place of business through which the business of an enterprise is wholly or partly carried on.
  2. The term “permanent establishment” includes especially:
    a) a place of management;
    b) a branch;
    c) an office;
    d) a factory;
    e) a workshop, and
    f) a mine, an oil or gas well, a quarry or any other place of extraction of natural resources.

 

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その上で本題の背景を確認すると、「これまでPEとは、企業が自ら賃借したり所有したりするオフィス等を想定していた」ところ、「最近はテクノロジーの深化により」「従業員が海外の自宅等からパソコン1台で自国の企業のために働くことが可能にな」(藤井➀P.114)っていることがある。

そして、「リモートワークにおけるPEに関する問題点とは、リモートワークを行う個人の自宅等が」「『事業を行う一定の場所』」(”a fixed place of business”)「に該当するかどうかという点にあ」(戸崎P.68)る。

「今回の改訂により、リモートワークに係る自宅等に関するPEリスクの判定は、原則として、『一定性』、『勤務時間割合』、『商業上の理由』の3要素により行うことが明確化されました。」(戸崎P.73)これらの3要素をいずれも満たす場合において、「リモートワークを行う個人の自宅等が」「『事業を行う一定の場所』」(”a fixed place of business”)「に該当する」と判定される、という理解である。

 

以下、それぞれの要素について確認していく。

  • ➀『一定性』
    • 第5条に追加されたコメンタリー44.4は、第5条そのものの「事業の場所」(”a place of business”)の定義に立ち返り、「事業の場所」がPEを構成するためには、その場所は”fixed”である必要があるとする。続けて、そのためには「事業の場所」には、ある程度の”permanency”(川田/徳永P.87の訳語では「恒久性」)が必要であるとする。
    • この「一定性」、「恒久性」を今回の論点である海外リモートワークに当てはめた際に若干分かりづく感じたが、追加コメンタリー44.21に示されている例Aと例Bを対比させるとわかりやすい。
    • 以下の例Aと例Bの説明の引用は藤井➁P.133-4より。
      • 「例A R国の企業であるR社の従業員は、通常の勤務形態の一部としてR国から働いている。12か月の期間中、彼女はS国での休暇滞在に続き、連続する3か月間、S国の場所を借りてそこから働く。」
      • 「例B R国の企業であるR社の従業員は、12か月の期間を通じて週に1~2日、S国にある彼女の自宅から働く。これは、その12か月の期間中の彼女の労働時間の30%に相当する。」
      • ここで、例AではR社によるS国での事業は「12か月の期間中の3か月間のみであるため、彼女が働くS国の場所は『一定(fixed)』」ではなく「恒久性を欠いている」と判断されるのに対して、例Bでは「彼女が働くS国の自宅は、その場所が12か月の期間を通じてR社の事業に関連する活動を行うために使用されており」、「恒久性を有している」。
    • つまり、”permanency”の基準とは、12か月の期間中ずっとその場所が『事業の場所』として確保されているかどうか、と理解した。(事業の性質等による短期的な使用について、既存のコメンタリー(パラグラフ28~34)を参照すべき点が川田/徳永P.87で指摘されている。)
  • ➁『勤務時間割合』
    • この『勤務時間割合』と次の『商業上の理由』は、追加コメンタリー44.6における「第5条第1項におけるPEを構成するためには、自宅等がa place of business of the enterpriseである必要がある」を判断するための要素として提示されている。
      • 44.6では単純に従業員等が事業に関連する活動を行うためにある場所を使用するというだけで自動的にその場所が「事業の場所」(川田/徳永P.87の訳語)であるという結論にはならない、とされている。
      • 続けて44.7では従業員等の自宅において事業に関連する活動を行った場合でも、その活動はintermittent or incidental(断続的ないし偶発的)であることが多く、その場合にはその場所が「事業の場所」となることはないと指摘する。しかし、一定の事実があればその場所が「事業の場所」と判定されるべきということになるかもしれないとして、提示されているのが➁『勤務時間割合』と➂『商業上の理由』である。
    • ➁『勤務時間割合』について、追加コメンタリー44.8で「当該事業年度に開始又は終了するいずれかの12か月においても、その個人が自宅等から勤務する時間が、その企業のための全労働時間の50%未満である場合は、その自宅等は一般に事業を行う場所とはみなされないとされ」(戸崎P.69)た。
    • この判断基準から、上記例Bは、➀『一定性』は満たすものの、➁『勤務時間割合』は「30%」であることから満足せず、PEには該当しないという結論となっている。
  • ➂『商業上の理由』
    • 上記➁『勤務時間割合』の条件に該当し、「個人が総労働時間の少なくとも50パーセントをその自宅又はその他の関連する場所で働く場合、企業が当該場所に事業の場所を有するか否かは、当該場所が所在する締約国において当該個人が行う活動に『商業上の理由』があるか否かで判断される。」(川田/徳永P.88)
    • この「商業上の理由」(”a commercial reason”)は、自宅等が所在する締約国におけるその個人の物理的存在(”the physical presence of the individual”)自体が企業の事業を推進(”facilitate”)する場合に、存在するものと判定される。(追加コメンタリー44.11)
    • 例えば、当該個人による、企業の顧客とのミーティング、新規得意先の開拓や新規事業機会の探索、異なる時間帯に所在する顧客等とのリアルタイムでの対応、事業に関連する専門知識へのアクセス等の活動を行う場合に「商業上の理由」が存在するとみなされる。(追加コメンタリー44.17)
    • これらの得意先等との「関与が断続的また付随的なものであるとき」、「当該個人の役務を確保又は維持するためにのみ自宅…で仕事することを認める場合」、「単にコスト削減(例えば、オフィススペースの支出削減)を目的として自宅…での仕事を許可する場合」等には「商業上の理由があるとはみなされない。」(川田/徳永P.89)