移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

「創って、作って、売る」の上位に位置するもの

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前回の記事の続きだが、別の観点から少し付け加えたい。

三品和広著「戦略不全の因果」(東洋経済新報社)の第4章「戦略の核心」は以下のような問題提起から始まる(P.102)。

企業の業績は、どのようにして決まるのであろうか。一般に企業の中では、何千人、何万人という従業員が、様々な部署に分かれて仕事に従事する。そのいずれもが、何らかの経路で企業の業績に影響を及ぼすことになる。ただし、そこには複雑な相互依存の関係が存在するため、利益を貢献度に応じて個々の従業員や部署に分解することなど、ほぼ不可能と考えた方がよい。

この指摘そのものは前回の記事において指摘した、「創って、作って、売る」のサイクルのうちの特定機能(主として開発機能)のみを重視する移転価格税制の執行はおかしいのではないか、という点に近いように思われる。

しかし、三品先生は上記に続けて、日常のマネジメントや戦術的な意思決定よりも高次の次元において企業業績を決めるのが戦略であると主張されている。すなわち、戦略が「利益の理論的な上限値」(P.104)を決めるものであるのに対して、「管理」はその「利益の理論的な上限値から実績値がどこまで落ちるのかを決める」(P.104)ものであると。そしてその戦略の最たるものは「事業立地」、「平たく言えば『誰を相手に何を売るか』」(P.109)の選定である、とのことである。

このような「利益の理論的な上限値」は戦略によって決定されてしまう、という「決定論的な経営観」(P.125)からすれば、前回の記事で書いたことを覆すようだが、「事業立地」を決める、という最高度の経営の意思決定に起因する利益・損失については、移転価格税制上の各国・各社間の利益配分を考える上で、その意思決定をしたグループ会社(基本的にはグループの親会社と考えられる)に帰属させるべきのように思った。そして、その「最高度の経営の意思決定に起因する利益・損失」を除いた利益・損失については、どの機能がどれだけ貢献をしたか、ということは到底決めきれないので、「人間の頭脳」が存在するところに割り切って配分・課税したらよいのではないだろうか。

 

では、グループの連結利益(あるいは損失)のうち、経営の意思決定にいくらを配分し、「日常のマネジメントや戦術的な意思決定」を行った各機能の集合体にいくらを配分したらよいのだろうか。それについては、残念ながらアイディアを持ち合わせてはいないが、例えば、連結営業利益率の一定範囲外の部分(高利益、及び大幅な損失)は経営の意思決定に起因するものなので親会社に帰属させ、一定範囲内に収まる部分の利益・損失は各機能のオペレーションに起因するものなのでグループ会社(親会社もオペレーションを実施しているのであれば、親会社も含む)に帰属させる、と割り切ることであろうか。

ただ、これを書きながら、「結局これってTNMMではないか?」という思いも抱き始めている。単に、現状のTNMMが親会社に超過利益・損失を帰属させる理屈が間違っているだけではないか。研究開発機能が特定のグループ会社(例えば親会社)に存在するから、開発の結果生まれた無形資産がそのグループ会社に存在するから、超過利益・損失をそのグループ会社に帰属させるべき、なのではなく(研究開発機能も「創って、作って、売る」のなかの一機能に過ぎない)、そのグループ全体にとっての究極的な判断である『誰を相手に何を売るか』を、リスクをとって意思決定しているからこそ、その決定を行ったグループ会社(通常は親会社)にその果実ないしロスを享受・負担させるべき、なのではないだろうか。