移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

2023-01-01から1年間の記事一覧

2023年中に読めなかった移転価格本5冊

「今年読んだ本の中でのベスト〇冊」という記事は多々あり、個人的には年末に出てくるそのような新聞、雑誌、ブログは大好きなのだが、ここでは、Austin Kleonの以下の記事を真似して、今年読みたかったが、読めなかった、移転価格関係の本を5冊、挙げておき…

利益分割法の適用を避けるために

日系多国籍企業グループにおける大きな傾向として、海外子会社の機能が10年、20年以上前と比較して格段に強化されつつあるように感じる。これには業種、業態によって様々な要因があると思われるが、個人的には日本親会社、もっと言えば日本人社員だけでは立…

市場の圧力を社内に引き込む(西口敏宏「遠距離交際と近所づきあい」より)

移転価格そのものというよりも、管理会計や社内での業績評価について。 西口敏宏「遠距離交際と近所づきあい―成功する組織ネットワーク戦略」NTT出版、2007年(以下「本書」)において、フラクタル連鎖(fractal links)というものが説明されている:「フラ…

Amount B続き_公開協議文書への意見書(勉強用メモ⑥)

OECDが2023年7月17日に公表した第1の柱/利益Bに係る公開協議文書(PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT Pillar One – Amount B 17 July 2023 –1 September 2023、以下「公開協議文書」という)については、すでに各所で解説されているので、ここではその中の気に…

「OECD移転価格ガイドライン」第4章別添Ⅰ(低リスクサービスについてのCA間覚書例)

「国際税務」2023年9月号におけるジョーンズデイ法律事務所 井上康一先生による「移転価格税制についての素朴な疑問23 無形資産取引について何に留意すべきか(5)」において、「OECD移転価格ガイドライン」第4章別添Ⅰ「二国間セーフハーバーにかかるCA間覚…

「世界標準の経営理論」からの示唆⑤(取引費用理論は独立企業間原則を否定する)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第5回。 今回は「第7章 取引費用理論(TCE)」を対象とする。 まず、取引費用理論の概要については、入山先生の本書ではなく、菊澤研宗「…

「見えざる資産」

まずは経営学者ではない方による説明。平川克美「ビジネスに『戦略』なんていらない」洋泉社新書より。(下線は当記事筆者。) ひとことで言ってしまえば、お客さんと向き合って、喜んでもらえるという交換の基本を忘れないようにしようよ、ビジネスの全ての…

「世界標準の経営理論」からの示唆④(ポジショニングと移転価格)

前回の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com RBVにおける「価値があり、稀少性があるとされる企業リソース」が移転価格における無形資産の概念と対応するとするならば、SCPにおける産業属性やポジショニングは、移転価格税制上、どのように取り扱われてい…

「世界標準の経営理論」からの示唆③(経営学のRBVと移転価格の無形資産)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第3回。 今回は「第3章 リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を対象とする。 要約 「完全競争から、独占の方向に自社の競争環境・強みを持…

「経営指導の対価を収受していますか?」

森貞夫 東京国税局調査第一部国際監理官による「国際課税の動向と執行の現状」と題する講演内容をまとめたものが『租税研究』2023年8月号、P.81 -123に掲載されている。税務に関するコーポレートガバナンスから最近の国際課税の動向まで、様々な興味深いトピ…

「世界標準の経営理論」からの示唆②(収益性は要素還元できない)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第2回。 今回は「第2章 SCP理論をベースにした戦略フレームワーク」を対象とする。 要約(一部のみ) ・SCPのフレームワークの一つである…

「世界標準の経営理論」からの示唆①(完全競争と超過利潤ゼロ)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)という800ページ超の分厚い本がある。題名の通り、移転価格税制とは全く関係のない本ではあるのだが、非常に面白く、無理を承知で、これを読み進めながら、移転価格税制のあれこれについて考えてみる、…

移転価格事務運営要領3-10(企業グループ内における役務提供の取扱い)の再確認

当時の東京国税局調査第一部国際監理官 古川勇人氏による講演内容を取りまとめた『租税研究』2006年5月の記事、「国際課税に関する課題ー企業グループ内の役務提供に関する移転価格問題ー」(P.97‐105)を読みながら、移転価格事務運営要領 3-10(以下引用)…

管理会計との悩ましい関係④(二つの取引価格)

国税庁は、2012年4 月からの「税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組」の一環として行ってきた「移転価格上の税務コンプライアンスの維持・向上に向けた取組」のなかで、移転価格上の問題の発生を防止する上で有益と考える7項目を整理した「…

管理会計との悩ましい関係③

管理会計と移転価格の関係を考える3回目。以下の論文をもとに考えてみた。 市場哲也「取引単位営業利益法の影響を受ける業績評価の適正化への示唆:管理会計の観点からの移転価格課税理論の分析」『産研論集』49号、2022年3月20日、P75-87 利益獲得の機会を…

外‐外取引の拡大?

雑誌『国際税務』2023年4月号に掲載された以下論考に基づいて、考えてみたい。 Asia Wise会計事務所 税理士 高野一弘、公認会計士 山﨑耕平、弁護士 久保光太郎「バーチャル組織の実践課題 第6回(最終回)5年後の組織考察」(以下「Asia Wise論考」「当論考…

管理会計との悩ましい関係②

管理会計と移転価格の関係を考える2回目。以下の論文をもとに、少し考えてみた。 梅田浩二「移転価格税制が海外子会社の分権化に及ぼす影響」『原価計算研究』Vol.37 No.2、2013、P.170-181(以下「梅田2013」) 梅田浩二「日系多国籍企業の国際振替価格管理…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ⑥)

これまでPillar 1のAmount B(以下では「利益B」と表記する)について、以下を含む3回触れてみたが、2022年12月8日にOECDが利益Bについての公開討議文書を公表したとのことなので、以下の3つの資料をもとに、概要をメモしておく。 tpatsumoritaira.hatenablo…

管理会計との悩ましい関係

移転価格税制と管理会計の関係は、事業会社の中では非常に悩ましい問題である。移転価格税制、管理会計の専門家は、それぞれがそれぞれの観点からのみ論じること、また、センシティブな領域であることから他社と事例を共有し合うことが憚られることから、各…

[固定記事]本の目次

『移転価格税制の実務研究ノート』という本を作るイメージで、記事をまとめてみました。(まとめてみると、まだまだ自分の知識の抜け漏れが多いと感じました。) はじめに 移転価格税制と寄附金 TNMMの論点 独立企業間原則/TNMMへのアンチテーゼ 役務提供取…

「文書化」の重要性

税務調査で聞かれることから逆算して日々の業務を行っておく必要がある、ということについて。 例1:価格調整 例2:役務提供取引 「文書化」とは 例1:価格調整 例えば、国外関連者との棚卸取引があり、その棚卸取引の移転価格算定方法がTNMMであると想定し…

本社費の個別回収②(頼まれていなくても…)

以下2つの続き、というか補足。 グループ内役務提供取引の基本 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com) 本社費の個別回収 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com) あらためて、役務提供取引となるかどうかの基本的な判断基準となる移転…

国外関連者寄附金のポイント再確認

内国法人の国外関連者間取引を検討する際に、順序としてまずは寄附金規定が優先され、寄附金に該当しないことが明らかになった後に、移転価格税制についての検討が行われることは、以下の説明や「参考事例集」で明らかである。 「条文上、国外関連取引につい…