移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

本社費の個別回収②(頼まれていなくても…)

以下2つの続き、というか補足。

グループ内役務提供取引の基本 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com)

本社費の個別回収 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com)

 

あらためて、役務提供取引となるかどうかの基本的な判断基準となる移転価格事務運営要領3-10を確認する。下線部分がその判断基準。

移転価格事務運営要領3-10(企業グループ内における役務提供の取扱い)
(1) 次に掲げる経営、技術、財務又は営業上の活動その他の法人が行う活動が国外関連者に対する役務提供に該当するかどうかは、当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうかにより判断する。具体的には、法人が当該活動を行わなかったとした場合に、国外関連者が自ら当該活動と同様の活動を行う必要があると認められるかどうか又は非関連者が他の非関連者から法人が行う活動と内容、時期、期間その他の条件が同様である活動を受けた場合に対価を支払うかどうかにより判断する。
イ 企画又は調整
ロ 予算の管理又は財務上の助言
ハ 会計、監査、税務又は法務
ニ 債権又は債務の管理又は処理
ホ 情報通信システムの運用、保守又は管理
へ キャッシュ・フロー又は支払能力の管理
ト 資金の運用又は調達
チ 利子率又は外国為替レートに係るリスク管理
リ 製造、購買、販売、物流又はマーケティングに係る支援
ヌ 雇用、教育その他の従業員の管理に関する事務
ル 広告宣伝

同じことが「OECD移転価格ガイドライン2022年版」7.6にも以下の通り「便益テスト」として記載されている。下線部は裏返しの言い方だが、判断基準の補足としてわかりやすい。

B.1 企業グループ内役務提供が行われたか否かの決定
B.1.1 便益テスト

7.6 独立企業原則の下では、グループのあるメンバーによってグループの他のメンバーのために活動が行われた時に企業グループ内役務提供が行われたか否かという問題は、その活動がグループの個々のメンバーに対して、商業上の地位を高める又は維持するために、経済上又はビジネス上の価値を提供するか否かで決定されるべきである。これは、比較可能な状況にある独立企業が、その活動が独立企業によって行われる場合にその対価を支払うか、又は自分自身のために自らその活動を行うかについて検討することによって決定することができる。独立企業がその活動に対して、対価を支払ったり、自社内で行ったりしない場合は、通常、独立企業原則の下での企業グループ内役務提供としてみなされるべきではない。

ここでの役務提供の認定の判断に当たっては、国外関連者側から同一グループ内の内国法人(例えば親会社)に対して依頼があったかどうかは一義的には関係がない、という点に注意が必要である。もちろん依頼があって、その依頼に対して親会社が行う活動は明らかに役務提供に該当することになるが、依頼がなかったとしても、「当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうか」、「具体的には、法人が当該活動を行わなかったとした場合に、国外関連者が自ら当該活動と同様の活動を行う必要があると認められるかどうか又は非関連者が他の非関連者から法人が行う活動と内容、時期、期間その他の条件が同様である活動を受けた場合に対価を支払うかどうか」により判断する必要がある。

依頼の有無で判定できればわかりやすいのだが、依頼がなかったとしても、グループ会社側で受益があれば対価の回収が必要という点が、親会社からグループ会社への役務提供があったかどうかの判定上ややこしいように感じている。なぜなら、親会社の機能の一つには、本来的にグループ全体の業務設計、指導というものが備わっているからであり、極端に考えると、(移転価格事務運営要領3-10(3)の株主活動を除く)親会社のすべての活動が(親会社自身への貢献部分を除いては)何らかの形でグループ会社に便益をもたらすはずである(少なくとも便益をもたらすという意図の下で行われている)。この点はすでに以下の記事で触れているのでこれ以上繰り返さないが、実務上の悩ましさがある。

本社費の個別回収 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com)

 

ちなみに、グループ内役務提供に係る独立企業間価格の算定方法として、5%のマークアップを使用する簡易的な方法が使用できる「低付加価値企業グループ内役務提供」について、「OECDガイドライン」7.49では以下のような業務が「低付加価値役務」に該当するとして列挙されている。これらはあくまで「低付加価値役務」に該当するものだけなので、上記親会社からグループ会社への役務提供の全体像を示したものではないが、親会社からグループ会社への役務提供の相当部分をカバーしているものでもあるように思う。

7.49 以下の項目は、パラグラフ 7.45 に示した低付加価値役務の定義に該当すると考えられる役務の例である。

・ 会計及び監査、例えば、財務諸表に使用する情報の収集と確認、会計記録の保持、財務諸表の作成、業務監査及び会計監査の準備又は支援、会計記録の真偽及び信頼性の鑑定、データ蓄積と情報収集による予算作成支援

売掛金及び買掛金勘定の処理及び管理、例えば、顧客又は依頼人に対する請求情報の収集並びに信用管理の確認及び処理

 

・ 以下のような人事業務
- 採用と配置、例えば、採用手続き、応募者の評価並びに人事選考及び任用の支援、新規採用者研修、業績評価とキャリア設定支援、従業員解雇手続の支援、余剰人員対応の支援
- 研修及び従業員の能力開発、例えば、研修ニーズの開拓、内部研修や能力開発プログラムの作成、経営スキルとキャリア開発プログラムの作成
- 報酬関連事務のサービス、例えば、健康保険や生命保険、ストックオプション、年金制度等の従業員の報酬及び福利厚生に関する助言の提供と方針の決定、出勤及び時間管理の確認、給与計算と税務コンプライアンスを含む給与関連事務サービス
- 従業員の健康管理手続、安全性及び雇用に関連する環境基準の開発並びにモニタリング

・ 健康、安全、環境その他事業規制基準に関する情報のモニタリング及び収集

・ グループの主要な活動ではない、情報技術(IT)サービス、例えば、事業で使用する IT システムの導入、保持及び更新、情報システム支援(会計、生産、カスタマーリレーションズ、人事及び給与、E メールシステムに関連して使用される情報システムが含まれるかもしれない)、情報システムの使用又はアプリケーション使用と情報の収集・処理・提示に使われる関連設備についての研修、IT ガイドラインの策定、通信サービスの提供、IT ヘルプデスクの設置、IT セキュリティシステムの実施と維持、IT ネットワーク(企業内ネットワーク、広域ネットワーク、インターネット)の支援・維持・監督

・ 内部及び外部コミュニケーションと広報支援(ただし、特定の宣伝及びマーケティング活動と、その基本となる戦略の構築を除く)

・ 法務サービス、例えば、契約書、合意書その他の法律文書の起案と見直し、法務的な相談と助言、会社の代表(訴訟、仲裁委員会、行政手続)、法的調査及び無形資産の登録と保護のための法律・行政上の作業等の社内法務部門による一般的な法務サービス

・ 税務関係業務、例えば、納税申告についての情報収集と申告書の作成(法人税、売上税、付加価値税(VAT)、固定資産税、関税及び物品税)、納付、税務当局による調査への対応、税務に関する助言

・ 管理又は事務的な性質の一般的役務

そして、この7.49での列挙はかなり具体的であり、イメージがしやすい。例えば、システム関連会社でない場合の、親会社ITサービス部門の活動のほとんどはグループ内の役務提供に該当し、(親会社所在部門への貢献部分を除いて)グループ各社からの対価の回収が必要となることがわかる。そして繰り返しだが、それは「便益テスト」のみから判断されるものであり、グループ各社からそのようなITサービスについての依頼があったかどうかは関係ないと理解している。