移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

移転価格

リスクと不確実性

松原隆一郎「改訂版 経済政策(放送大学大学院教材)」放送大学教育振興会において、リスクと不確実の違いが以下の通り説明されている。 F.ナイトによれば、リスクは雨が降る確率のような統計的な概念で、過去のデータの蓄積から何が起きるのか、頻度ないし…

移転価格読書術⑤(トランプ関税)

トランプ関税を巡る記事より。もう少し深く考えたいが、とりあえず備忘として。 ■2025年3月29日朝日新聞 佐伯啓思「異論のススメ 市場経済 剝がされる擬装」 トランプ氏が自由貿易体制を破壊したのではなく、グローバリズムのもとですでに自由貿易体制がうま…

「リスクを引き受ける」とは?

以下の記事で読んでいた、小森敦「海外論文紹介 リスク・コントロール、DEMPE機能とR&Dサービス・プロバイダーへの対価」『租税研究』2022年1月号(Michael McDonald, Eyal Gonen, Leonid Karasik, ”Control Over Risk, DEMPE Functions, And the Remunerati…

内部振替価格の基本

内部振替価格の原理原則的なところをあらためて勉強してみる。(原理原則的なところにおいては、一旦、海外取引/移転価格税制による制約はないものとして考える。) 以下の本を使用する。(以下、特に断らない限り、ページ数は引用元となる本書のページ数を…

CUP法のおさらい

あらためて、独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Pricing Method, CUP法)のおさらいをしておきたい。 CUP法の定義 CUP法の優先性 実際の適用場面及び内部比較対象取引 CUP法の定義 まず、租税特別措置法第66条の4第2項第1号イでCUP法の定義を確認する…

移転価格事案(2023年12月7日東京地裁)の判決書を読む

「移転価格税制でTNMMの適用可否を巡り争われた訴訟に裁判所の判決が示されたのは…初」(下記PwC税理士法人の記事より)とされる事案について、以下の裁判所のホームぺージに掲載されている判決書を、下記解説記事を拝見しながら読んでみたい。(判決書とい…

「OECD移転価格ガイドライン」の英単語②

以下の記事に引き続いての2回目。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 今回取り上げたい単語はdelineate。(「移転価格ガイドライン」の用例として取り上げた英語は「OECD移転価格ガイドライン2022年版」(OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational …

「OECD移転価格ガイドライン」の英単語①

「OECD移転価格ガイドライン2022年版」(OECD Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations 2022)(以下「移転価格ガイドライン」)に出てくる英単語の勉強をしてみたい。移転価格関連の英語と言えば、専門用語であ…

Pillar Oneは独立企業原則の終わりの始まり

前回の記事の補足、というか続きとして、Cooper, G. (2021). Building on the Rubble of Pillar One. Bulletin for International Taxation, 75(11-12), 533-542.という論考を簡単に取り上げたい。内容としては「OECD/G20 Inclusive Framework on Base Erosi…

諸富徹著「税という社会の仕組み」(ちくまプリマ―新書)「第4章 これからの世界と税金」

以前に以下の記事で取り上げた諸富教授の著作(以下「グローバルタックス」)に続き、新刊の筑摩書房 税という社会の仕組み / 諸富 徹 著 (chikumashobo.co.jp)を拝読(以下「税という社会の仕組み」)。 tpatsumoritaira.hatenablog.com ここでは「税という…

株主活動費用の二つのアプローチ(続き)

前回記事の続き。OECDガイドライン7.10の中の、株主活動費用の例示に続く記載にて言及のある報告書「1984年報告書」(“1984 Report”、正式にはTransfer Pricing and Multinational Enterprises – Three Taxation Issues (1984))において、株主活動費用の範…

1984 Reportー株主活動費用の二つのアプローチ

親会社の活動費用として、グループ各社に請求する対象とすべきかどうかの判断の線引き上問題になる「株主活動費用」については、これまで何度か考えてきた*1が、今回は、以下の『国際税務』の記事にて言及されている「1984年報告書」の該当箇所を見てみたい…

委託契約とはリスク引受契約

以下の前回記事の続きとして、藤澤鈴雄「移転価格課税における本質的問題」『租税研究』2009年9月P.276-296のなかの、移転価格税制におけるリスクの概念について書かれている部分を読んでみたい。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 独立企業間のリスク引き受…

アドビ事件のおさらい②(リスクの負担から考えると…)

この記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 同じ改変事例(以下の商流図)で考える。参照文献及び文献番号も前記事を引き継ぐ。以下に再掲。 ①藤枝純・角田信広著「移転価格税制の実務詳解(第2版)」中央経済社(特にP.158~164) ②海老原宏美「独立…

移転価格はリスク負担が10割か?

「国際税務」2023年9月号におけるジョーンズデイ法律事務所 井上康一先生の「移転価格税制についての素朴な疑問23 無形資産取引について何に留意すべきか(5)」にて参照されている論文、小森敦「海外論文紹介 リスク・コントロール、DEMPE機能とR&Dサービス…

残余利益分割法とリスクの負担

以下の3つの文献をもとに、残余利益利分割法の適用を巡って争われた日本ガイシ事件を題材に、残余利益分割法について、実務を中心に勉強してみたい。(すでに一度文献①をもとに考えてみたが、文献②③も拝読し、再度考えてみたい。) 文献①:田島宏一、西村憲…

独立企業間価格の立証責任

「国際税務」2023年12月号の外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上康一先生の解説記事「移転価格税制についての素朴な疑問26 移転価格文書化制度にはどう対応すべきか(1)」にある以下の記述(Ⅲ2(4)(a))は当然のことなのかもしれない…

複数年度データ②

この記事で書いたことの続きを考えてみたい。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 上記記事では、検証対象法人の利益率を単年度/複数年度のどちらの損益を用いて算定するか、そして比較対象取引も同様に単年度/複数年度のどちらを用いるか、なので、以下4通り…

利益分割法の適用を避けるために

日系多国籍企業グループにおける大きな傾向として、海外子会社の機能が10年、20年以上前と比較して格段に強化されつつあるように感じる。これには業種、業態によって様々な要因があると思われるが、個人的には日本親会社、もっと言えば日本人社員だけでは立…

Amount B続き_公開協議文書への意見書(勉強用メモ⑥)

OECDが2023年7月17日に公表した第1の柱/利益Bに係る公開協議文書(PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT Pillar One – Amount B 17 July 2023 –1 September 2023、以下「公開協議文書」という)については、すでに各所で解説されているので、ここではその中の気に…

「OECD移転価格ガイドライン」第4章別添Ⅰ(低リスクサービスについてのCA間覚書例)

「国際税務」2023年9月号におけるジョーンズデイ法律事務所 井上康一先生による「移転価格税制についての素朴な疑問23 無形資産取引について何に留意すべきか(5)」において、「OECD移転価格ガイドライン」第4章別添Ⅰ「二国間セーフハーバーにかかるCA間覚…

「世界標準の経営理論」からの示唆⑤(取引費用理論は独立企業間原則を否定する)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第5回。 今回は「第7章 取引費用理論(TCE)」を対象とする。 まず、取引費用理論の概要については、入山先生の本書ではなく、菊澤研宗「…

「世界標準の経営理論」からの示唆③(経営学のRBVと移転価格の無形資産)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第3回。 今回は「第3章 リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を対象とする。 要約 「完全競争から、独占の方向に自社の競争環境・強みを持…

「経営指導の対価を収受していますか?」

森貞夫 東京国税局調査第一部国際監理官による「国際課税の動向と執行の現状」と題する講演内容をまとめたものが『租税研究』2023年8月号、P.81 -123に掲載されている。税務に関するコーポレートガバナンスから最近の国際課税の動向まで、様々な興味深いトピ…

「世界標準の経営理論」からの示唆②(収益性は要素還元できない)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第2回。 今回は「第2章 SCP理論をベースにした戦略フレームワーク」を対象とする。 要約(一部のみ) ・SCPのフレームワークの一つである…

「世界標準の経営理論」からの示唆①(完全競争と超過利潤ゼロ)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)という800ページ超の分厚い本がある。題名の通り、移転価格税制とは全く関係のない本ではあるのだが、非常に面白く、無理を承知で、これを読み進めながら、移転価格税制のあれこれについて考えてみる、…

移転価格事務運営要領3-10(企業グループ内における役務提供の取扱い)の再確認

当時の東京国税局調査第一部国際監理官 古川勇人氏による講演内容を取りまとめた『租税研究』2006年5月の記事、「国際課税に関する課題ー企業グループ内の役務提供に関する移転価格問題ー」(P.97‐105)を読みながら、移転価格事務運営要領 3-10(以下引用)…

管理会計との悩ましい関係③

管理会計と移転価格の関係を考える3回目。以下の論文をもとに考えてみた。 市場哲也「取引単位営業利益法の影響を受ける業績評価の適正化への示唆:管理会計の観点からの移転価格課税理論の分析」『産研論集』49号、2022年3月20日、P75-87 利益獲得の機会を…

外‐外取引の拡大?

雑誌『国際税務』2023年4月号に掲載された以下論考に基づいて、考えてみたい。 Asia Wise会計事務所 税理士 高野一弘、公認会計士 山﨑耕平、弁護士 久保光太郎「バーチャル組織の実践課題 第6回(最終回)5年後の組織考察」(以下「Asia Wise論考」「当論考…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ⑥)

これまでPillar 1のAmount B(以下では「利益B」と表記する)について、以下を含む3回触れてみたが、2022年12月8日にOECDが利益Bについての公開討議文書を公表したとのことなので、以下の3つの資料をもとに、概要をメモしておく。 tpatsumoritaira.hatenablo…