移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

移転価格

委託契約とはリスク引受契約

以下の前回記事の続きとして、藤澤鈴雄「移転価格課税における本質的問題」『租税研究』2009年9月P.276-296のなかの、移転価格税制におけるリスクの概念について書かれている部分を読んでみたい。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 独立企業間のリスク引き受…

アドビ事件のおさらい②(リスクの負担から考えると…)

この記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 同じ改変事例(以下の商流図)で考える。参照文献及び文献番号も前記事を引き継ぐ。以下に再掲。 ①藤枝純・角田信広著「移転価格税制の実務詳解(第2版)」中央経済社(特にP.158~164) ②海老原宏美「独立…

移転価格はリスク負担が10割か?

「国際税務」2023年9月号におけるジョーンズデイ法律事務所 井上康一先生の「移転価格税制についての素朴な疑問23 無形資産取引について何に留意すべきか(5)」にて参照されている論文、小森敦「海外論文紹介 リスク・コントロール、DEMPE機能とR&Dサービス…

残余利益分割法とリスクの負担

以下の3つの文献をもとに、残余利益利分割法の適用を巡って争われた日本ガイシ事件を題材に、残余利益分割法について、実務を中心に勉強してみたい。(すでに一度文献①をもとに考えてみたが、文献②③も拝読し、再度考えてみたい。) 文献①:田島宏一、西村憲…

独立企業間価格の立証責任

「国際税務」2023年12月号の外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上康一先生の解説記事「移転価格税制についての素朴な疑問26 移転価格文書化制度にはどう対応すべきか(1)」にある以下の記述(Ⅲ2(4)(a))は当然のことなのかもしれない…

複数年度データ②

この記事で書いたことの続きを考えてみたい。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 上記記事では、検証対象法人の利益率を単年度/複数年度のどちらの損益を用いて算定するか、そして比較対象取引も同様に単年度/複数年度のどちらを用いるか、なので、以下4通り…

利益分割法の適用を避けるために

日系多国籍企業グループにおける大きな傾向として、海外子会社の機能が10年、20年以上前と比較して格段に強化されつつあるように感じる。これには業種、業態によって様々な要因があると思われるが、個人的には日本親会社、もっと言えば日本人社員だけでは立…

Amount B続き_公開協議文書への意見書(勉強用メモ⑥)

OECDが2023年7月17日に公表した第1の柱/利益Bに係る公開協議文書(PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT Pillar One – Amount B 17 July 2023 –1 September 2023、以下「公開協議文書」という)については、すでに各所で解説されているので、ここではその中の気に…

「OECD移転価格ガイドライン」第4章別添Ⅰ(低リスクサービスについてのCA間覚書例)

「国際税務」2023年9月号におけるジョーンズデイ法律事務所 井上康一先生による「移転価格税制についての素朴な疑問23 無形資産取引について何に留意すべきか(5)」において、「OECD移転価格ガイドライン」第4章別添Ⅰ「二国間セーフハーバーにかかるCA間覚…

「世界標準の経営理論」からの示唆⑤(取引費用理論は独立企業間原則を否定する)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第5回。 今回は「第7章 取引費用理論(TCE)」を対象とする。 まず、取引費用理論の概要については、入山先生の本書ではなく、菊澤研宗「…

「世界標準の経営理論」からの示唆③(経営学のRBVと移転価格の無形資産)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第3回。 今回は「第3章 リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を対象とする。 要約 「完全競争から、独占の方向に自社の競争環境・強みを持…

「経営指導の対価を収受していますか?」

森貞夫 東京国税局調査第一部国際監理官による「国際課税の動向と執行の現状」と題する講演内容をまとめたものが『租税研究』2023年8月号、P.81 -123に掲載されている。税務に関するコーポレートガバナンスから最近の国際課税の動向まで、様々な興味深いトピ…

「世界標準の経営理論」からの示唆②(収益性は要素還元できない)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第2回。 今回は「第2章 SCP理論をベースにした戦略フレームワーク」を対象とする。 要約(一部のみ) ・SCPのフレームワークの一つである…

「世界標準の経営理論」からの示唆①(完全競争と超過利潤ゼロ)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)という800ページ超の分厚い本がある。題名の通り、移転価格税制とは全く関係のない本ではあるのだが、非常に面白く、無理を承知で、これを読み進めながら、移転価格税制のあれこれについて考えてみる、…

移転価格事務運営要領3-10(企業グループ内における役務提供の取扱い)の再確認

当時の東京国税局調査第一部国際監理官 古川勇人氏による講演内容を取りまとめた『租税研究』2006年5月の記事、「国際課税に関する課題ー企業グループ内の役務提供に関する移転価格問題ー」(P.97‐105)を読みながら、移転価格事務運営要領 3-10(以下引用)…

管理会計との悩ましい関係③

管理会計と移転価格の関係を考える3回目。以下の論文をもとに考えてみた。 市場哲也「取引単位営業利益法の影響を受ける業績評価の適正化への示唆:管理会計の観点からの移転価格課税理論の分析」『産研論集』49号、2022年3月20日、P75-87 利益獲得の機会を…

外‐外取引の拡大?

雑誌『国際税務』2023年4月号に掲載された以下論考に基づいて、考えてみたい。 Asia Wise会計事務所 税理士 高野一弘、公認会計士 山﨑耕平、弁護士 久保光太郎「バーチャル組織の実践課題 第6回(最終回)5年後の組織考察」(以下「Asia Wise論考」「当論考…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ⑥)

これまでPillar 1のAmount B(以下では「利益B」と表記する)について、以下を含む3回触れてみたが、2022年12月8日にOECDが利益Bについての公開討議文書を公表したとのことなので、以下の3つの資料をもとに、概要をメモしておく。 tpatsumoritaira.hatenablo…

管理会計との悩ましい関係

移転価格税制と管理会計の関係は、事業会社の中では非常に悩ましい問題である。移転価格税制、管理会計の専門家は、それぞれがそれぞれの観点からのみ論じること、また、センシティブな領域であることから他社と事例を共有し合うことが憚られることから、各…

「文書化」の重要性

税務調査で聞かれることから逆算して日々の業務を行っておく必要がある、ということについて。 例1:価格調整 例2:役務提供取引 「文書化」とは 例1:価格調整 例えば、国外関連者との棚卸取引があり、その棚卸取引の移転価格算定方法がTNMMであると想定し…

本社費の個別回収②(頼まれていなくても…)

以下2つの続き、というか補足。 グループ内役務提供取引の基本 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com) 本社費の個別回収 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com) あらためて、役務提供取引となるかどうかの基本的な判断基準となる移転…

国外関連者寄附金のポイント再確認

内国法人の国外関連者間取引を検討する際に、順序としてまずは寄附金規定が優先され、寄附金に該当しないことが明らかになった後に、移転価格税制についての検討が行われることは、以下の説明や「参考事例集」で明らかである。 「条文上、国外関連取引につい…

金融取引の移転価格の勉強③(規定等まとめ)

2022年6月の事務運営要領の改正を踏まえ、改正後の金融取引に係る移転価格税制に関連する規定等を単純に備忘メモとして貼り付けておく。 措置法通達 事務運営要領 3-7(金融取引) 3-8(金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合の留意事項) 別冊「事…

工場・販社の無形資産とは

今村隆「移転価格税制についての最近の裁判例と諸問題ーデジタル課税における同税制の今後の役割」(『租税研究』2019年8月号、P219-246)に基づき、多国籍企業グループの製造子会社、販売子会社における無形資産について考えてみたい。 東京地裁平成29年11…

井藤正俊著「移転価格の実務Q&A」(清文社)

移転価格の書籍、あるいはより広く、税務の本には珍しく、「主張がある」本のように感じた。個人的には税法の解説を粛々とされるだけよりも、当局側の課税実務や会社側の実務についての説明・紹介、より深い理解のための視点・材料の提示がある本が好きであ…

アドビ事件のおさらい①(販売会社から役務提供会社への再編)

アドビ事件について、以下の本及び論文を用いて考えてみたい。 ①藤枝純・角田信広著「移転価格税制の実務詳解(第2版)」中央経済社(特にP.158~164) ②海老原宏美「独立企業原則の限界と修正ーアドビ事件を題材としてー」(2013年、「租税資料館賞受賞論文…

田島宏一、西村憲人(編著)、南繁樹著「移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ」(中央経済社)

直近で(2022年7月)刊行された移転価格の本。移転価格の本は少し前は続々と出版されていたような気がするが、最近は落ち着いていたので、久しぶりで嬉しい。 以前に取り上げた以下の本の田島先生が共著者であり、内容的にも移転価格と海外寄附金を合わせて…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ⑤)

ここまでAmount Bについて、以下2回かじってみたが、実務上の疑問点に軽く触れておきたい。 tpatsumoritaira.hatenablog.com tpatsumoritaira.hatenablog.com 以下の図のような親会社Pを中心とした同一多国籍企業グループ内での商製品・ロイヤリティ取引を想…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ④)

前回の記事ではPillar Oneのうち、Amount Bの概要に触れたが、今回はAmount Bについての以下の論文を読んでみたい。 Michael C. Durst, "A Simplified Method for Taxing Multinationals for Developing Countries: Building on the 'Amount B' Proposal to …

Amount B(Pillar One勉強用メモ③)

Pillar Oneの勉強の続き。 Pillar Oneのうち、Amount Bについては、「既存の移転価格税制を簡素化し、新興国の税務執行の便宜を図るという点において新しいにすぎない」*1と評価され、注目度は低いように感じている。 また、Statement on a Two-Pillar Solut…