移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

移転価格

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ④)

前回の記事ではPillar Oneのうち、Amount Bの概要に触れたが、今回はAmount Bについての以下の論文を読んでみたい。 Michael C. Durst, "A Simplified Method for Taxing Multinationals for Developing Countries: Building on the 'Amount B' Proposal to …

Amount B(Pillar One勉強用メモ③)

Pillar Oneの勉強の続き。 Pillar Oneのうち、Amount Bについては、「既存の移転価格税制を簡素化し、新興国の税務執行の便宜を図るという点において新しいにすぎない」*1と評価され、注目度は低いように感じている。 また、Statement on a Two-Pillar Solut…

事前確認の勉強

以下の資料、特に「資料①」をメインに、ユニラテラルAPAとバイラテラルAPAを比較しながら、事前確認について、勉強のメモを残しておきたい。 大野雅人「論説 事前確認の法制化は何故必要なのか」筑波ロー・ジャーナル16号(2014年5月)(以下、「資料①」) …

「アイデアを生み出したプロセスは集団に帰属する」(Pillar One勉強用メモ②)

前回の記事の続きとして、Pillar Oneの意義を考えるために、鈴木将覚 専修大学教授の昨年末の日経新聞解説記事(2021年12月20日「法人課税 国際合意の意義(上)デジタル化でルール大転換」)の内容を以下の通り、まとめてみた。「経済のデジタル化は伝統的…

機能と関数

移転価格とは全く関係のない分野の本からの脱線です。 中谷礼仁「近代建築史講義」(インプレスト)より、建築の世界におけるモダニズム、そして機能主義が説明されている部分からの抜粋(P.176)。 機能主義はモダニズムの中心的思想のひとつであり、その解…

金融取引の移転価格の勉強②

以前の金融取引の移転価格に関する記事で日本の移転価格税制における取り扱いをみた後の補足として、最後に、OECDが公表した金融取引に関する移転価格ガイドラインについて、以下の通り記載した。 OECDが2020年2月に公表した金融取引に係る移転価格ガイダン…

根源的欲求としての「領域侵犯」とTNMM

脱線します。過去に書いたことの繰り返しかもしれませんが。 建築家の伊東豊雄は、菅付雅信「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)の中で、過去の自身の「モダニズム建築は一枚の壁によって内と外をは…

経済産業省「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書を読む(Pillar Two勉強用メモ)

経済産業省が2021年8月19日に「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書(以下「中間報告書」)を公表している。当研究会は「経済のデジタル化が加速する中、我が国企業の競争力強化及び経済活性化に資する公正な国際課税の在り方を検討するため…

無形資産の定義の勉強②

前回の記事の続き。「無形資産の会計上の定義と、移転価格税制上の定義は同じなのか、それとも異なるのか?異なるとすれば、どこが異なるのか?」について、勉強する。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 目次 3. 結局、違いは? 4. どのような場面でこの定義…

無形資産の定義の勉強①

「無形資産の会計上の定義と、移転価格税制上の定義は同じなのか、それとも異なるのか?異なるとすれば、どこが異なるのか?」について、勉強の過程を残しておきたい。 目次 1. 会計上の定義 企業結合における無形資産 PPAプロセスにおける無形資産の定義 PP…

移転価格課税を受けた場合の相互協議の手続き

日本または国外関連者の所在国で移転価格課税を受けた場合の相互協議の手続きについて、以前の記事でも取り上げたEY税理士法人編「BEPS対応 移転価格文書化の実務入門」(中央経済社)の「5.4 租税条約に基づく救済手続」に沿って、その根拠条文を見ていきた…

金融取引の移転価格の勉強

金融取引の移転価格について、これまであまり実務上考えることがなかったが、いい機会があったので、少し勉強してみた。 ■関連条文 OECDが2021年8月3日に公開したTransfer Pricing Country Profilesにおける日本のCountry Profileを見ると、金融取引について…

複数年度データ

TNMMで検証対象法人の利益率と、比較対象取引の利益率(レンジ)とを比較する際に、この双方の利益率は単年度損益を元に算定するのか、それとも複数年度損益を元に算定するのか、という論点がある。実務上遭遇する典型的な場面は、移転価格文書を作成すると…

Courseraを受講する②(Apple Case)

前回の記事で、Courseraの Rethinking International Tax Lawという講義を受講したことを書いた。そのなかで、4週目のTransfer pricingの講義の中に、アップル社の租税回避が取り上げられたApple Caseという小トピックがあり、解説動画に続けて、以下3点の…

OECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(2)

前回の記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 今回はOECDによる「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」の「第2章」について(及び最後に自分としてのまとめも)。前回同様、以下、「本ガイダンスからの抜粋(下…

OECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(1)

OECDによる「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(Guidance on the transfer pricing implications of the COVID-19 pandemic)の仮訳(及び原文へのリンク)が国税庁ホームページに掲載されている。(以下、「(本…

取引単位のもやもや

役務提供取引やロイヤリティ取引を考える上で、実務上悩ましい問題の一つが、「役務提供取引、ロイヤリティ取引は棚卸取引と一体化できるのか?」という問題である。この点について、考えてみたい。 ■事案例及び論点 事案例として使用するのは、国税庁が提供…

ロイヤルティ(無形資産の使用料)取引の基本

前回の役務提供取引に引き続き、実務の基本的な勉強として、ロイヤルティ(無形資産の使用料)取引についてのメモをまとめる。もとにさせて頂いたのは前回同様、佐和周著「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」中央経済社と、佐和周著「海外取引の経…

グループ内役務提供取引の基本

実務の勉強として、知らないわけではないが、体系的には勉強してこなかったグループ内役務提供取引についてのメモをまとめる。もとにさせて頂いたのは佐和周著「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」中央経済社、佐和周著「海外取引の経理実務 ケース…

歴史は繰り返す、か?

以下の日系企業に対する移転価格税制についてのアンケート調査結果の上位回答は、どこの国を念頭に置いた回答だと思われるだろうか。 明確な基準がないままに税務当局の判断により所得の増額更正が行われるおそれがある 商品の利益率が低い場合や欠損会社の…

フォーミュラ方式がキラリ☆

以前に多国籍企業の取引コスト節約の観点から移転価格税制、とりわけ独立企業間原則について考える記事を書いたが、その後読んだ海老原宏美「独立企業原則の限界と修正ーアドビ事件を題材としてー」(2013年、「租税資料館賞受賞論文集22(中)」pp,3-105(…

利益分割法(の難しさ)にまつわるエトセトラ

今回は大沢拓・牛島慶太・平野潤一・梶巻重幸・坂本安孝編著「移転価格ローカルファイル 作成実務と実践上の留意点」(清文社)を取り上げたい。 2017年6月に国税庁は「移転価格ガイドブック」を発表しており、その中で庁はローカルファイル(LF)の具体的な…

取引コストと移転価格

■取引コスト 松岡真宏著「持たざる経営の虚実」(日本経済新聞出版社)において、松岡さんは「『持たざる経営』や『選択と集中』という、ある種の減量経営的なスローガン」(P.3)に対して、「経済学者のロナルド・コースの『取引コスト(Transaction cost)…

角田信広著「BEPS移転価格文書の最終チェック Q&A100」(中央経済社)

BEPS最終報告書を受けた日本の平成28年度税制改正における新しい移転価格文書の最初の提出が2018年3月以降、行われることになるタイミングである2017年12月に出版された本書では、その最初の提出に向け、各国税務当局の関心を引いてしまう「落とし穴」(P.1…

伊藤雄二・萩谷忠著「Q&A 移転価格税制のグレーゾーンと実務対応」(税務経理協会)

題名の通り、実務上悩ましいケースを取り上げて、それに対して回答をする、という形式で構成されている。初心者の最初の本としては難しすぎると思うが、実務上、直面する問題が多くなってきてから手にとると良さそう。自分自身の業務で直面するケースと似た…

森信夫編「移転価格の経済学」(中央経済社)

これもカバーを紛失。 前に取り上げた『移転価格の経済分析』を「バイブル」の一つと紹介したが、続編にあたる本書も同じ。『移転価格の経済分析』と同様に、実務上の気付きが非常に多い本であったが、その中から2点のみ、取り上げたい。 ■TNMMの限界 「ポ…

EY税理士法人編「BEPS対応 移転価格文書化の実務入門」(中央経済社)

これ一冊で文書化対応だけでなく、移転価格対応は十分ではないか、と思うほど、実務対応者にとってはありがたい本。書名の通り、文書化(マスターファイル、国別報告書、ローカルファイルの作成方法)がメインであり、これらの文書の作成にあたってかなり参…

NERAエコノミックコンサルティング編「移転価格の経済分析」(中央経済社)

カバーがなくなってしまったので、背表紙を撮影。 本書は今から10年以上前、BEPSプロジェクト以前の2008年に発行されており、その間に移転価格税制には変わったところもあるものの、依然として、実務において非常に有用な、ある意味で個人的な「バイブル」の…

GMT移転価格税理士事務所編、田島宏一著「海外寄附金と移転価格税制の実務」(税務研究会出版局)

移転価格税制を勉強していくとぶつかる壁の一つに、移転価格税制と国外関連者寄附金との関係の問題がある。実務上はその関係を理解する上で参照できる、唯一に近い本として重宝している。 ■移転価格税制と国外関連者寄附金の関係・違い 両者の関係・違いは、…