移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

GMT移転価格税理士事務所編、田島宏一著「海外寄附金と移転価格税制の実務」(税務研究会出版局)

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移転価格税制を勉強していくとぶつかる壁の一つに、移転価格税制と国外関連者寄附金との関係の問題がある。実務上はその関係を理解する上で参照できる、唯一に近い本として重宝している。

■移転価格税制と国外関連者寄附金の関係・違い

両者の関係・違いは、本書を読み通して、以下の通り理解した。(ここの記述に限らないことだが、あくまでも、私個人の理解であり、正確なところはきちんと本そのもの、ないし条文にあたって頂きたい。)

  • 寄附金は「時価」が基準とされる。(移転価格税制の場合は、「独立企業間価格」が基準。)
  • しかし、「時価」とは何か、は法令上明示されていない。(独立企業間価格の算定方法は法令上、提示されている。)
  • 一方で、「グループ間契約などで取引価格が定められている場合には、そこで定められている価格が確定債権となるため、契約上定められた金額の未回収があれば、その確定債権の免除が寄附金の額とされるものと考えられます。」(P.22)つまり、納税者自らが対価を決定したのに、それを回収していない、ということは「贈与の意思がある」とみなされる。(移転価格税制の場合は、「意思」は関係なく、実際の適用価格と独立企業間価格とで比較される。)
  • 実務上、気になるのは上記引用部分の「グループ間契約などで取引価格が定められている場合」。例えば、契約書上は具体的な取引価格は明示していないが、別途グループ内のルール・基準で取引価格の計算方法が定められている場合も該当するのか?(基本的には該当すると理解している。)
  • また、「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」【事例25】(国外関連者に対する寄附金)の解説からの以下引用(本書ではP.78、なお、本書発行時は【事例25】であるが、本記事執筆時は【事例28】)を読むと、国外関連者との取引は、①まずは国外関連者寄附金の検討が行われる、その上で、②寄附金の問題がない、ということになれば、移転価格税制の観点からの検討が行われる、と理解した。つまり、まずはすべて国外関連者寄附金の検討から始まる、と。

    すなわち、法人が国外関連者との取引に係る収益を計上していない場合において、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められるときには、当該法人が収益として計上すべき金額は国外関連者に対する寄附金となり、措置法第66 条の 4 第 3 項(国外関連者に対する寄附金の損金不算入)の規定の適用を受けることとなる(事務運営指針 3‐20 イ)。

    一方、こうした検討により、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められない場合には、当該取引は移転価格税制に基づく課税の対象として取り扱うこととなる。

     

 ■国税不服審判所における裁決事例や裁判における判決例

裁決事例・判決例は、移転価格税制のようにグレーな領域が存在する税制では参考になることが指摘されている。「自社が抱える問題に類似するものを参考にすることにより、自社の判断の論拠にしたり、税務調査において税務当局からの課税案への反証に用いたりするのに有用な場合もあります。」(P.119)

本書では事例7-4、7-5という価格調整金の寄附金該当性が争われた2つの事例が実務上、参考になると思った。特に「契約・覚書において、取引価格については発注量、経済事情に応じて価格を変更する旨が定められて」(P.147)いたことが、「期末における取引価格の修正は寄附金に該当しない」(同)という判決につながった7-5が参考になる。