移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

独立企業間価格の立証責任

「国際税務」2023年12月号の外国法共同事業 ジョーンズ・デイ法律事務所 弁護士 井上康一先生の解説記事「移転価格税制についての素朴な疑問26 移転価格文書化制度にはどう対応すべきか(1)」にある以下の記述(Ⅲ2(4)(a))は当然のことなのかもしれないが、不勉強でこれまであまり意識してこなかった。記事の中の注釈も参照しながら、確認していきたい。

本来、独立企業間価格に関する立証責任は、税務当局(国)が負うが、かかる推定課税がなされると、立証責任が納税者に転換されることになる。

 

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まず、この点に関して、本記事注13では東京高裁令和元年7月9日 訟務月報65巻12号1745ページ(上村工業事件)参照、とのことであり、以下がその該当箇所と思われる部分である(下線は本ブログ記事筆者)。

東京高裁令和元年7月9日 訟務月報65巻12号1745ページ以下

措置法66条の4第1項を適用した更正処分が適法であるためには,処分の対象である国外関連取引が特定され,その特定された国外関連取引について「支払を受ける対価の額」が独立企業間価格に満たないことが必要である。課税要件事実については,処分が適法であることを主張する被控訴人にその立証責任があるから,課税要件事実である「国外関連取引」の特定とその特定された国外関連取引における「支払を受ける対価の額」については,被控訴人が主張立証しなければならず,その立証がない場合には,処分は取り消されなければならない。

ここで控訴人は移転価格課税を受けた会社側、被控訴人は課税を行った税務当局側。

 

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次に、ローカルファイルの規定が導入される前の推定課税の根拠条文となっていた租税特別措置法66条の4第7項についての判決文が、大野雅人「移転価格課税における文書化義務と推定課税」(「筑波ロー・ジャーナル15号(2013:11)」)に引用されていたことから、元の判決文に遡って、以下の通り確認した(下線は本ブログ記事筆者)。推定課税制度は、本来的には税務当局側に独立企業間価格の立証責任があるところ、納税者側の協力が得られない場合には納税者に立証責任を負わせる、「立証責任の転換を定めた規定である」、ということ。

東京地裁 平成19年(行ウ)第149号 平成23年12月1日判決

租特法66条の4第7項は,推定による課税の制度を設けているが,これは,主として,国外関連取引における独立企業間価格の算定の根拠となる帳簿書類等の提示又は提出についての納税者の協力を担保する趣旨で設けられたものである。すなわち,独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等の入手は,国外関連者からのものを含めて移転価格税制の適用に必要不可欠のものであり,そのような帳簿書類等の提供又は提出について納税者側からの協力が得られない場合に,税務当局が何の手だてもなくこれを放置せざるを得ないということになれば,移転価格税制の適正公平な執行が不可能となることから,推定による課税の制度が設けられたものと解される。

…同項に基づく推定課税の制度の趣旨は前記(1)アのとおりであり,同項の構造は,独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等が提示又は提出されなかった場合に,課税庁において「推定」した一応独立企業間価格と認められる金額を基に更正処分等をできるものとしつつ,納税者側が適正な独立企業間価格の立証をすることによりその推定を破ることを認めるというものであることからすれば,この規定は,納税者側の書類の不提示,不提出という事情が存する場合に,独立企業間価格の立証責任を課税庁側ではなく納税者側に負わせることとする一種の立証責任の転換を定めた規定であると考えられ…

 

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最後に、藤巻一男「我が国の移転価格税制における推定課税について」税大論叢42号、平成15年6月30日も見ておきたい。(以下引用はP.100より。注釈50もあわせて引用する。下線は本ブログ記事筆者。)

課税処分の適否を争う訴訟において実体法上の違法が争われる場合、租税債権の存在を主張する課税庁側が立証責任を負うものと解される(50)。推定課税の場合も、その適法性や合理性を基礎付ける事実については、被告である課税当局が立証責任を負うものと考えられる。 
 
(50)松澤智『新版 租税争訟法-異議申立てから訴訟までの理論と実務』中央経済社
(2001)420頁によれば、「課税処分の適否を争う訴訟において実体上の違法が争わ
れる場合には租税債務の存否を争う訴訟にほかならないので、実質上は民事訴訟
債務不存在確認訴訟に類するのであるから、租税債権の存在を主張する課税庁側が
立証責任を負うものと解すべきである。最高裁判所所得税の課税について所得の
存在およびその金額について課税庁が立証責任を負うと判示している(最判昭38.
3.3訟務月報9巻5号668項)」とされる。