移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

国外関連者寄附金のポイント再確認

内国法人の国外関連者間取引を検討する際に、順序としてまずは寄附金規定が優先され、寄附金に該当しないことが明らかになった後に、移転価格税制についての検討が行われることは、以下の説明や「参考事例集」で明らかである。

  • 「条文上、国外関連取引についてまず寄附金課税の適用の有無を検討し、その適用が認められない場合に初めて移転価格税制の適用の有無を検討するものと理論的に整理できます」(藤枝純・角田信広著「移転価格税制の実務詳解(第2版)」中央経済社、P.236-237)。

  • 「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」【事例28】(国外関連者に対する寄附金)≪解説≫

    すなわち、法人が国外関連者との取引に係る収益を計上していない場合において、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められるときには、当該法人が収益として計上すべき金額は国外関連者に対する寄附金となり、措置法第66 条の 4 第 3 項(国外関連者に対する寄附金の損金不算入)の規定の適用を受けることとなる(事務運営指針 3‐20 イ)。
    一方、こうした検討により、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められない場合には、当該取引は移転価格税制に基づく課税の対象として取り扱うこととなる。

 

ジョーンズ・デイ法律事務所の井上康一先生は、上記の適用順序について、『国際税務2022年2月号』の「移転価格税制についての素朴な疑問④ 国税庁は移転価格課税と寄附金課税をどのように区別しているか(2)」において同様の確認をした上で、さらに、近時の裁判例も踏まえた国税庁の寄附金課税の要件についての見解を、内国法人と国外関連者間の資産の売買取引をもとに、以下の通り要約している。(『国際税務』当記事Web版のP16~17より。)

①譲渡対価が譲渡時の時価よりも低額で、(時価よりも高額で買い入れた場合も同様…当記事筆者補足)かつ
②通常の経済取引として是認できる合理的理由が不存在と認定できる場合
にはもっぱら寄附金課税の問題として取り扱い、移転価格税制の適用は考えない…

この時、内国法人側に国外関連者への「贈与の意思」があれば、上記2要件が満たされることになり当然寄附金課税がなされるが、「贈与の意思」が認められない場合においても、「これらの要件が満たされる限り…寄附金課税の問題として取り扱われる」(『国際税務』当記事Web版のP17)と指摘する。

これまで、寄附金課税のポイントは「贈与の意思」であると考えてきた。例えば、田島宏一「海外寄附金と移転価格税制の実務」税務研究会出版局の以下の指摘。

…寄附金規定においては、贈与の意思があったか否かにより寄附行為と認定するか否かという点が実務上も重視されています。(P.73)

…寄附金課税を想定した税務調査においては、グループ間契約書やメール、稟議書等の社内文書の中から意図的な経済的利益の贈与があったことを立証することになると思われます。(P.75)

つまり「贈与の意思」を示す社内資料等がなければ寄附金課税は課税実務上成立し辛いと考えてきたが(もちろんそれらが存在していれば寄附金課税は成立しやすいが)、それだけではない、ということをあらためて認識した。

 

「贈与の意思」がそもそも存在していないことは当然のこととして、①の要件である「時価よりも低額」(あるいは買い入れ取引であれば時価よりも高額)ということは「時価」の概念の不明確さと相まって一概には決まりづらいことも合わせて考えると、寄附金課税の論点は、かなりの程度、②「通常の経済取引として是認できる合理的理由」があるかどうか、に掛かってくると理解した。

すなわち「通常、利益の最大化を目的とする法人であれば、直接又は間接的に利益の向上につながるものでなければ支出を行わないものと考えられ」(田島P.18)るところ、直接・間接の「反対給付」を目的としない支出は「経済合理性のない支出」として損金として認められない、ということである。

そして、さらに井上先生は「移転価格税制についての素朴な疑問⑤ 国税庁は移転価格課税と寄附金課税をどのように区別しているか(3)」(『国際税務2022年3月号』、当記事Web版のP2)において「国(課税庁)が『通常の経済取引として是認できる合理的理由』の不存在の立証責任を負う」ものの、法人税調査等の場面において課税庁側が①について疑義を抱いている時に会社側が何らの説明をしなければ、課税庁は合理的理由がないと推定してしまうので、「納税者たる法人としては、このような事実上の推定を避けるため、通常の経済取引として是認できる合理的理由の有無を慎重に吟味した上で、その存在を裏付ける資料等を用意し、適時に提出できるようにしておく必要がある」(同記事Web版P4)と指摘する。

つまり、会社側としては「合理的理由」があることを説明・主張すればよい。さらに、日々の国外関連者との取引を検討するに当たって、「納税者としては…独立当事者間で行われる通常の経済取引とできるだけ乖離しないような法形式や取引条件の採用を心掛けるべきである」(同記事Web版P11)し、実務上の観点としては、いかにその取引に経済合理性があるかを、後々の調査等の場面で説明できるように、会社側は明示的に残しておく(社内決裁の記録、経営レベルの会議体の資料や議事録、契約書等)ことが課税庁、会社側の双方にとってスムーズな調査対応につながることになりそうである。