移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

金融取引の移転価格の勉強③(規定等まとめ)

2022年6月の事務運営要領の改正を踏まえ、改正後の金融取引に係る移転価格税制に関連する規定等を単純に備忘メモとして貼り付けておく。

 

措置法通達

66の4(8)-5(金銭の貸付け又は借入れの取扱い)

金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式(固定又は変動、単利又は複利等の金利の設定方式をいう。)、利払方法(前払い、後払い等の利払方法をいう。)、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることを要することに留意する。(平12年課法2-13「二」により追加、平16年課法2-14「二十八」、平23年課法2-13「二」、令元年課法2-10「三十八」により改正)

(注) 国外関連取引の借手が銀行等から当該国外関連取引と同様の条件の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を比較対象取引における利率として独立企業間価格を算定する方法は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法となることに留意する。

 

事務運営要領

3-7(金融取引) 

法人と国外関連者との間で行われた金銭の貸借取引その他の金融取引(以下「金融取引」という。)について調査を行う場合には、次に掲げる事項に留意し、措置法通達66の4(3)-3に掲げる諸要素等に基づいて、当該金融取引の通貨、時期、期間その他の当該金融取引の内容等を的確に把握し、移転価格税制上の問題の有無を検討する。

(1) 法人と国外関連者との間で行われた金銭の貸借取引について調査を行う場合には、措置法通達66の4(8)-5(金銭の貸付け又は借入れの取扱い)の諸要因に配意すること。

(注)1 基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)の適用がある金銭の貸付けについては、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱う。

2 国外関連取引において返済期日が明らかでない場合には、当該金銭貸借の目的等に照らし、金銭貸借の期間を合理的に算定する。

(2) 法人と国外関連者との間で行われた債務保証等(一方の者による他方の者の債務の保証その他これに類する行為をいう。以下同じ。)について調査を行う場合には、当該債務保証等の対象である債務の性質及び範囲並びに当該債務保証等が当該法人又は当該国外関連者に与える影響に配意すること。

(注) 債務保証等が法人又は国外関連者に与える影響について検討する場合には、例えば、債務保証等を行った一方の者が、当該債務保証等の対象である債務の主たる債務者である他方の者がその債務を履行しない場合に当該他方の者に代わってその履行をする法的な責任を負っているかどうか、当該債務保証等により当該他方の者の信用力が増しているかどうかを検討する。

(3) 金融取引に関連して、法人及び国外関連者が属する企業グループのキャッシュ・フロー、支払能力及び為替リスクの管理並びに資金の調達及び運用その他の財務上の活動(これらの活動に付随して行われる利害関係者間の調整、代理その他の活動を含む。)を当該法人又は当該国外関連者が行っている場合の当該活動の取扱いについて検討を行うに当たっては、3-10及び3-11の取扱いも踏まえて行うこと。

(注) 当該活動を通じて移転される当該法人及び当該国外関連者の資金残高を含む当該活動に係る全体の状況に配意し、当該活動を通じて当該法人及び当該国外関連者が意図的に協調することにより生ずる当該企業グループ内の相互作用により当該法人及び当該国外関連者の支払うべき利息の減少又は受け取るべき利息の増加その他の便益(以下「相互作用による共通便益」という。)が生じているかどうかの検討も行うことに留意する。

 

3-8(金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合の留意事項)

金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合には、3-7による検討を踏まえ、次に掲げる事項に留意し、4-1に基づき金融取引の対価の額が最も適切な方法(措置法第66条の4第2項に規定する「最も適切な方法」をいう。以下同じ。)により算定されているか検討する。

(1) 金融取引に係る比較対象取引を現実に行われる取引の中から見いだすことが困難な場合で、金融市場における利率その他の現実に行われる取引に依拠した客観的な指標(以下「市場金利等」という。)で当該金融取引と通貨、時期、期間、信用力その他の比較可能性に影響を与える要素が同様の状況の下にあるものにより当該金融取引に係る比較対象取引を想定することができるときは、当該市場金利等を用いて想定した取引を比較対象取引とすることができること。

(2) 取引の当事者に係る信用力の比較可能性を検討する場合には、当該当事者の信用格付その他の信用状態の評価の結果を表す指標(以下「信用格付等」という。)を用いることができること。

(注)1 例えば、金銭の貸借取引の借手が企業グループに属している事実のみを理由として、当該借手に当該事実がなかったとした場合の信用格付等と比較して高い信用格付等が与えられるときのように、取引の当事者が企業グループに属している事実のみを理由とした付随的な便益(以下「付随的便益」という。)が生じている場合があるが、当該付随的便益自体に対価が発生するものではないことに留意する。

2 信用格付等を基に取引の当事者に係る信用力の比較可能性を判断する場合には、法人又は国外関連者が企業グループに属していないとした場合の単独の信用格付等を基に判断するのではなく、付随的便益を加味した結果引き上げられた高い信用格付等を基に判断することに留意する。

(3) 例えば、金銭の貸借取引に係るリスクを管理するための能力を有していない、又は意思決定の機能を果たしていない、単に資金の提供を行うだけの貸手に対して借手が対価を支払う場合には、銀行間取引金利金利スワップレート又は国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率その他スプレッド(一方の者が他方の者の信用リスクを引き受ける場合に得るべき利益に相当する利率等(金利その他これに類する指標をいう。以下3-8において同じ。)をいい、当該一方の者が当該信用リスクを引き受ける場合の管理費用その他の費用に相当する部分及び当該信用リスクに相当する部分を含む。以下3-8において同じ。)が零の、又は概ね零に近い市場金利等(以下「リスクフリー利率」という。)を用いて想定した取引を比較対象取引とすることができること。

(4) リスクフリー利率にスプレッドを加算した利率等を用いて想定した取引を比較対象取引として用いることができること。

(5) 非関連者である銀行等に照会して取得した見積り上の利率又はスプレッドのように現実に行われる取引に依拠しない指標は、市場金利等には該当しないこと。

(注) 法人が現実に行われる取引に依拠しない指標を用いて想定した取引を比較対象取引として国外関連取引に係る対価の額を算定している場合であっても、そのことのみをもって当該国外関連取引について措置法第66条の4第1項の規定の適用がある場合に該当することにはならないことに留意する。

(6) 法人と国外関連者との間で行われた債務保証等については、例えば、次に掲げる事項を勘案して想定した取引を比較対象取引とすることができること。

イ 債務保証等の対象である債務の主たる債務者が、当該債務保証等が行われていないとした場合と当該債務保証等が行われた場合のそれぞれにおいて当該債務に係る債権者に対して支払うべき利息その他これに類する支払いに係る利率等の差

ロ 債務保証等の対象である債務の不履行が生ずる場合に当該債務保証等を行った者が負担するべき損失の額(当該債務の不履行が生ずる確率を勘案して算定される損失の額をいう。)の当該債務の額に対する割合

ハ 一方の者が金銭を支払い、これに対してあらかじめ定めた第三者の信用状態に係る事由(債務の不履行その他これに類する事由をいう。)が生じた場合に、他方の者が金銭を支払うことを約するデリバティブ取引に係るスプレッドのうち当該債務保証等の対象となる債務に係る信用リスクと同様の信用リスクに相当するもの

(7) 金融取引に関連する財務上の活動について独立企業間価格の検討を行う場合において、3-7(3)の検討により相互作用による共通便益が生じていると認められるときは、当該相互作用による共通便益の額が独立企業原則に即して当該法人及び当該国外関連者に適切に配分されているか検討する必要があること。

(注) 相互作用による共通便益の額が独立企業原則に即して法人及び国外関連者に適切に配分されているかどうかは、例えば、当該法人及び当該国外関連者それぞれの当該相互作用による共通便益の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて配分されているかどうかにより検討することができることに留意する。

 

別冊「事例集」【事例4】の≪前提条件2:金銭の貸借取引の場合≫

≪解説≫

1 2 省略

3 取引の当事者に係る信用力の比較可能性を検討する場合には、当該当事者の信用格付その他の信用状態の評価の結果を表す指標(以下「信用格付等」という。)を用いることができる(事務運営指針 3‐8(2))。

検討の対象となる信用力は原則として借手の信用格付等を用いることになるが、例えば、国外関連取引における借手が、企業グループの主力事業と顧客基盤に密接に関わっており、企業グループの収益の面で大きな位置を占めていることによって企業グループにおける重要度において貸手と同程度である等当該借手と貸手の信用力が大きく異ならないと認められるような場合には、当該貸手の信用格付等を用いて独立企業間価格を算定することができるときがある。 また、国外関連取引における借手が、外部信用格付機関の信用格付を得ていない場合であっても、公開の財務ツール等から当該国外関連取引における借手と同様の信用力を有する企業に付されるであろう信用格付を算定できる場合には、当該信用格付を用いて独立企業間価格を算定することができるときがある。

4 国外関連取引の借手及び貸手が非関連者と行う内部の比較対象取引が見いだせない場合でも公開データベース等から外部の比較対象取引が把握できる場合がある。また、金銭の貸借取引に係る比較対象取引が把握できない場合には、当該借手又は貸手と業種、規模及び信用格付等が類似する法人が発行する社債の利回り等を用いて独立企業間価格を算定することができるときがある。

5 金銭の貸借取引に係る比較対象取引を現実に行われる取引の中から見いだすことが困難な場合で、金融市場における利率その他の現実に行われる取引に依拠した客観的な指標(以下「市場金利等」という。)で国外関連取引と通貨、時期、期間、信用力その他の比較可能性に影響を与える要素が同様の状況にあるものにより比較対象取引を想定することができるときは、当該市場金利等を用いて想定した取引を比較対象取引とすることができる(事務運営指針 3‐8(1))。

例えば、公開されている銀行間取引金利金利スワップレート又は国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率その他スプレッドが零の、又は概ね零に近い市場金利等(リスクフリー利率)にスプレッドを加算した利率等を用いて想定した取引を比較対象取引として用いる方法が挙げられる(事務運営指針 3‐8(4))。

なお、非関連者である銀行等に照会して取得した見積り上の利率又はスプレッドのように現実に行われる取引に依拠しない指標は、市場金利等には該当しない(事務運営指針 3‐8(5))

 

「移転価格事務運営要領」(事務運営指針)の一部を改正する案に対する意見募集の結果について|e-Govパブリック・コメント

借手の信用格付けの評価に当たって、公開財務ツールから求める方法のほか、「格付機関が示している事業体のグループ内での位置付けから求める方法」が認められている。