移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

移転価格事務運営要領3-10(企業グループ内における役務提供の取扱い)の再確認

当時の東京国税局調査第一部国際監理官 古川勇人氏による講演内容を取りまとめた『租税研究』2006年5月の記事、「国際課税に関する課題ー企業グループ内の役務提供に関する移転価格問題ー」(P.97‐105)を読みながら、移転価格事務運営要領 3-10(以下引用)を再確認していきたい。なお、当記事における引用個所におけるページ数は当記事のページ数を示す。

 

(企業グループ内における役務提供の取扱い)

3-10
(1) 次に掲げる経営、技術、財務又は営業上の活動その他の法人が行う活動が国外関連者に対する役務提供に該当するかどうかは、当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうかにより判断する。具体的には、法人が当該活動を行わなかったとした場合に、国外関連者が自ら当該活動と同様の活動を行う必要があると認められるかどうか又は非関連者が他の非関連者から法人が行う活動と内容、時期、期間その他の条件が同様である活動を受けた場合に対価を支払うかどうかにより判断する。
イ 企画又は調整
ロ 予算の管理又は財務上の助言
ハ 会計、監査、税務又は法務
ニ 債権又は債務の管理又は処理
ホ 情報通信システムの運用、保守又は管理
へ キャッシュ・フロー又は支払能力の管理
ト 資金の運用又は調達
チ 利子率又は外国為替レートに係るリスク管理
リ 製造、購買、販売、物流又はマーケティングに係る支援
ヌ 雇用、教育その他の従業員の管理に関する事務
ル 広告宣伝
(注) 「法人が行う活動」には、法人が国外関連者の要請に応じて随時活動を行い得るよう定常的に当該活動に必要な人員や設備等を利用可能な状態に維持している場合が含まれることに留意する。

(2) 略

(3) 国外関連者の株主又は出資者としての地位を有する法人(以下(3)において「親会社」という。)が行う活動であって次に掲げるもの(当該活動の準備のために行われる活動を含む。)は、国外関連者に対する役務提供に該当しない。
イ 親会社が発行している株式の金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第16項(定義)に規定する金融商品取引所への上場
ロ 親会社の株主総会の開催、株式の発行その他の親会社に係る組織上の活動であって親会社がその遵守すべき法令に基づいて行うもの
ハ 親会社による金融商品取引法第24条第1項(有価証券報告書の提出)に規定する有価証券報告書の作成(親会社が有価証券報告書を作成するために親会社としての地位に基づいて行う国外関連者の会計帳簿の監査を含む。)又は親会社による連結財務諸表(措置法第66条の4の4第4項第1号に規定する連結財務諸表をいう。以下同じ。)の作成その他の親会社がその遵守すべき法令に基づいて行う書類の作成
ニ 親会社が国外関連者に係る株式又は出資の持分を取得するために行う資金調達
ホ 親会社が当該親会社の株主その他の投資家に向けて行う広報
ヘ 親会社による国別報告事項に係る記録の作成その他の親会社がその遵守すべき租税に関する法令に基づいて行う活動
ト 親会社が会社法(平成17年法律第86号)第348条第3項第4号(業務の執行)に基づいて行う企業集団の業務の適正を確保するための必要な体制の整備その他のコーポレート・ガバナンスに関する活動
チ その他親会社が専ら自らのために行う国外関連者の株主又は出資者としての活動 (注)1 例えば、親会社が国外関連者に対して行う特定の業務に係る企画、緊急時の管理若しくは技術的助言又は日々の経営に関する助言は、イからチまでに掲げる活動には該当しないことから、これらが(1)に定めるとおり当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものである場合((2)に該当する場合を除く。2において同じ。)には、国外関連者に対する役務提供に該当する。
2 親会社が国外関連者に対する投資の保全を目的として行う活動についても、(1)に定めるとおり当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものである場合には、国外関連者に対する役務提供に該当する。

(4) 略 
(5) 略

 

1. 「外‐外」取引の場合の注意

当記事における古川国際監理官の解説は上で引用した事務運営指針の現3-10についての解説ではなく、当時の2-10についての解説ではあるが、当時の2-10と現3-10とはその説明内容の趣旨は同じと考えられ、解説も現3-10についても当てはまるものと思われる。(下線は当記事筆者。)

(当記事筆者補足:事務運営指針の当時の2-10は)法人と国外関連者との間に契約関係がない場合であっても、このような役務提供があれば移転価格税制の対象となり、その対価についての検討が必要となることを明確化したものです。したがって、例えば、企業グループ内の棚卸資産取引が法人からみていわゆる「外ー外取引」となり、これを行う国外関連者と法人との間に契約上の取引関係がない場合であっても、国外関連者による製造活動、販売活動等に関して法人から事実上役務提供が行われていないかを考えてみる必要があります。 そのような役務提供として、製造活動に関しては、原材料の仕入れに関する支援、製造過程に関する技術的な支援、従業員の研修など、販売活動に関しては、顧客の確保、顧客との調整、広告宣伝に関する支援などが考えられます。このような役務提供については、無形資産の供与と考えられる場合もあるでしょうし、また、親会社等の機能として複数の国外関連者に対して一括して行われている場合には、いわゆるIGSとしての役務提供とも考えられます。(P.98)

買収した国外関連者などの場合には、買収後の商流が上記の通り、日本親会社を経由しない「外ー外取引」となることも多いと思う。また、買収会社であれば、もともと独立した会社として存在していたわけであり、独立会社としての必要な機能を一定備えていたはずである。

ここでの指摘は、そのような買収会社であっても、買収後、グループ内での重複機能の見直し等が買収後の時間の経過とともに進むことなどによって、日本親会社が本当に関与をしていない状態が維持されているのか、はよくよく実態を確認する必要がある、との警告と捉えた。親会社として何かしらの関与があるならば、その「関与」が、現3-10での大原則である「当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうか」、つまりその買収した子会社にとって受益のある活動になっていないかに注意する必要がある。

 

2. 親会社の機能としての役務

次の記事からの引用はIGSについて。(下線・強調は当記事筆者。)

次に、いわゆるIGSについてお話します。指針2-10により、企業グループの親会社等の機能として行われる経営、業務、事務管理上の役務についても、移転価格税制の対象となることが明確化されました。(P.100-1)

当時の2-10、現3-10が主として親会社の機能として行われる業務を対象としている、ということについては、明確に意識することがこれまでできていなかった。むしろ、親会社の本来的な機能としての業務であれば、グループ各社に受益のある活動であったとしても、移転価格税制上の役務提供取引として認識する必要がないものと思い込んでいた。そのような理解は誤りであり、あくまでも大原則である「当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうか」に従って判断するしかないということと認識をあらためた。

 

IGSについての説明の続きを引用する。(下線は当記事筆者。)

このような役務提供(当記事筆者注:当時の2-10で例示されている役務)も移転価格税制の対象となることについては、例えば、役務提供を行うための専門の子会社を設立し、これがグループ内の関連法人に対して役務提供を行うとすれば、その子会社は当然対価を収受することになることからも明らかだと思います。同じ役務提供を親会社の一部門が行った場合であっても、同様に対価の収受が必要となります。このように親会社等の機能として行される役務提供も移転価格税制の対象となることは、企業の皆様も既にご認識していただいていることと思います。(P.101)

ここでの「役務提供を行うための専門の子会社」とは、地域統括子会社や、シェアードサービスを専門とする子会社のことと思うが、これは非常に腑に落ちる説明である。地域統括子会社を置いていない地域のグループ会社については親会社からの「直接統治」になっているわけであるが、そのような場合には、地域統括子会社が自身の傘下会社に対して行っている場合の業務を、親会社自身が提供しているのではないか、という指摘と捉えた。あたかも地域統括会社の存在そのものが、IGSがグループ内に存在していることを顕在化させているようである。

 

3. 株主活動、按分計算

IGSについての説明の続き。現3-10(3)で「国外関連者に対する役務提供に該当しない」とされる株主活動は「非常に限定的」と強調されている。

…株主活動との区分が問題になることがあります。しかし、株主活動は非常に限定的なものだと考えています。(P.101)

OECDガイドラインも、役務提供を幅広く捉える一方、株主活動を非常に限定的に考えていることにご留意いただきたいと思います。(P.102)

 

また、共通費用の按分計算については、以下の通り説明されている(下線は当記事筆者)。合理的でありさえすれば、「それほど厳密である必要はなく簡便なものであってもよい」という指摘は、会社実務側からするとありがたい。

次に、共通費用の按分計算ですが、親会社等の機能として行う役務提供は法人自身のための業務、あるいは、国内の関係法人のための業務と同一のセクションにおいて行われることが少なくないと思います。また、複数の国外関連者に対して一体として行われることが少なくないと思います。 このような場合、国外関連者ごとに役務提供に要した費用を按分することが必要になります。…
なお、このような按分計算は合理的である必要はありますが、実務上、それほど厳密である必要はなく簡便なものであってもよいと考えています。(P.103)

 

 

今回取り上げた記事はかなり古いものであるが、「平成14年6月に指針2-10が設けられて」(P.103)3年強しか経過していない時点での当時の国税の見解は、企業実務担当者として悩みどころの多い役務提供取引を考える上で、非常に参考になるものと思う。