移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

2021-01-01から1年間の記事一覧

機能と関数

移転価格とは全く関係のない分野の本からの脱線です。 中谷礼仁「近代建築史講義」(インプレスト)より、建築の世界におけるモダニズム、そして機能主義が説明されている部分からの抜粋(P.176)。 機能主義はモダニズムの中心的思想のひとつであり、その解…

金融取引の移転価格の勉強②

以前の金融取引の移転価格に関する記事で日本の移転価格税制における取り扱いをみた後の補足として、最後に、OECDが公表した金融取引に関する移転価格ガイドラインについて、以下の通り記載した。 OECDが2020年2月に公表した金融取引に係る移転価格ガイダン…

根源的欲求としての「領域侵犯」とTNMM

脱線します。過去に書いたことの繰り返しかもしれませんが。 建築家の伊東豊雄は、菅付雅信「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)の中で、過去の自身の「モダニズム建築は一枚の壁によって内と外をは…

外国子会社合算税制の初歩の勉強

前回の記事で、外国子会社合算税制(以下、CFC税制)について、経済産業省の「第4回 デジタル経済下における国際課税研究会」の事務局資料P.27を引用掲示した。この資料がわかりやすかったことに触発され、CFC税制の初歩をもう少し勉強したい。 他の記事でも…

経済産業省「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書を読む(Pillar Two勉強用メモ)

経済産業省が2021年8月19日に「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書(以下「中間報告書」)を公表している。当研究会は「経済のデジタル化が加速する中、我が国企業の競争力強化及び経済活性化に資する公正な国際課税の在り方を検討するため…

無形資産の定義の勉強②

前回の記事の続き。「無形資産の会計上の定義と、移転価格税制上の定義は同じなのか、それとも異なるのか?異なるとすれば、どこが異なるのか?」について、勉強する。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 目次 3. 結局、違いは? 4. どのような場面でこの定義…

無形資産の定義の勉強①

「無形資産の会計上の定義と、移転価格税制上の定義は同じなのか、それとも異なるのか?異なるとすれば、どこが異なるのか?」について、勉強の過程を残しておきたい。 目次 1. 会計上の定義 企業結合における無形資産 PPAプロセスにおける無形資産の定義 PP…

移転価格課税を受けた場合の相互協議の手続き

日本または国外関連者の所在国で移転価格課税を受けた場合の相互協議の手続きについて、以前の記事でも取り上げたEY税理士法人編「BEPS対応 移転価格文書化の実務入門」(中央経済社)の「5.4 租税条約に基づく救済手続」に沿って、その根拠条文を見ていきた…

金融取引の移転価格の勉強

金融取引の移転価格について、これまであまり実務上考えることがなかったが、いい機会があったので、少し勉強してみた。 ■関連条文 OECDが2021年8月3日に公開したTransfer Pricing Country Profilesにおける日本のCountry Profileを見ると、金融取引について…

複数年度データ

TNMMで検証対象法人の利益率と、比較対象取引の利益率(レンジ)とを比較する際に、この双方の利益率は単年度損益を元に算定するのか、それとも複数年度損益を元に算定するのか、という論点がある。実務上遭遇する典型的な場面は、移転価格文書を作成すると…

PE勉強の続き⑤(PE帰属所得の計算)

PE

ここまでPEについて複数回にわたって勉強用のメモを作成してきたが、ここでは、PEを有する場合の外国法人に対する法人税の課税(国内法)について取り上げたい。 といっても、まさに一からの勉強になるので、すでに他の記事でも取り上げた以下の2冊の教科書…

PE勉強の続き④(代理人PE)

PE

これまでPEについては複数回(「手始め」、勉強①(国内法と租税条約)、 勉強②(サービスPE)、勉強③(準備的・補助的活動))に渡って、ごくごく基本的なところから勉強用のメモを作成してきたが、今回もその続き。今回取り上げたいのは「代理人PE」である…

PE勉強の続き③(準備的・補助的活動)

PE

これまでPEについては複数回(「手始め」、勉強①(国内法と租税条約)、勉強②(サービスPE))に渡って、ごくごく基本的なところから勉強用のメモを作成してきたが、今回もその続き。今回は、「PEから除外される特定の活動」である。 使用した文献は以下の2…

Courseraを受講する③(CSRと租税回避)

前々回、前回と2回続けて、Courseraの Rethinking International Tax Lawという講義を受講したことについて書いた。今回はこの講義で、Tax planning & ethical dimensions(タックスプランニングと倫理的な側面)という6週目(最終週)のテーマの必読文献と…

Courseraを受講する②(Apple Case)

前回の記事で、Courseraの Rethinking International Tax Lawという講義を受講したことを書いた。そのなかで、4週目のTransfer pricingの講義の中に、アップル社の租税回避が取り上げられたApple Caseという小トピックがあり、解説動画に続けて、以下3点の…

Courseraを受講する①

www.coursera.org Courseraという様々な大学のオンライン講義を提供しているサイトで、ある方が講義を受けられた経験を書いておられるブログを拝見して、税務に関連する講座はないか検索をしてみた。この時見つけた講義が、ライデン大学のProf. Dr. Sjoerd D…

ガブリエル・ズックマン著「失われた国家の富――タックス・ヘイブンの経済学」(NTT出版)

本書の原書は2013年にフランスで出版された一般向けの本とのことで、フランスの読者を意識してか、「タックス・ヘイブンの経済学」との副題であるが、焦点が当てられているのはヨーロッパ内のタックス・ヘイブンであるスイスとルクセンブルクである。 個人の…

炭素税の国境調整措置と移転価格税制への波及

2021年4月29日の日本経済新聞に「脱炭素『国境調整』の行方は」と題した記事(記事①)が掲載されたり、同紙5月4日「ニュースがわかる」では「加速する脱炭素 排出量取引の機運」という解説記事(記事②)が載るなど、カーボンプライシングを巡る議論が活発化…

「情報の歴史21」から読み取る国際税務の流れ

少し脱線します。 松岡 正剛 (監修), 編集工学研究所 (著, 編集), イシス編集学校 (著, 編集)「情報の歴史21: 象形文字から仮想現実まで」(以下、「本書」)を購入。アマゾンの紹介文からの抜粋は以下の通りで、簡単に言えば、日本史・世界史を跨った500ペ…

穴を掘って、穴を埋める

当ブログを始めるに当たって、最初の記事として以下の記事を書いた。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 要は当ブログは移転価格の専門書を自分で読み、それらを紹介する場として考えていたということで、しばらくはそのような趣旨に則った記事が多かった。し…

OECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(2)

前回の記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 今回はOECDによる「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」の「第2章」について(及び最後に自分としてのまとめも)。前回同様、以下、「本ガイダンスからの抜粋(下…

OECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(1)

OECDによる「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(Guidance on the transfer pricing implications of the COVID-19 pandemic)の仮訳(及び原文へのリンク)が国税庁ホームページに掲載されている。(以下、「(本…

移転価格税制と仕事と私――どこへ向かうのか?(2)

前回の記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com ■将来の法人課税のもう一つのあり方 前回の記事の論考①*1には、今後の法人課税のあり方として、仕向地主義課税とは別の方法も提示されている。このブログでも過去に言及したことのある「定式配賦」(フォ…

移転価格税制と仕事と私――どこへ向かうのか?(1)

移転価格税制分野を中心とした仕事を担当し始めてから数年になる。 幸いなことに、新たな仕事に興味を持つことができて、仕事の時間中はもちろんのこと、仕事の時間以外でも移転価格税制のことを考えたり、専門書を読み漁ったり、本では満足できずに論文にも…

日本からの各種支払い時の外国法人の課税関係(勉強)

仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局を教科書として、外国法人が「日本において何らかの活動をする場合にどのような課税関係が生じるか」(P.26-27)について勉強した。 これは「外国側当事者だけの問…

PE勉強の続き②

PE

前回は仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局の第2編「第1章 恒久的施設とは」(P.392~408)を読みながら、国内税法での定義と、日米租税条約の定めを対比させながら、自分の理解のためにまとめてみたが…

PE勉強の続き①

PE

以前に「PE勉強の手始めに」と題した記事を書いたが、今回はその続きというか、より体系的にPE課税の勉強をする必要に迫られ、そもそもPEとは何なのか、という初歩の初歩を仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究…

TNMM=「構想と実行の分離」?

今回も脱線します。 ■「構想と実行の分離」 2020年1月のEテレの「100分de名著」は、カール・マルクス『資本論』を取り上げていた。放送途中から斉藤幸平先生によるNHKテキストも買って、興味深くみていた。 放送とテキストの中で、特に興味を惹かれたのが、…

「変動ロイヤリティ」と価格調整金の交錯

国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「参考事例集」)の以下2つの事例が「交錯する」ところを検討してみたい。(といっても、答えには辿り着けず。以下ページ数は「参考事例集」のページ番号である。) 【事例6】(取引単位営業…

諸富徹著「グローバルタックス—―国境を超える課税権力」(岩波新書)

二年ほど前(2019年1月19日)の朝日新聞の天声人語は以下のような書き出しで始まっている。 「将軍たちは一つ前の戦争を戦う」という格言がある。指揮をとる者は、どうしても前回の戦争での経験をもとに戦略を立ててしまいがちだ。時代とともに技術や有効な…