移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

外国子会社合算税制の初歩の勉強

前回の記事で、外国子会社合算税制(以下、CFC税制)について、経済産業省「第4回 デジタル経済下における国際課税研究会」の事務局資料P.27を引用掲示した。この資料がわかりやすかったことに触発され、CFC税制の初歩をもう少し勉強したい。

他の記事でも、一から勉強をする際には以下の①②の2冊の教科書に従ったが、今回はこれら2冊に、文献③も加え、また、条文も追いかけていきながら、CFC税制の勉強のメモを残しておきたい。

  • 仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局、2019年(以下、文献①)
  • 増井良啓・宮崎裕子著「国際租税法(第4版)」東京大学出版会、2019年(以下、文献②)
  • 弘中聡浩「第11章 タックス・ヘイブン対策税制の現況と将来」(金子宏監修「現代租税法講座 第4巻国際課税」日本評論社、2017年所収)(以下、文献③)

 

目次

 

現行のCFC税制の概要

まずは上記経産省資料の図を、文献①②の内容を書き加えながら少しアレンジする形で、税制の概要を図にしてみた。これで概要の理解はできた(気がする)。

 

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CFC税制の沿革

  • 「租特66条の6*1・租特令39条の14以下が内国法人の法人税に関する特例」として日本のCFC税制を規定しており、「適用除外事由が存在しない外国子会社について、その会計処理を租税回避行為として否認し、その外国子会社の留保所得を内国親会社の所得とみなして課税するものである」(③P.292)。適用除外事由が存在しない、すなわち上図の経済活動基準を満たさない外国関係会社で発生している所得は「租税回避とみなされる」ということ。「CFC税制は本質的にラディカルな制度」であり、「立法担当者も、CFC税制が『見方によってはかなり強烈なものに映るかもしれない』と認めていた」とのこと(③P.296)。
  • 1978年に導入された当初の日本のCFC税制は、タックスヘイブンを個別に指定する軽課税国指定制度を採用。指定されていなかったオランダを利用する租税回避が問題となったが、オランダ単独での指定を回避するために、平成4年度税制改正において、個々の税負担の軽重によって判断する現在の制度に改正された。(③P.293)
  • 平成29年度税制改正(2017年)において、「租税回避リスクの把握を、外国子会社の租税負担割合により把握する制度から…所得や事業の内容によって把握する制度に改め」られた。(②P.186)
    *租税回避リスクが高いと考えられるペーパー・カンパニー等の場合には(租税負担割合20%以上であっても)合算課税の対象とした。
    *経済活動基準を満たす場合には、能動的所得は租税負担割合にかかわらず合算対象外。
    ペーパーカンパニー等に該当しない場合は租税負担割合20%以上の外国関係会社は適用免除。

CFC税制の制度趣旨および本質

  • CFC税制の制度趣旨として、これを課税繰延防止とみる見解があったが、平成21年度税制改正で外国子会社益金不算入制度が導入され、外国子会社から内国親会社への配当は日本で課税されないことになったため、現行法の解釈論としてはCFC税制を課税繰延防止と見ることは困難であり、租税回避否認規定とみることになる。(③P.295)「端的に日本の課税ベースの浸食への対抗措置としてこの制度をとらえる考え方が有力になった。」(②P.187)
  • CFC税制の本質についての現在の多数説は、CFC税制は、法人税法11条の所得の帰属では対応できない領域の租税回避を規制するために創設された特別立法であると解釈する立場。
  • 法人税法 第十一条(実質所得者課税の原則) 資産又は事業から生ずる収益の法律上帰属するとみられる者が単なる名義人であつて、その収益を享受せず、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益は、これを享受する法人に帰属するものとして、この法律の規定を適用する。
  • この立場のもと、「CFC税制が、納税者と課税庁との間に情報の非対称性が存在することにより課税庁が所得の存在を十分に立証できず、結果として所得の額が過少に表示されてしまうことから、外国子会社の所得を内国親会社の所得に加算することで、課税庁の負う立証の困難を排除するもの(推計課税類似の方法)であり、同税制は内国親会社の所得を算定するために、外国子会社の所得の額(として現れている額)を参照しているにすぎないとする見解(適正所得算出説)」が「現行法下では適切」(③P.298)。

適用除外事由

  • 「CFC税制が『かなり強烈…かもしれない』税制であっても合理性があると考えられてきたことの理由の一つは、税率の低い国における事業であっても、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつ、当該国で事業を行うことに十分な経済合理性がある場合には適用しないこと等を規定した適用除外事由が設けられていることにある。」「…合理的な適用除外事由がなければ租税条約に違反する可能性もある」と過去の判決でも指摘されており、「適用除外事由の有無とその適用方法は、実務上重要であるだけでなく、このようなCFC税制の合理性の根幹にもつながる問題」。(③P.303‐4)
  • 現行法の下では、対象外国関係会社に該当するか否かが、①能動的所得(まで課税されるか)と②受動的所得(だけの課税にとどまるのか)の重要な分かれ目になっている。(②P.191)
  • つまり、経済活動基準(租特法第66条の6第2項第3号*2)をすべて満たすのか、あるいは一つでも満たさないのか、がCFC税制の肝ということで、「適用除外基準の該当性については係争例が多い」(②P.191)。
  • 「適用除外を受けるためには、確定申告書に適用除外に該当することを記載するとともに、これを立証するために必要な一定の書類等を保存する必要がある。」(③P.304)
  • なお、会社単位の合算課税と受動的所得の合算課税は、「会社単位の合算課税がまず適用される。このことは部分対象外国関係会社の定義から読みとることができる(租特66条の6第2項6号)。」(②P.190)以下が第6号の抜粋で、「第三号イからハ」が経済活動基準。
  • 六 部分対象外国関係会社 第三号イからハまでに掲げる要件の全てに該当する外国関係会社(特定外国関係会社に該当するものを除く。)をいう。

二重課税の調整

  • 「外国関係会社の所得に対して課される外国法人税がある場合、株主である内国法人の段階で外国税額控除の対象とする(租特66条の7)。合算課税と配当受取りとで課税が重複することを避けるため、内国法人が合算課税の対象となった外国法人から配当等を受けた場合、特定課税対象金額に達するまでの金額は益金不算入とする(租特66条の8)。」(②P.192)
  • 上記後半部分の「合算課税と配当受取り」における課税重複については、①P.649~650の以下の説明で理解を補いたい。
  • 内国法人が、タックス・ヘイブン対策税制の適用により外国関係会社の所得を益金に算入して課税を受け、外国関係会社から配当を受け取った場合、合算された所得に対する課税と受取配当に対する課税とで二重課税になります。

    外国子会社配当益金不算入税制(法人税法第23条の2)が適用される場合…、内国法人が外国法人から受け取る配当は、その95パーセントが益金不算入とされ、5パーセントにのみ課税されます(法人税法第23条の2第1項…)。この場合、…配当のうち5パーセントの部分のみが二重課税となります。
    この二重課税を排除するため、法人税法第23条の2第1項が修正され、受取配当の95パーセントではなく全額が益金不算入とされています(租税特別措置法第66条の8第2項)。

     

*1:第六十六条の六 次に掲げる内国法人に係る外国関係会社のうち、特定外国関係会社又は対象外国関係会社に該当するものが、昭和五十三年四月一日以後に開始する各事業年度において適用対象金額を有する場合には、その適用対象金額のうちその内国法人が直接及び間接に有する当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社の株式等(株式又は出資をいう。以下この条において同じ。)の数又は金額につきその請求権(剰余金の配当等(法人税法第二十三条第一項第一号に規定する剰余金の配当、利益の配当又は剰余金の分配をいう。以下この項及び次項において同じ。)を請求する権利をいう。以下この条において同じ。)の内容を勘案した数又は金額並びにその内国法人と当該特定外国関係会社又は対象外国関係会社との間の実質支配関係の状況を勘案して政令で定めるところにより計算した金額(次条及び第六十六条の八において「課税対象金額」という。)に相当する金額は、その内国法人の収益の額とみなして当該各事業年度終了の日の翌日から二月を経過する日を含むその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。
一 内国法人の外国関係会社に係る次に掲げる割合のいずれかが百分の十以上である場合における当該内国法人
イ その有する外国関係会社の株式等の数又は金額(当該外国関係会社と居住者(第二条第一項第一号の二に規定する居住者をいう。以下この項及び次項において同じ。)又は内国法人との間に実質支配関係がある場合には、零)及び他の外国法人を通じて間接に有するものとして政令で定める当該外国関係会社の株式等の数又は金額の合計数又は合計額が当該外国関係会社の発行済株式又は出資(自己が有する自己の株式等を除く。同項、第六項及び第八項において「発行済株式等」という。)の総数又は総額のうちに占める割合
ロ 省略
ハ 省略
二 外国関係会社との間に実質支配関係がある内国法人
三 省略
四 省略

*2:第六十六条の六第2項
三 対象外国関係会社 次に掲げる要件のいずれかに該当しない外国関係会社(特定外国関係会社に該当するものを除く。)をいう。
イ 株式等若しくは債券の保有、工業所有権その他の技術に関する権利、特別の技術による生産方式若しくはこれらに準ずるもの(これらの権利に関する使用権を含む。)若しくは著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の提供又は船舶若しくは航空機の貸付けを主たる事業とするもの(次に掲げるものを除く。)でないこと。
(1) 株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社のうち当該外国関係会社が他の法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性の向上に資する業務として政令で定めるもの(ロにおいて「統括業務」という。)を行う場合における当該他の法人として政令で定めるものの株式等の保有を行うものとして政令で定めるもの
(2) 株式等の保有を主たる事業とする外国関係会社のうち第七号中「部分対象外国関係会社」とあるのを「外国関係会社」として同号の規定を適用した場合に外国金融子会社等に該当することとなるもの(同号に規定する外国金融機関に該当することとなるもの及び(1)に掲げるものを除く。)
(3) 航空機の貸付けを主たる事業とする外国関係会社のうちその役員又は使用人がその本店所在地国において航空機の貸付けを的確に遂行するために通常必要と認められる業務の全てに従事していることその他の政令で定める要件を満たすもの
ロ その本店所在地国においてその主たる事業(イ(1)に掲げる外国関係会社にあつては統括業務とし、イ(2)に掲げる外国関係会社にあつては政令で定める経営管理とする。ハにおいて同じ。)を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有していること(これらを有していることと同様の状況にあるものとして政令で定める状況にあることを含む。)並びにその本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行つていること(これらを自ら行つていることと同様の状況にあるものとして政令で定める状況にあることを含む。)のいずれにも該当すること。
ハ 各事業年度においてその行う主たる事業が次に掲げる事業のいずれに該当するかに応じそれぞれ次に定める場合に該当すること。
(1) 卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業保険業、水運業、航空運送業又は物品賃貸業(航空機の貸付けを主たる事業とするものに限る。) その事業を主として当該外国関係会社に係る第四十条の四第一項各号に掲げる居住者、前項各号に掲げる内国法人、第六十八条の九十第一項各号に掲げる連結法人その他これらの者に準ずる者として政令で定めるもの以外の者との間で行つている場合として政令で定める場合
(2) (1)に掲げる事業以外の事業 その事業を主としてその本店所在地国(当該本店所在地国に係る水域で政令で定めるものを含む。)において行つている場合として政令で定める場合