移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

移転価格読書術⑤(トランプ関税)

トランプ関税を巡る記事より。もう少し深く考えたいが、とりあえず備忘として。

 

■2025年3月29日朝日新聞 佐伯啓思「異論のススメ 市場経済 剝がされる擬装」

トランプ氏が自由貿易体制を破壊したのではなく、グローバリズムのもとですでに自由貿易体制がうまく機能していないがゆえにトランプ氏の強硬な政策が顕在化した、と論じたい。

端的にいえば、グローバリズムのもとでは、「自由貿易は世界を豊かにする」などという命題は成り立たない。

経済学の市場競争論や自由貿易論が冷戦後のグローバリズムを可能としたが、それが米国へのバックラッシュを引き起こし、トランプ氏の戦略的介入主義へと帰結したのである。

市場経済は、個人の競争を通じて効率性を達成して社会の調和をもたらす」という経済学の基本命題は、一見、価値中立的な真理のように装われている。だが実際には、それは、個人主義、合理主義、能力主義、効率主義、競争主義といった価値観を前提として組み立てられていると私には思われた。しかも、その価値観がそれなりに妥当するのは米国にほかならないであろう。 だが、米国の経済学者は、それを「普遍的な科学理論」だと主張したのである。市場競争がうまくゆくのは「科学的真理」だという。

移転価格税制の大原則である「独立企業間原則」も「価値中立的な」「科学的真理」の如く扱われているが、同じように何らかの価値観を前提にしているのだろうか?それはどのような価値観なのだろうか?それはどのような意図、あるいは目的で「真理」の如く扱われるのだろうか?

 

■2025年4月3日朝日新聞 「関税『改革保守』の狙い 米トランプ政権ブレーン・エコノミスト オレン・キャスさんインタビュー」

グローバル化の下、米国は若者を海外での戦争に送り、失業と絶望を輸入し、大切な仕事を海外に送ってしまったのです。1980年代の保守の発想は「市場経済自由貿易」でしたが、こうした状況を解決するには有効ではありません。だから関税なのです。

いくら株価が高く、シリコンバレーが繫栄しても、家族やコミュニティーが弱くなっては意味がありません。80年代に確立された(市場経済自由貿易が善の)保守運動は、冷戦期に共産主義と対抗することが最大の課題でした。私たちは、現代の課題に保守がどう対応するかを考えています。格差拡大、労働者と家族、コミュニティーに焦点をあてることが課題です。

パラダイムが変わったのです。私は、トランプ後も(保守政策の流れは)変わらないと信じています。

大統領本人はわからないが、それを推し進めようとしているブレーンたちの信念は固い印象。家族やコミュニティーを再生させるのは製造業にしかできないことなのか、なぜサービス業では無理なのか、という疑問はあるが、イメージされているであろうことは理解できる。

 

■『企業会計』2025年5月号 Vol.77の岡村忠生京都大学名誉教授「トランプは、世界の租税政策をどう見ているか?」(P.1)

トランプ大統領共和党、さらには民主党の眼に、世界の租税政策はどのように映っているだろうか。 最も強い不快感の対象は、VATの国境税調整であろう。前段階控除の仕組みを知らない所得課税の感覚からは、輸出免税は輸出補助金であり、輸入時課税は輸入関税に他ならない。

「輸入時課税は輸入関税に他ならない」とのことで、確かに、輸入消費税と輸入関税は何が違うのだろうか。輸入消費税は課税事業者が支払う場合には仕入税額控除の対象となるので、最終的には輸入国消費者が負担することになるが、輸入関税の場合には、一旦は輸入する企業のコストとなる。ただ、それを輸入国消費者に転嫁することができれば、関税も消費者が負担するという点では同じである。

もちろん、輸入品だけにかかる関税と、国内消費品と輸入品とを同じように取り扱う消費税とは意味合いは異なる。まだまだ浅い理解しかなく、記事中にも取り上げられている「第一期トランプ政権が示したDBCFT(仕向地主義キャッシュ・フロー税)」のおさらいが必要になりそう。