移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

雑記

2023年中に読めなかった移転価格本5冊

「今年読んだ本の中でのベスト〇冊」という記事は多々あり、個人的には年末に出てくるそのような新聞、雑誌、ブログは大好きなのだが、ここでは、Austin Kleonの以下の記事を真似して、今年読みたかったが、読めなかった、移転価格関係の本を5冊、挙げておき…

市場の圧力を社内に引き込む(西口敏宏「遠距離交際と近所づきあい」より)

移転価格そのものというよりも、管理会計や社内での業績評価について。 西口敏宏「遠距離交際と近所づきあい―成功する組織ネットワーク戦略」NTT出版、2007年(以下「本書」)において、フラクタル連鎖(fractal links)というものが説明されている:「フラ…

「世界標準の経営理論」からの示唆⑤(取引費用理論は独立企業間原則を否定する)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第5回。 今回は「第7章 取引費用理論(TCE)」を対象とする。 まず、取引費用理論の概要については、入山先生の本書ではなく、菊澤研宗「…

「見えざる資産」

まずは経営学者ではない方による説明。平川克美「ビジネスに『戦略』なんていらない」洋泉社新書より。(下線は当記事筆者。) ひとことで言ってしまえば、お客さんと向き合って、喜んでもらえるという交換の基本を忘れないようにしようよ、ビジネスの全ての…

「世界標準の経営理論」からの示唆③(経営学のRBVと移転価格の無形資産)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第3回。 今回は「第3章 リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を対象とする。 要約 「完全競争から、独占の方向に自社の競争環境・強みを持…

「世界標準の経営理論」からの示唆②(収益性は要素還元できない)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第2回。 今回は「第2章 SCP理論をベースにした戦略フレームワーク」を対象とする。 要約(一部のみ) ・SCPのフレームワークの一つである…

「世界標準の経営理論」からの示唆①(完全競争と超過利潤ゼロ)

「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)という800ページ超の分厚い本がある。題名の通り、移転価格税制とは全く関係のない本ではあるのだが、非常に面白く、無理を承知で、これを読み進めながら、移転価格税制のあれこれについて考えてみる、…

管理会計との悩ましい関係

移転価格税制と管理会計の関係は、事業会社の中では非常に悩ましい問題である。移転価格税制、管理会計の専門家は、それぞれがそれぞれの観点からのみ論じること、また、センシティブな領域であることから他社と事例を共有し合うことが憚られることから、各…

[固定記事]本の目次

『移転価格税制の実務研究ノート』という本を作るイメージで、記事をまとめてみました。(まとめてみると、まだまだ自分の知識の抜け漏れが多いと感じました。) はじめに 移転価格税制と寄附金 TNMMの論点 独立企業間原則/TNMMへのアンチテーゼ 役務提供取…

「文書化」の重要性

税務調査で聞かれることから逆算して日々の業務を行っておく必要がある、ということについて。 例1:価格調整 例2:役務提供取引 「文書化」とは 例1:価格調整 例えば、国外関連者との棚卸取引があり、その棚卸取引の移転価格算定方法がTNMMであると想定し…

伊藤恭彦著「タックス・ジャスティスーー税の政治哲学」風行社

伊藤恭彦著「タックス・ジャスティスーー税の政治哲学」風行社を(何度か目の)読了。 「移転価格税制の実務」からは一見遠いところにあるが、本書の主張には非常に共感、納得した。実務からは遠いとしても、税務という仕事の意味や、税務の仕事をする上で根…

会社法との関係

以下の記事で紹介した中里先生の著書にも出てきた税務と会社法との関係についての、中里先生の論文(「アグレッシブな租税回避と会社法 : Tax compliance の視点からの研究ノート」『法学新報』123巻第11-12号、2017-03-21、P.221-244)を拝読。率直に言って…

中里実著「租税史回廊」(税務経理協会)

www.zeikei.co.jp 過去の様々な税務専門誌への寄稿論文や講演を収録したもので、自分の知識では歯が立たない部分も多い。しかし、全体的には平易な言葉で書かれており、取っつきやすく、また、租税という分野に限定されない広い視点が非常に参考になった。 …

機能と関数

移転価格とは全く関係のない分野の本からの脱線です。 中谷礼仁「近代建築史講義」(インプレスト)より、建築の世界におけるモダニズム、そして機能主義が説明されている部分からの抜粋(P.176)。 機能主義はモダニズムの中心的思想のひとつであり、その解…

根源的欲求としての「領域侵犯」とTNMM

脱線します。過去に書いたことの繰り返しかもしれませんが。 建築家の伊東豊雄は、菅付雅信「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)の中で、過去の自身の「モダニズム建築は一枚の壁によって内と外をは…

Courseraを受講する①

www.coursera.org Courseraという様々な大学のオンライン講義を提供しているサイトで、ある方が講義を受けられた経験を書いておられるブログを拝見して、税務に関連する講座はないか検索をしてみた。この時見つけた講義が、ライデン大学のProf. Dr. Sjoerd D…

「情報の歴史21」から読み取る国際税務の流れ

少し脱線します。 松岡 正剛 (監修), 編集工学研究所 (著, 編集), イシス編集学校 (著, 編集)「情報の歴史21: 象形文字から仮想現実まで」(以下、「本書」)を購入。アマゾンの紹介文からの抜粋は以下の通りで、簡単に言えば、日本史・世界史を跨った500ペ…

穴を掘って、穴を埋める

当ブログを始めるに当たって、最初の記事として以下の記事を書いた。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 要は当ブログは移転価格の専門書を自分で読み、それらを紹介する場として考えていたということで、しばらくはそのような趣旨に則った記事が多かった。し…

TNMM=「構想と実行の分離」?

今回も脱線します。 ■「構想と実行の分離」 2020年1月のEテレの「100分de名著」は、カール・マルクス『資本論』を取り上げていた。放送途中から斉藤幸平先生によるNHKテキストも買って、興味深くみていた。 放送とテキストの中で、特に興味を惹かれたのが、…

雪かき仕事と火消し仕事

ちょっと脱線します。 題名の「雪かき仕事」は内田樹著「村上春樹にご用心」(アルテスパブリッシング)に収められている「村上春樹とハードボイルド・イーブル・ランド」の以下の箇所(P.205)より。 雪が降ると分かるけれど、「雪かき」は誰の義務でもない…

歴史は繰り返す、か?

以下の日系企業に対する移転価格税制についてのアンケート調査結果の上位回答は、どこの国を念頭に置いた回答だと思われるだろうか。 明確な基準がないままに税務当局の判断により所得の増額更正が行われるおそれがある 商品の利益率が低い場合や欠損会社の…

「創って、作って、売る」の上位に位置するもの

前回の記事の続きだが、別の観点から少し付け加えたい。 三品和広著「戦略不全の因果」(東洋経済新報社)の第4章「戦略の核心」は以下のような問題提起から始まる(P.102)。 企業の業績は、どのようにして決まるのであろうか。一般に企業の中では、何千人…

「創って、作って、売る」のどこに課税すべきか

■ 「創って、作って、売る」と「創る」偏重 三枝匡著「V字回復の経営」(日経ビジネス人文庫)には事業の原点として「商売の基本サイクル」という概念が登場する(P.136~138)。事業の原点は「商品やサービスを顧客に買っていただくこと」であり、会社は「…

このブログのテーマ、みたいなもの

専門書は高価である。もちろん、その本に詰まっている内容からすればそんなことはない、という見方もできるし、本の執筆者の方々からすれば書くことに費やされた時間・労力を考えれば十分に「安い」とも言えることはその通りだと思う。そもそも出版数が少な…