移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

「情報の歴史21」から読み取る国際税務の流れ

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少し脱線します。

 松岡 正剛 (監修), 編集工学研究所 (著, 編集), イシス編集学校 (著, 編集)「情報の歴史21: 象形文字から仮想現実まで」(以下、「本書」)を購入。アマゾンの紹介文からの抜粋は以下の通りで、簡単に言えば、日本史・世界史を跨った500ページ超の分厚い年表。

『情報の歴史』は、人類の誕生から今日のコンピュータによる通信ネットワークや人工知能の飛躍的な進化に至るまでの壮大な歴史を、「人類はどのように情報を編集してきたか」という視点で独自に構成した全くユニークな年表です。大小さまざまなヘッドライン、東西にまたがる5トラックがつくるダブルページ、世界同時年表が露わにする関係のダイナミズムは、発刊時に各界から大きな反響と評価をもって迎えられました。

本書は眺めているだけでももちろん面白い年表(例えば、2001年であれば、9.11同時多発テロとともに、「マリナーズイチロー、MVPと新人王【米】」や、映画の「ジュネ監督「アメリ」【仏】」が取り上げられている」)になっているのだが、ここでは国際税務に関する項目を拾い上げてみたい。具体的には、第二次大戦(1945年)以降の多国籍企業の展開と、それに対抗する国家側の動きが読み取れる項目を列挙してみる。以下、各項目は本書より抜粋したそのままで表記したものであり、脚注は別途自分の理解のために追加したものである。

もちろん、租税の専門書に掲げられた年表ではないので、国際税務の観点からの重要事項の抜け漏れはあるだろうし、また、自分が見落としたものもあるかもしれない。ただ、それでも、こうして並べてみて、また、多少その背景を調べてみるだけで、大きな流れのようなものが見えてくる(ような気がする)。

  • 1960年代:多国籍企業の「多国籍化」の進展。
  • 1970年代:多国籍企業の功罪のうち、「罪」にスポットが当たり始める。税務的な面も部分的にはあるが、国家(特に多国籍企業が進出した先の途上国)を凌ぐ存在として台頭してきたことへの危機感。
  • 1980年代~2000年代:年表上の動きが少ない。経済成長という共通目的を前にした、国家と多国籍企業の一時的な「蜜月」期か?
  • 2010年代:国家側が多国籍企業の租税回避を問題視。経済成長にブレーキがかかったなかで、「公平な分配」への関心が高まったことによる?

もっと取り上げられた事項の中身・背景の理解なり、本書では取り上げられなかったが国際税務の分野では重要な事項なりを勉強する必要は感じるが、それは今後の課題として。

*1:Wikipediaより。
欧州経済協力機構(おうしゅうけいざいきょうりょくきこう、英: Organization for European Economic Cooperation、OEEC)は、1948年にヨーロッパ16カ国により設立された機関。マーシャル・プランに連動する形で、アメリカの要求による為替と貿易の自由化と、ヨーロッパ域内諸国間と欧米間の関税を引き下げることを、その目的としている。現在の欧州統合に先立つ概念をもった機関である。1961年に経済協力開発機構(Organization for Economic Cooperation and Development、OECD)となった。

*2:Wikipediaより。
経済協力開発機構(けいざいきょうりょくかいはつきこう)は、国際経済全般について協議することを目的とした国際機関。公用語の正式名称は、英語では"Organisation for Economic Co-operation and Development"、フランス語では"Organisation de Coopération et de Développement Economiques"。略称は英語ではOECD、フランス語ではOCDE。本部事務局はパリ16区の旧ラ・ミュエット宮殿(フランス語版)に置かれている。事務総長はアンヘル・グリア。1961年にヨーロッパ経済の復興に伴い、ヨーロッパの西側諸国と北アメリカの2国が、自由主義経済や貿易で対等な関係として発展と協力を行うことを目的として[OEECは(筆者補足)]発展的に改組され、現在の経済協力開発機構OECD)が創立された。
1964年以降、従来の枠である欧州(非共産圏)と北アメリカという地理的制限を取り払い、アジアやヨーロッパの共産圏にも加盟国を拡大した。戦前の「五大国」の1国で、戦後の復興が進んでいた日本は早くからOECD加盟に関心を示し、枠拡大直後の1964年4月28日に加盟した。原加盟国以外で初めての加盟であった。

*3:Wikipediaより。
ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー(The Dow Chemical Company)は、アメリカ合衆国ミシガン州ミッドランドに本拠を置く世界最大級の化学メーカーである。1897年に漂白剤と臭化カリウムの製造メーカーとして誕生した。1999年にはユニオンカーバイドを930億ドルで買収し、デュポンに代わり世界最大の化学メーカーとなった。2008年にはイオン交換樹脂の製造で世界トップの無機化学メーカー、ローム・アンド・ハース(英語版)を188億ドルで買収した。

*4:Wikipediaより。
ITT(アイティーティー、英語: ITT Inc.)は以前はITT Corporationと呼ばれて、現在は航空宇宙産業、交通産業、エネルギー産業などに部品を提供する世界的な事業を営む企業で、ニューヨーク州ホワイト・プレインズに本社を構える。以前は「コングロマリット」の代表的な企業として、様々な分野の企業群をかかえていたが、現在はほとんどをスピンオフしている。

*5:松田直樹 税務大学校研究部教授「外国子会社配当益金不算入制度創設の含意-移転価格と租税回避への影響に関する考察を中心として-」(P.77-78)
「少なからぬ所得の国外移転が移転価格を通じて行われていることは、E.I. Du Pont de Nemours and Company v. Commissioner 事件請求裁判所判決(221 Ct. Cl. 333; 608 F. 2d 445; 1979)からも示唆される。本事件では、「タックス・ヘイブンに存する子会社に「独立企業間」価格よりも低い対価を請求した方が望ましいであろう。なぜなら、(1)対価の妥当性が歳入庁職員によって問題視されることはないと考えられ、(2)問題視されたとしても、かかる対価の妥当性を正当化することが可能であり、(3)正当化できなかったとしても、交渉を経て決まる対価は、「独立企業間」価格又はそれ以下であることから、対価を高く設定していたとした場合よりも状況が悪くなるということはない」と記載された社内メモが存在していたことを税務当局が把握しており、本事件の当事者であった米国の親会社が、スイスの子会社との取引を通じて、スイスに所得移転を行うとの意図を有していたということは明らかであった。」

*6:池島祥文「『開発の民営化』と国連機関による多国籍企業規制の転回」横浜国際社会科学研究 第 18 巻第 1・2 号(2013 年 8 月)(P.14-15)
「1970 年代初頭において,多国籍企業によるFDI は付加価値総額において約 5,000 億ドルと推定され,社会主義国経済を除いた世界のGNP の約 5 分の 1 に相当していた.上位 10 社による付加価値総額は 30 億ドルを超え,80 ヶ国の GNP を凌駕する規模であった.また,多国籍企業の企業内貿易は実に約 3,300 億ドルに達し,いわゆる企業間による国際貿易額や全市場経済諸国の総輸出額をも上回っていた(United Nations 1973:13─14).そ の 世界経済に占める比重が高い点に加え,多国籍企業は事業規模および組織の巨大性,市場における寡占的集中,多数子会社の一元的統轄といった特徴を有しており,受入国産業との競争力格差や規制政策や雇用慣行等の軽視により,途上国経済の自立性を揺るがしかねず,途上国政府との衝突も生じていた.多国籍企業は「成長のエンジン」と称されるように,雇用創出,技術移転等を通じて途上国にメリットをもたらす一方,資源収奪,劣悪な労働条件,環境汚染等を通じて貧困という「副産物」を生み出す側面もあった(Rubin 1995:1276)
…国連事務局から報告書が作成されているが,そこには,世界経済における FDI と多国籍企業の急速な発展とともに,途上国に対する多国籍企業の規模と力関係の差が表れてきている点,途上国開発に対する多国籍企業の肯定的役割を認めつつも,主権侵害や経済的不利益等の否定的側面を強調している点,多国籍企業に対する国連を中心とした国際的行動の必要性を提起する点が記載されており,多国籍企業を規制する方向性を打ち出していた(United Nations 1973).」

*7:Wikipediaより。OECD多国籍企業行動指針( - たこくせききぎょうこうどうししん、The OECD Guidelines for Multinational Enterprises)は、経済協力開発機構OECD)加盟国及びこれを支持する諸国において事業を行う多国籍企業、あるいはOECD加盟国及び指針を支持する諸国出身の多国籍企業に対する政府の勧告である。 OECDが発行した多国籍企業行動指針には法的拘束力は無く企業の社会的責任を求める指針であり、OECD加盟国内外の諸国において任意で遵守されている。 OECD多国籍企業ガイドラインともいう。