移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

移転価格にも役立つ本

リスクと不確実性

松原隆一郎「改訂版 経済政策(放送大学大学院教材)」放送大学教育振興会において、リスクと不確実の違いが以下の通り説明されている。 F.ナイトによれば、リスクは雨が降る確率のような統計的な概念で、過去のデータの蓄積から何が起きるのか、頻度ないし…

移転価格読書術④(サンデル氏/ピケティ氏)

今回はやや(?)脱線。以下の本を読了。 平等について、いま話したいこと | トマ・ピケティ, マイケル・サンデル, 岡本 麻左子, 吉田徹 |本 | 通販 | Amazon ピケティ氏の著書は「21世紀の資本」の途中で挫折したっきり、サンデル氏も著書を読んだことはな…

内部振替価格の基本

内部振替価格の原理原則的なところをあらためて勉強してみる。(原理原則的なところにおいては、一旦、海外取引/移転価格税制による制約はないものとして考える。) 以下の本を使用する。(以下、特に断らない限り、ページ数は引用元となる本書のページ数を…

菖蒲 静夫「税務担当奮闘記 —企業税務の心得と体制強化」中央経済社

菖蒲 静夫「税務担当奮闘記 —企業税務の心得と体制強化」中央経済社を拝読。 アマゾンでは「キヤノンの経理部門で44年弱、そのうち約40年を税務担当として働いてきた「企業税務の実務家」が語る「現場での生きた経営税務」。税務の考え方、向き合い方、勉強…

移転価格読書術③(「構想と実行の分離」の徹底)

今回は脱線。移転価格税制とはもちろん全く関係ないのだが、以下の本を読了。 ブラックバイト――学生が危ない (岩波新書) | 今野 晴貴 |本 | 通販 | Amazon 大学生のアルバイトが企業の儲けの論理に食いつぶされていることを指摘しており、数多く紹介されてい…

移転価格読書術②(「白鯨」の給料)

今回は脱線。 マルクスの「資本論」は読んだことがないが、以下2冊の解説本によれば、給料は「労働力の再生産費」とのことである。 武器としての「資本論」 | 白井 聡 |本 | 通販 | Amazon 「労働力の価値とは何なのか」、「マルクスは労働力の価値を、『労…

諸富徹著「税という社会の仕組み」(ちくまプリマ―新書)「第4章 これからの世界と税金」

以前に以下の記事で取り上げた諸富教授の著作(以下「グローバルタックス」)に続き、新刊の筑摩書房 税という社会の仕組み / 諸富 徹 著 (chikumashobo.co.jp)を拝読(以下「税という社会の仕組み」)。 tpatsumoritaira.hatenablog.com ここでは「税という…

移転価格読書術①

最近(でもないが)読んだ本より。移転価格と関係あったりなかったり。 「『参考』になる部分が1つでもあれば」よいという考えは、本の購入の後押しをしてもらっている感覚になる。 税法読書術 | 泰嗣, 木山 |本 | 通販 | Amazon 税法の条文についてはネット…

2023年中に読めなかった移転価格本5冊

「今年読んだ本の中でのベスト〇冊」という記事は多々あり、個人的には年末に出てくるそのような新聞、雑誌、ブログは大好きなのだが、ここでは、Austin Kleonの以下の記事を真似して、今年読みたかったが、読めなかった、移転価格関係の本を5冊、挙げておき…

「見えざる資産」

まずは経営学者ではない方による説明。平川克美「ビジネスに『戦略』なんていらない」洋泉社新書より。(下線は当記事筆者。) ひとことで言ってしまえば、お客さんと向き合って、喜んでもらえるという交換の基本を忘れないようにしようよ、ビジネスの全ての…

藤本隆宏著「能力構築競争」(中公新書)に基づいて考えてみる

藤本隆宏著「能力構築競争」(中公新書)に沿って、以下の1.と2.の問いについて考えてみたい。(3.はメモ。)以下のページ数は本書のページ数を示す。 1. 製造会社(工場)の「強さ」の差は存在するのか? 2. 存在するとすれば、それはどのようなもので、そ…

会社法との関係

以下の記事で紹介した中里先生の著書にも出てきた税務と会社法との関係についての、中里先生の論文(「アグレッシブな租税回避と会社法 : Tax compliance の視点からの研究ノート」『法学新報』123巻第11-12号、2017-03-21、P.221-244)を拝読。率直に言って…

中里実著「租税史回廊」(税務経理協会)

www.zeikei.co.jp 過去の様々な税務専門誌への寄稿論文や講演を収録したもので、自分の知識では歯が立たない部分も多い。しかし、全体的には平易な言葉で書かれており、取っつきやすく、また、租税という分野に限定されない広い視点が非常に参考になった。 …

ガブリエル・ズックマン著「失われた国家の富――タックス・ヘイブンの経済学」(NTT出版)

本書の原書は2013年にフランスで出版された一般向けの本とのことで、フランスの読者を意識してか、「タックス・ヘイブンの経済学」との副題であるが、焦点が当てられているのはヨーロッパ内のタックス・ヘイブンであるスイスとルクセンブルクである。 個人の…

諸富徹著「グローバルタックス—―国境を超える課税権力」(岩波新書)

二年ほど前(2019年1月19日)の朝日新聞の天声人語は以下のような書き出しで始まっている。 「将軍たちは一つ前の戦争を戦う」という格言がある。指揮をとる者は、どうしても前回の戦争での経験をもとに戦略を立ててしまいがちだ。時代とともに技術や有効な…

PE勉強の手始めに

森信茂樹著「デジタル経済と税」(日本経済新聞出版社)の中の、第2章「巨大プラットフォーマーと租税回避」の中の「4 アマゾンの租税回避」を題材に、少し考えてみたい。若干の苦手意識のあるPE(恒久的施設)にも関係する問題であり、まだ深くは考えられな…

取引コストと移転価格

■取引コスト 松岡真宏著「持たざる経営の虚実」(日本経済新聞出版社)において、松岡さんは「『持たざる経営』や『選択と集中』という、ある種の減量経営的なスローガン」(P.3)に対して、「経済学者のロナルド・コースの『取引コスト(Transaction cost)…

「創って、作って、売る」の上位に位置するもの

前回の記事の続きだが、別の観点から少し付け加えたい。 三品和広著「戦略不全の因果」(東洋経済新報社)の第4章「戦略の核心」は以下のような問題提起から始まる(P.102)。 企業の業績は、どのようにして決まるのであろうか。一般に企業の中では、何千人…

「創って、作って、売る」のどこに課税すべきか

■ 「創って、作って、売る」と「創る」偏重 三枝匡著「V字回復の経営」(日経ビジネス人文庫)には事業の原点として「商売の基本サイクル」という概念が登場する(P.136~138)。事業の原点は「商品やサービスを顧客に買っていただくこと」であり、会社は「…

大津広一著「会計力と戦略思考力 ビジネスモデル編」(日経ビジネス人文庫)

決して「高価」な「専門書」ではなく、移転価格税制の本ですらない。しかし、ここに書かれていることは移転価格税制の議論でも出てくる論点が多く、実務で役立つと思ったので、あえて取り上げてみたい。 例えば、以下のような点。 移転価格税制においては、…