以下の記事で読んでいた、小森敦「海外論文紹介 リスク・コントロール、DEMPE機能とR&Dサービス・プロバイダーへの対価」『租税研究』2022年1月号(Michael McDonald, Eyal Gonen, Leonid Karasik, ”Control Over Risk, DEMPE Functions, And the Remuneration of R&D Service Providers”, Tax Notes International, June 21, 2021, pp. 1615-1630の内容を翻訳、要約して紹介するもの。)を再読して、おさらいとしてまとめてみる。(以下引用は断らない限り本論文より。下線は当記事筆者。)
中心的な関心は、移転価格税制において「リスクを引き受けるとは?」という点である。
tpatsumoritaira.hatenablog.com
「リスクを負担している企業(’risk bearing entities’)のみが、多国籍企業グループが実際に稼得した利益の配分にあずかる権利を有する。そして、リスク負担企業として認められるには、自社の活動に関連するリスクを引き受け、かつコントロールする能力を有していなければならない。このため、リスクの引き受けとコントロールが、多国籍企業グループの示す形式と一致するかどうかを判断することが、取引が正確に描写されているか否かを判断する上での鍵となる。」(パラ9)とあるが、それでは、リスクの引き受け、あるいはリスクのコントロールとは何なのか。
リスクの引き受けには、そのための財務能力と、リスクに対するコントロールが必要(パラ42)とされている。
- リスクを引き受けるための財務能力とは、「リスクが顕在化した場合のダウンサイドの結果に対応するための資金源へのアクセスを有していること」(パラ52)。
- リスク・コントロールの実施は「能力」と「遂行」の2つの要素により構成される。(パラ42、以下引用も同じ。)
- 「意思決定者は、リスクを内包する機会を受け入れるか回避するか、…当該リスクへの対応を行うか否か、行うとした場合にはどのように対応するかを決定するための能力を必要とする。」
- 「また、意思決定者には、これらの機能を実際に遂行することも必要とされる。」
- つまり、リスク・コントロールとは、リスクをとるかどうかについての意思決定ができることであり、実際に意思決定をしていること、と言えるだろう。
まとめると、あるグループ会社がリスクを引き受けるためには、その会社が、①リスク・コントロールについての意思決定ができること、かつ実際にその意思決定を行っていること、②悪い方向にリスクが顕在化した際に対応できるだけの財務能力を有していること、の2条件が必要、ということ。
-
この点はOECDガイドライン2022Para1.86で確認できる。(ここで言及されている「ステップ」とは、Para1.60におけるリスク分析のための6つのステップのこと。)
1.86 ステップ1-3の実行には、関連者間取引のリスクの引受け及びリスク管理に 関連する情報の収集を含んでいる。次のステップは、ステップ1-3で得られた情報を 解釈すること、並びに(i)関連者が、D.1.1の原則に基づく契約条件に従っているか どうかの分析、(ii)(i)の分析に基づきリスクを引き受ける者が、リスク・コントロールを行い、リスクを引き受けるための財務能力を有しているかどうかの分析を行うことによって、契約上のリスク負担が、当事者行動など事実に矛盾していないかどうかを判断することである。
-
①については、OECD移転価格ガイドライン2022版のPara1.65が根拠。
1.65 リスク・コントロールとは、パラグラフ 1.61 で定義されるリスク管理の最 初の二要素、すなわち(i)リスクを負担する機会を取るのか、手放すのか、拒否するのかについて意思決定を行う能力を有し、実際にその意思決定を行うこと、(ii) リスクを負担する機会に対応するのか、どのように対応するのかについて意思決定を行う能力を有し、実際にその意思決定を行うことが関係する。
-
②については同Para1.64が根拠。「資金」への「アクセス」。
1.64 リスクを引き受ける財務能力とは、リスクを負担するか手放すための資金、 リスク軽減機能を果たすために支払う資金、リスクが現実化した場合に負担する資金へのアクセスと定義することができる。リスクを引き受ける者による資金アクセスは、利用できる資産と、リスクが現実化した場合の発生見込みコストをカバーするために必要に応じて追加的に流動資産を利用できる現実的な選択肢を踏まえる。