移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

管理会計との悩ましい関係

移転価格税制と管理会計の関係は、事業会社の中では非常に悩ましい問題である。移転価格税制、管理会計の専門家は、それぞれがそれぞれの観点からのみ論じること、また、センシティブな領域であることから他社と事例を共有し合うことが憚られることから、各社はそれぞれで、移転価格税制と管理会計を両立させる、あるいは折り合わせる方法を、「もがきながら」編み出すしかない問題であると考えている。

最近は、管理会計の専門家が事業会社へのアンケート調査を通じて両者の関係を研究している論文を探しては読むようにしているが、ここではその中で見つけた以下の記事(講演録)について触れたい。

高久隆太「移転価格課税と管理会計マネジメント」『租税研究』2014年9月号、P.288‐310

 

ここでは上記記事より、2点に触れておきたい。

①用語の違い

英語のTransfer Priceは国際税務では「移転価格」と訳すが、管理会計では「振替価格」と訳す。ただし、「振替価格」には移転価格税制が対象とする「国際振替価格」と、国内グループ間取引における「国内振替価格」の両方を含む。(P.289、P.300)

このことは管理会計分野の論文を読んでいるうちにすぐに気付き、論文を探す際の検索ワードを「振替価格」としているが、実務上は一体で考えざるを得ない問題にも関わらず別用語が並存してしまっていることで、分野間の交流、融合が少ないように感じられる。

経営上は「移転価格のマネジメントと管理会計のマネジメントの連携が必要」(P.300)であり、「経営のマネジメントの中で、移転価格のマネジメントを適切に行う必要があ」(P.300)る。

 

②業績評価との関係

講演をまとめた当記事には、講演時の質疑応答も記録されているが、その中に興味深いやりとりがあった。

質問は「財務会計上はきちんとレンジに収まるようにする一方で、業績評価上はメリットを現地に与えるような、いわゆる二重帳簿的な取り扱い等をせざるを得ない場面というのは往々にしてあるのですが、そういう点についてはどのようにお考えでしょうか。」(P.301)というもので、高久先生のご回答(抜粋、下線は本ブログ記事筆者)は以下の通り。

やむを得ないと思います。ただし、税務調査では、調査官に有利なところだけを見ることがあろうかと思います。したがって、業績評価上のメリットを現地に与えているのは管理会計目的であり、故意に利益操作をしているのではないことを説明できるような状態にしておく必要があろうかと思います。(P.301) 

実務担当者としては、以下の二点が気になる。

一点目は質問者の会社(会社に所属されている方かどうかは窺い知れないが)では「二重帳簿的な取り扱い」をしている、あるいは少なくともそのような取り扱いを考えている、ということ、また、それに対して「やむを得ない」と高久先生が回答されていることである。これは2014年の講演をまとめたものなので、今から10年近く前において、すでにこのような方法を少なくとも一部の企業では実施されていた、ないし考えられていたことを認識した。

二点目は下線部分についてである。「二重帳簿的な取り扱い」をする、というのは、管理会計と財務/税務とで異なる振替価格を用いることで、損益も管理会計損益と財務会計損益の両方が存在する、ということだと思うが、下線部分は、税務調査において、管理会計損益が調査官に見られ、例えば海外関係会社側の管理会計利益率が非常に高い一方で、財務会計利益率はレンジ内に収まっているような場合において、管理会計損益が現地国税務当局が課税の指摘をするための「格好の材料」になってしまうのではないか、ということだと考える。

ここは「説明をできるような状態にしておく」しかないのだと思うが、そのためにはどうしたらよいのだろうか。実際の取引に使用する(財務会計用)価格と、管理会計用の価格とを併用するが、管理会計用価格はあくまでも内部管理目的に使用しているだけである、と説明することであろうか。

もっと踏み込んで考えないといけないが、一旦ここまで。