移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ⑥)

これまでPillar 1のAmount B(以下では「利益B」と表記する)について、以下を含む3回触れてみたが、2022年12月8日にOECDが利益Bについての公開討議文書を公表したとのことなので、以下の3つの資料をもとに、概要をメモしておく。

tpatsumoritaira.hatenablog.com

 

令和4年度内外⼀体の経済成⻑戦略構築にかかる国際経済調査事業(諸外国等における経済の電⼦化を踏まえた課税の動向及びそれを踏まえた我が国の国際課税制度の在り⽅等に係る調査研究事業 )調査報告書、令和5年3⽉、KPMG税理⼠法⼈(以下「KPMG報告書」

 

PUBLIC CONSULTATION DOCUMENT Pillar One – Amount B
8 December 2022 – 25 January 2023
(以下「公開討議文書」)

 

PWC税理士法人国際税務サービスグループ(移転価格)パートナー船谷晃一、ディレクター城地徳政、シニアマネージャー清水迫誠「国際課税の大原則を転換するデジタル経済課税/第1の柱に係る最近の議論の動向について 第3回(最終回)利益B:一定の販売会社が得るべき独立企業間利益の算定を簡素化し効率化する新ルールの動向」、『国際税務』2023年4月号(以下「PWC記事」)

 

 

目的

  • 「利益Bを通じて達成すべきIFの要請は、検証対象者である各国の販売会社に対して…TNMM…を適用する前提において、利益Bの対象範囲内の全ての取引について独立企業原則に従ったアウトプットを確保しつつ、国内の基本的なマーケティング及び流通活動の価格設定を簡素化及び合理化することにある。」(「KPMG報告書」P.72-73)
  • “…Amount B is intended as a simplification and streamlining measure in applying the arm’s length principle…”(「公開討議文書」2 Para.7)
  • なお、「公開討議文書」Aim and structure of the public consultation document(P.4)において、”However, there is not a common view on the form of the implementation at this stage and other options are being explored, including consideration of the mandatory or elective nature of Amount B.”との記載もあり、適用が義務的なものとなるのか、それとも選択的なものとなるのかは決まっていないようである。(個人的には導入するのであれば義務的にしてほしい、そうでないと争いのもとを増やしているだけのように思う。)

 

適用範囲

  • 「公開討議文書」3. Scope of Amount Bの以下の引用(下線は当記事筆者)の通り、販売会社だけでなく、販売代理店及びコミッショネアの取引までが対象として想定されている。

3.1. Qualifying transactions and scoping criteria

1. Amount B would apply to the following intra-group transactions, where either category of tested party is referred to collectively as “distributors”:


a. Buy-sell arrangements where the tested party purchases goods from one or more associated enterprises resident in other jurisdictions for wholesale distribution to unrelated parties primarily in its local market; and

b. Sales agency and commissionaire arrangements where the tested party contributes to wholesale distribution of goods for a related party and to the extent they exhibit economically relevant characteristics similar to those outlined in the scoping criteria for Amount B. …

  • 対象となるかどうかを決定する基準(scoping crieteria)は、「公開討議文書」3 Para.18において以下の通り定められている。「KPMG報告書」P.74‐5における翻訳(要約)と、個人的な疑問点を併記しておく。

 

価格設定方法

  • 「公開討議文書」1. Amount B pricing methodology(下線は当記事筆者。)
    • Box 4.1. Box to public commentators on the Amount B pricing methodology

      • The Amount B pricing methodology is being designed to deliver on the mandate of the IF Statement of October 2021 to simplify and streamline application of the arm’s length principle to in-country baseline marketing and distribution activities, considering the specific needs of low-capacity countries. The pricing methodology will rely on the application of common benchmarking search criteria to identify comparable entities performing baseline marketing and distribution activities drawing upon publicly available corporate financial information.
      • (仮訳)利益Bの価格設定方法は、2021年10月のIF声明の要請に基づき、執行能力が十分でない国々特有の要求を考慮し、国内での基本的なマーケティングおよび流通活動について、独立企業間原則を適用するのを簡素化・合理化するために設計される。その設定方法は、公開されている情報を活用し、基本的なマーケティングおよび流通活動を行うコンパラブルを特定するための共通のベンチマーク検索基準を適用することになる。

       

  • 「この…共通ベンチマーク選定基準により選定した基礎的なマーケティング及び販売活動に従事する独立第三者の比較対象企業の分析結果を前提として、…計量経済学的な手法により利益Bを算定することが検討されてい」る。(「PWC記事」3.)
  • この「計量経済学的な手法」というのがわかりづらいが、「公開討議文書」4.2 Para.53には、”The dataset is subject to econometric analysis to define the economically relevant characteristics reliably observed to correlate with levels of profitability.”とのことであり、要は「販売会社の利益水準と相関の高い経済的特徴を特定した上で計量経済学的手法に落とし込むことを検討してい」(「PWC記事」3.(ii))るようである。
  • 例えば「売上高営業資産比率と売上高販管費比率については、これらが高いほど営業利益水準も高い傾向が認められる」(「PWC記事」3.(ii))ことをもとに、一定の売上高販管費比率であれば、一定の営業利益水準が利益Bの独立企業間利益として決まるようなことが想定されている。
  • そして「公開討議文書」4.3 Para.69に”Without prejudice to further consideration of alternative net profit indicators, operating margin or return on sales is considered the most appropriate net profit indicator in most instances that are within scope of Amount B.”とあるように、売上高営業利益率が利益Bの利益水準指標として最も適切であるとされている。

 

気になる点

「利益Bの検討作業は…第1の柱の利益Aの検討作業の検討予定である2023年半ばに合わせて完了予定とされてい」(「PWC記事」)るとのことで、詳細はこれから決まっていくのだろうが、現時点で気になるのは以下の2点である。(これらの疑問点は過去記事にて取り上げたものと同じであり、過去記事時点から進展したはずの「公開討議文書」においても依然明確になっていないことがよくわかった。)なお、個人的には1年前の記事でも触れたが、利益Bのような方法は販売子会社のみならず、製造機能にも拡大してほしい。

  1. 利益Bを実現する手段…実務観点では、利益率水準自体がどう決まるかよりも、決まった利益率水準をグループ販売子会社で確実に達成する手段が気になる。
    • 例えば、年度が終了した時点で、親会社から仕入れて第三者に転売している、あるグループ販売子会社の利益率が利益Bで定められた売上高営業利益率水準に満たない場合、未達部分は当該販売子会社の申告書上で加算し、この会社に製品を販売している親会社側で減算すれば済むのか。
    • あるいは、当該子会社と親会社との間での価格調整金の収受が認められるのか、そしてその場合に子会社が親会社から輸入する取引における関税との関係はどうなるのか。
    • いずれにしても、年度が終了した時点において、販売子会社の売上高営業利益率実績が、利益Bで定められた売上高営業利益率と大きく乖離しないように、日々の取引における価格コントロールをこれまで以上にきめ細かく実施する必要がありそう。
    • また、これはマイナーな論点かもしれないが、外ー外取引(海外販売子会社が海外製造子会社から仕入れて第三者に転売する取引)で販売しているグループ販売子会社の場合にはどうなるのだろうか。
  2. 販売代理店・コミッショネアへの利益Bの適用有無…「販売代理店及びコミッショネア」を「バイセル取引」と同列に扱うのか?
    • この「販売代理店及びコミッショネアの取決め」を「利益Bの対象に含めるかどうかは決定しておらず、本公開討議文書でその是非についてのインプットが求められている論点」(「KPMG報告書」P.73、注166)とのこと。
    • また、「…利益Bの対象となる取引形態からは販売代理及びコミッショネア取引を除外すべき(売買を伴う販売会社と比較して機能リスクが小さく、機能リスクに比して過大な利益が与えられる可能性があるため)との意見も見られる」(「PWC記事」注8)とのこと。