移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

Amount B(Pillar One勉強用メモ③)

Pillar Oneの勉強の続き。

Pillar Oneのうち、Amount Bについては、「既存の移転価格税制を簡素化し、新興国の税務執行の便宜を図るという点において新しいにすぎない」*1と評価され、注目度は低いように感じている。

また、Statement on a Two-Pillar Solution to Address the Tax Challenges Arising from the Digitalisation of the Economy – 8 October 2021でも言及は以下の記述のみ(正確に言えば、Annex内でスケジュールについてもう少し記述あり)で、現時点(2022年5月)での情報も少ない中ではあるが、Amount BはAmount Aのように限定された多国籍企業グループのみが対象となるのではなく、Amount Bの対象として定義された「基本的なマーケティング及び販売活動"baseline marketing and distribution activities"」を行っている多国籍企業グループ内の企業に広く適用される(2020 年 10 月に公表されたPillar 1 に関するブループリント第8章(以下「ブループリント」)658.)と理解していることから、より喫緊の問題として少し理解を深めておきたい。

Amount B
The application of the arm’s length principle to in-country baseline marketing and distribution activities will be simplified and streamlined, with a particular focus on the needs of low capacity countries. This work will be completed by the end of 2022.

 

Amount Bとは

Amount Bは、2020年10月のブループリントで"a fixed return for certain baseline marketing and distribution activities taking place physically in a market jurisdiction, in line with the ALP"、「市場国で物理的に行われている基本的なマーケティング及び販売活動に対する、独立企業間原則に則った固定的リターン」と定義されている。Amount Bは、Amount Aのように「企業がその国に物理的拠点を有するか否かを問わず、市場国に対して課税権を付与する」*2ものではなく、あくまでも「taking place physically」な活動を対象とすることから、多国籍企業の子会社及びPEを対象とするものと理解する。

 

「ブループリント」650.を大雑把に意訳すれば、その目的は、販売活動に対するリターンを固定化することによって、税務当局、納税者の双方にとって課税の執行、遵守をシンプル化し、双方間での諍いを減らすことにある。ここまでは書いていないが、さらに大雑把に言えば、単純な販売活動は大体これくらいのリターン、ということで合意してしてしまい、この分野で争うのは止めよう、ということか。

 

上述「ブループリント」658.の通り、Amount BはAmount Aのように限定された多国籍企業グループのみが対象となるのではなく、Amount Bの対象として定義された「基本的なマーケティング及び販売活動"baseline marketing and distribution activities"」を行っている多国籍企業グループ内の企業に広く適用される。

また、Amount Bの対象となる関連者間取引は同660.において以下の通り、2つ定められている。(前者と後者との違いがよくわからないが、後者は「基本的なマーケティング及び販売活動」を行うが、製品の販売取引自体そのものには関わらないケース、例えば、販売活動を委託されるケースを想定しているのだろうか。)

  • 所在地国において、非関連得意先への転売目的で海外のグループ会社から製品を購入する取引、及び関連する基本的な販売活動
  • 販売会社が海外のグループ会社と係わりながら、居住地国において実施する基本的なマーケティング及び販売活動

 

該当/非該当リスト

「ブループリント」662.は「Amount Bは、取引の正確な描写によって、独立企業としてルーティンの販売会社として位置付けられるような機能を果たし、リスクを負担し、資産を保有する販売会社に適用される。」とする。

ある多国籍企業グループの構成企業にAmount Bが適用されるかどうかは、その構成企業の活動が「基本的なマーケティング及び販売活動"baseline marketing and distribution activities"」に該当するかどうかがポイントとなってくるため、該当する機能・リスク・資産のリスト(positive list)と、該当しない機能・リスク・資産のリスト(negative list)が提示されている(667.~672.)。

これらのリストはOECDが考える、いわゆる「典型的な販売会社」とは何か、が明確に提示されており、興味深い。

また、これらの該当/非該当を判定するに当たって、定性的な説明だけでなく、定量的な指標が提示される可能性にも言及されている(「ブループリント」673.~677.)。

この「ブループリント」上では具体的な定量指標そのものは示されていないが、以下のような指標が考えられることが列挙されている(676.)。上記の定性評価だけでは実務上は揉めそうなので、これらは具体的な閾値とともに提示してほしい。

  • 販売会社の総費用のうちの一定割合を占めるマーケティング・広告費用、研究開発費用は、マーケティング無形資産の開発・維持等や戦略的な販売・マーケティング機能の遂行を示唆する。
  • 一定水準以上の在庫割合(対売上高比)、在庫の評価減、売上債権残高は重要なリスクの所在を示唆する。

 

「固定的リターン」の設定

Amount Bの対象となる基本的なマーケティング及び販売活動に対する固定的リターンを算定する上ではTNMMが最適な移転価格算定手法とされており(685.)、最も適切な利益指標としては(分子分母ともに詳細はこれから決められることになるが)売上高利益率が想定されている(686.)。

そのほか、この「固定的リターン」は販売会社の担当地域、所在する産業、機能をどの程度実施するかによって異なる数値が使用される可能性にも言及されている。(688.~692.)

なお、Commissionaires and sales agents(委託販売会社や販売代理店)をAmount Bの対象とするかどうかも今後の検討ポイントとして挙げられている(684.)。

 

今回はここまでとしたい。次回はAmount Bの続きを少し。

*1:南繫樹「デジタル課税――主権国家間の『協調の体系』形成への試み」『ジュリスト』2022年2月号(No.1567)P.22

*2:同上P.21