「世界標準の経営理論」(入山章栄著、ダイヤモンド社)に基づいて、移転価格税制のあれこれについて考えてみる試みの第3回。
今回は「第3章 リソース・ベースト・ビュー(RBV)」を対象とする。
要約
- 「完全競争から、独占の方向に自社の競争環境・強みを持っていく」方法として、SCP理論が「市場でのポジショニングや業界構造を考えるのに対し」て、RBV(resource based view、「資源ベース理論」)は「製品・サービスを生み出すための経営資源(リソース)に注目する」(P.85)。
- RBVのエッセンスをまとめると、
「命題1ーー企業リソースに価値があり(valuable)、稀少な(rare)時、その企業は競争優位を実現する。
命題2ーーさらにそのリソースが、模倣困難(inimitable)で、代替が難しい(non-substitutable)時、その企業は持続的な競争優位を実現する。この時リソースの模倣困難性は、蓄積経緯の独自性、因果曖昧性、社会的複雑性で特徴づけられる。」(P.74)
- 「企業リソースの代表例は、人材、技術、知識、ブランドなど」(P.66)で、「他にも、企業の立地条件、工場施設、財務資源、サポート企業との関係、等もリソースの一種」(P.67)である。
- 「経営理論としてのRBVには、様々な課題がある。」(P.76)
- 例えば、「RBVは、『企業は価値があって、稀少で、他社から模倣されにくいリソースを持つべき』と言っているが、これでは具体的に何をすべきかわからない。知りたいのは、『ではリソースの価値を高めるにはどうすべきか』『リソースを模倣困難にするにはどうすべきか』といった、より踏み込んだ処方箋のはずだ」が、「RBVはこの踏み込みが弱い」(P.81)。
- また、RBVの命題は同義反復になっている、リソースの「価値」は一義的には決まらない等の指摘もある。
第3章からの示唆
- RBVは移転価格税制における無形資産の議論を思い起こさせる。RBVで価値があり、稀少性があるとされる企業リソースとは、移転価格税制における「価値ある無形資産」に非常に近いものではないのかと感じる。
- 「OECD移転価格ガイドライン」6.10では、無形資産を保有していたとしても、それが「ユニーク」な無形資産でないと、超過利益は配分されないこととされ、この「ユニーク」な無形資産は6.17で以下の通り定義されている。
- 移転価格税制における「ユニークで価値ある無形資産」とはRBVにおける「価値があって、稀少な企業リソース」とほぼ一緒なのではないだろうか?上記OECDガイドライン6.17の定義に登場する「比較可能ではな」いという点はRBVにおける「稀少」「模倣困難性」に対応し、「大きな将来的な経済的便益を生み出す」という点はRBVにおける「価値がある」という点に対応しているように思う。違いがあるとすれば、せいぜい、移転価格税制における「ユニークで価値ある無形資産」には、無形資産の定義からは除かれる有形資産や金融資産が含まれていない一方で、RBVにおける「価値があって、稀少な企業リソース」には含まれ得ることだけだろうか。
- そして、移転価格税制における「ユニークで価値ある無形資産」にトートロジー感があるところも、そっくりである。(ユニークで価値ある無形資産は「将来的な経済的便益を生み出すと見込まれる無形資産」とされるが、「価値がある」と「経済的便益を生み出す」は同じではないのか。)