移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

「世界標準の経営理論」からの示唆④(ポジショニングと移転価格)

前回の続き。

tpatsumoritaira.hatenablog.com

RBVにおける「価値があり、稀少性があるとされる企業リソース」が移転価格における無形資産の概念と対応するとするならば、SCPにおける産業属性やポジショニングは、移転価格税制上、どのように取り扱われていると考えればよいのだろうか?

  1. 移転価格税制で産業属性らしきものが登場するのは、移転価格算定手法としてTNMMを採用した場合の、比較対象企業を絞り込む過程における産業分類であろうか。
  2. ただ、この産業分類は粗すぎるし、これが登場するのがそもそも、検証対象法人としての機能・リスク限定型のグループ子会社の適正な利益率水準を割り出そうとするプロセスのなかであり、経営学におけるグループ全体の産業属性・ポジショニングの議論からは「ずれて」いる。より本質的には、グループ全体を一つの企業体として考えた場合の産業属性やポジショニングの巧拙によって発生する超過利益、ないし損失は移転価格税制上どのように扱われているのかを考えるべきであろう。
  3. 移転価格税制上、グループのほとんどの子会社との取引においてTNMMを採用する典型的な日系多国籍企業グループを考えた場合、超過利益は親会社に帰属させる、という整理になることが多い。これは結果的には、産業属性の選択の良し悪しや、ポジショニングの巧拙の責任を日本の親会社が取っている、ということになる。親会社がグループ全体の超過利益を総取りするのは、「開発機能を親会社がすべて担っているから」「重要な無形資産を親会社が保有するから」ではなく(そのように考えがちだし、もちろんその側面もあるのだが)、より本質的には「親会社がグループ全体の戦略を決定しているから」と考えるべきである。
  4. 神戸大学の三品教授は「長期の業績トレンドは、…事業のデザインや立地で上限が決まってくる。企業間の本質的な違いの一片は、固定度の高い事業デザインや事業立地に埋め込まれている」と主張する(戦略不全の因果―1013社の明暗はどこで分かれたのか | 三品 和広 |本 | 通販 | Amazon、P.125)。「事業デザインや事業立地」を決定することこそが、グループ全体の浮沈を決定づけているとするならば、移転価格税制がこの点を論じないのは不自然であると言わざるを得ないが、理論的には超過利益の親会社総取りの正当性をこのように考えた方が納得度は高い。そして、この立場に立つならば、超過利益の少なくとも大きな割合は定式配賦の対象たり得ず、親会社が総取りするしかない。