移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

PE勉強の続き②

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前回は仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局の第2編「第1章 恒久的施設とは」(P.392~408)を読みながら、国内税法での定義と、日米租税条約の定めを対比させながら、自分の理解のためにまとめてみたが、国内税法、日米租税条約には登場しない「サービスPE」について勉強する。

 

今回の教科書は、増井良啓・宮崎裕子著「国際租税法(第4版)」東京大学出版会。第5章「外国法人・非居住者の事業所得に関する申告納付」の「5-3 PE概念の意義と限界」に以下の説明がある。(P.100)

「PEなければ課税なし」のルールの下では、国内でサービスが提供されていても、PEがなければ、外国企業の事業所得に課税できない。これに不満を持つ国々は、一定の場合にPEがあるとみなすいわゆるサービスPEの規定を租税条約に盛り込むことを要求する。

実際に日中租税条約の該当箇所を見てみる。納税協会連合会「租税条約関係法規集」清文社より引用。英語、日本語の順番で。

Article 5 

5. An enterprise of a Contracting State shall be deemed to have a permanent establishment in the other Contracting State if it furnishes in that other Contracting State consultancy services through employees or other personnel--other than an agent of an independent status to whom the provisions of paragraph 7 apply--provided that such activities continue (for the same project or two or more connected projects) for a period or periods aggregating more than six months within any twelve-month period.

第5条(恒久的施設)

5 一方の締約国の企業が他方の締約国内において使用人その他の職員(7の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)を通じてコンサルタントの役務を提供する場合には、このような活動が単一の工事又は複数の関連工事について12箇月の間に合計6箇月を超える期間行われるときに限り、当該企業は、当該他方の締約国内に「恒久的施設」を有するものとされる。

例えば、日本企業の社員が中国において、6箇月を超える期間に渡って「コンサルタントの役務を提供する場合」には、PEを有すると判定され、当該日本企業は中国において企業所得税を課されることになる。ここでは以下2点に注意が必要と思われる。

  1. 日本語版では「工事」に関連するコンサルタントサービスに限定されているかのようにも読めるが、英語版では「工事」という言葉は登場しない。consultancy servicesとしか述べておらず、期間の判定方法における判定の単位もprojectとされているのみである。なぜprojectが「工事」になるのかわからず、紛らわしい(「工事」だと建設PEの範囲であるかのような印象を抱く)が、「解釈に相違がある場合には、英語の正文による。」と日中租税条約に規定されているので、「工事」という概念は無視でき、「コンサルタントサービスの役務」は限定なしに対象になると理解した。
  2. 「12箇月の間に合計6箇月」という期間についての定めは、英文版ではsix months within any twelve-month periodとなっている。"any" twelve-month periodなので、暦年上の1年に限らず、「連続する12箇月間のうちの6箇月」ということになると理解した。

最後に、サービスPEからは脱線するが、上記サービスPEにおける「6箇月」という期間による判定は、日中租税条約第5条における建設PEの規定でも同様となっており、前回記事における国内税法・日米租税条約の建設PE規定での定め(12箇月を超える場合)よりも短縮されていることにも注意が必要となる。引用は上記同様、納税協会連合会「租税条約関係法規集」清文社より。(英文は省略。)

第5条(恒久的施設)

3 建築工事現場又は建設、組立工事若しくは据付工事若しくはこれらに関連する監督活動は、6箇月を超える期間存続する場合に限り、「恒久的施設」とする。