移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

PE勉強の続き③(準備的・補助的活動)

これまでPEについては複数回(「手始め」勉強①(国内法と租税条約)勉強②(サービスPE))に渡って、ごくごく基本的なところから勉強用のメモを作成してきたが、今回もその続き。今回は、「PEから除外される特定の活動」である。

使用した文献は以下の2つ。

北村導人「第6章 恒久的施設(Permanent Establishment)課税を巡る現代的諸問題」(金子宏監修「現代租税法講座 第4巻国際課税」日本評論社、2017年 所収)(以下、文献①)

北村導人・柴田英典「恒久的施設(PE)に関する近時の動向と実務への影響」(2018年7月、PwC Legal News)(以下、文献②)

■2017年OECDモデル租税条約改正前の問題点

OECDモデル租税条約第5条4項では、「準備的・補助的な性格を有する活動を含む一定の活動等を行うに過ぎない事業所等はPEから除外」(文献①、P.138)されているが、2014年版では以下の通り規定されていた。(OECDのサイトより。)

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ここで、文献①では、第5条4項のa)~d)の解釈として、(ⅰ)準備的・補助的性格不要説と、(ⅱ)準備的・補助的性格必要説の2説がある旨を指摘している。すなわち、(ⅰ)では、a)~d)に該当すれば「その活動が準備的・補助的な性格を有するものであるか否かにかかわらず」直ちにPEに該当しないと判断されるのに対して、(ⅱ)では、a)~d)も、e)やf)に付記されているように、PEに該当しないと判断されるためには"a preparatory or auxiliary character"を備えている必要があるとする。(文献①、P.138)

そして、2007年に米国アマゾン社が「日本法人である物流会社に物流業務を委託していたが、課税当局は、同社の倉庫センター内に、アマゾン社のPEがあると認定した」(同P.144)事件を例に、「電子商取引が普及した現代においては、OECDモデル条約5条4項(a)~(d)に列挙されている活動が行われている場所であっても、機能的に分析すると、相当程度の利益を帰属させるべきと認定できる場合がありうる」とする。(同P.144~5) 

■2017年OECDモデル租税条約の改正

2017年の改正で第5条4項は以下の通りとなった。(OECDのサイトより。)

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一読するだけでは改正前との違いが分かりづらいかもしれないが、ポイントとなるのはa)~f)列挙後の、provided that...の部分である。such activityとは列挙されているa)~f)の各活動(f)の場合には事業上の固定的施設の活動全体)であり、これらの活動が"a preparatory or auxiliary character"を備えていることを条件とする、と改正されている。(改正前は"a preparatory or auxiliary character"を備えていることが条件となっていたのはe)とf)のみであったのが、a)~d)も含めた条件となった。)つまり、先の「(ⅱ)準備的・補助的性格必要説」が明確に採用されたのである。

なお、”auxiliary”とは英英辞書(Oxford Advanced Learner's Dictionary)では”giving help or support; additional”と定義されており、用例として"auxiliary troops"や"an auxiliary nurse"が提示されている。日本語の「補助的」よりも「支援」的な意味合いを含むようだが、以下国内法の定義(所得税法基本通達161-1の3「補助的な性格のものの意義」)においても「支援」という用語が使用されている。

■改正後の国内法

OECDモデル租税条約の改正に対応して、国内法上も平成30年度税制改正において、「PEから除外される特定の活動」の定義が明確化された。(文献②を参照して、各条文にあたった。下線は筆者。)

所得税法施行令

第1条の2 4 非居住者又は外国法人の国内における次の各号に掲げる活動の区分に応じ当該各号に定める場所(当該各号に掲げる活動を含む。)は、第一項に規定する政令で定める場所及び第二項に規定する政令で定めるものに含まれないものとする。ただし、当該各号に掲げる活動(第六号に掲げる活動にあつては、同号の場所における活動の全体)が、当該非居住者又は外国法人の事業の遂行にとつて準備的又は補助的な性格のものである場合に限るものとする。
一 当該非居住者又は外国法人に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること 当該施設
二 当該非居住者又は外国法人に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること 当該保有することのみを行う場所
三 当該非居住者又は外国法人に属する物品又は商品の在庫を事業を行う他の者による加工のためにのみ保有すること 当該保有することのみを行う場所
四 その事業のために物品若しくは商品を購入し、又は情報を収集することのみを目的として、第一項各号に掲げる場所を保有すること 当該場所
五 その事業のために前各号に掲げる活動以外の活動を行うことのみを目的として、第一項各号に掲げる場所を保有すること 当該場所
六 第一号から第四号までに掲げる活動及び当該活動以外の活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、第一項各号に掲げる場所を保有すること 当該場所

所得税法基本通達 

(準備的な性格のものの意義)
161-1の2 令第1条の2第4項に規定する事業の遂行にとって準備的な性格のものとは、本質的かつ重要な部分を構成する活動の遂行を予定し当該活動に先行して行われる活動をいうことに留意する(平30課個2‐29、課法12‐104、課審5-8追加)。

(注) 本文の「先行して行われる活動」に該当するかどうかの判定は、その活動期間の長短によらないことに留意する。

 

(補助的な性格のものの意義)
161-1の3 令第1条の2第4項に規定する事業の遂行にとって「補助的な性格のもの」とは、本質的かつ重要な部分を構成しない活動で、その本質的かつ重要な部分を支援するために行われるものをいうのであるから、例えば、次に掲げるような活動はこれに該当しない(平30課個2‐29、課法12‐104、課審5‐8追加)。

(1) 事業を行う一定の場所の事業目的が非居住者又は外国法人の事業目的と同一である場合の当該事業を行う一定の場所において行う活動

(2) 非居住者又は外国法人の資産又は従業員の相当部分を必要とする活動

(3) 顧客に販売した機械設備等の維持、修理等(当該機械設備等の交換部品を引き渡すためだけの活動を除く。)

(4) 専門的な技能又は知識を必要とする商品仕入

(5) 地域統括拠点としての活動

(6) 他の者に対して行う役務の提供