移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

PE勉強の続き④(代理人PE)

これまでPEについては複数回「手始め」勉強①(国内法と租税条約) 勉強②(サービスPE)、勉強③(準備的・補助的活動)に渡って、ごくごく基本的なところから勉強用のメモを作成してきたが、今回もその続き。今回取り上げたいのは「代理人PE」である。

使用した文献は以下の3つ。

奥居寛生「従属代理人PEの帰属利得算定方法に関する一考察」(2019年、https://www.sozeishiryokan.or.jp/award/028/006.html)(以下、文献①)

北村導人「第6章 恒久的施設(Permanent Establishment)課税を巡る現代的諸問題」(金子宏監修「現代租税法講座 第4巻国際課税」日本評論社、2017年 所収)(以下、文献②)

北村導人・柴田英典「恒久的施設(PE)に関する近時の動向と実務への影響」(2018年7月、PwC Legal News)(以下、文献③)

 

■2017年OECDモデル租税条約改正前の問題点

2014年OECDモデル租税条約第5条第5項・第6項では、代理人PEは以下の通り規定されていた。(公益財団法人 納税協会連合会「平成27年版 租税条約関係法規集」より。)

5. …企業に代わって行動する者(6の規定が適用される独立の地位を有する代理人を除く。)が、一定の締約国内で、当該企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、当該企業は、その者が当該企業のために行うすべての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。…

6. 企業は、通常の方法でその業務を行う仲立人、問屋その他の独立の地位を有する代理人を通じて一方の締約国内で事業を行っているという理由のみでは、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされない。

2015年BEPS最終報告書において、当該代理人PE規定を回避できる3つの方法が挙げられている。(文献①P.7-8)

  • (a)コミッショネア・アレンジメント:コミッショネアが「コミッショネア自身の名において」製品所有者である外国企業に代わって販売することで、「当該企業の名において契約を締結する権限を有」するという代理人PE認定の条件を回避する。コミッショネアは製品を所有していないので販売収益には課税されず、そのサービスについて受け取る報酬(コミッション)に対してのみ課税される。
  • (b)コミッショネア・アレンジメントに類似した方法:代理人によって一方の国で実質的に交渉される契約が、外国企業によって最終化・承認されるという理由で、当該国で締結されない場合、代理人は契約締結権限を有していないため、当該国において代理人PEは認識されず、課税されない。
  • (c)独立代理人に該当する場合:代理人が外国企業と密接に関連している場合でも、独立代理人となることで、代理人PE認定を回避する。

このうち、(a)のケースとして、英国Zimmer社がフランス子会社をバイセル型販売会社からコミッショネアに再編したケースが文献①(P.4-6)、文献②(P.146-7)で取り上げられている。このケースでは、フランス子会社は、顧客との販売契約を子会社名義にて(Zimmerのために)締結していたが、このフランス子会社がZimmerの従属代理人に該当するかどうかが争われた。判決では、コミッショネアであるフランス子会社が、法的にZimmerを拘束しないのであれば、代理人PEには該当しないと判断された。文献②では「現行の租税条約の下では、その規定の文言に照らして、本人を経済的に拘束する場合まで拡大して解釈されるべきではなく、あくまでも法的に拘束されるものに限られると解釈するのが合理的である」(P.147)と指摘されている。
そして、文献①では「Buy-Sell型の取引を行っていた販売子会社をコミッショネアにし、コミッショネア契約を締結することで、源泉地国の利益をコミッショネアから本人に移転させることができる取引が多くの国で行われることとなった。このコミッショネア・アレンジメントにより、販売収益は本人所在国で課税され、源泉地国ではコミッショネアが受け取る手数料にしか課税することができないため、源泉地国での課税額はほとんどの場合で減少している。コミッショネアへの変更が形式的なものであり、実質は変わっていない場合であっても」(P.6)代理人PEを回避できることが問題となっていたことが指摘されている。(以前の記事で取り上げた、アマゾンのケースや、アドビ事件でもこのような問題が発生していた。)

 

■2017年OECDモデル租税条約の改正

2017年OECDモデル租税条約において、第5条第5項・第6項の規定が以下の通り改正された。(水野忠恒監訳「OECDモデル租税条約(所得と財産に対するモデル租税条約)〈2017年版〉」日本租税研究協会、2019年 より。)

5. …一方の締約国内において企業に代わって行動する者(が)、そのように行動するに当たって、反復して契約を締結し、又は当該企業により重要な修正がなされることなく日常的に締結される契約のために、反復して主要な役割を果たしている場合において、これらの契約がa)からc)までの規定のいずれかに該当する場合には、当該企業は、その者が当該企業のために行う全ての活動について、当該一方の締約国内に恒久的施設を有するものとする。…
a)当該企業の名において締結される契約
b)当該企業が所有し、又は企業が使用の権利を有している財産について、その所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約
c)当該企業による役務の提供のための契約

6. 5の規定は、一方の締約国内において他方の締約国の企業に代わって行動する者が、当該一方の契約国内において独立の代理人(independent agent)として事業を行う場合において、当該企業のために通常の方法で当該事業を行うときは、適用しない。ただし、その者が、専ら又は主として一又は二以上の自己と密接に関連する企業に代わって行動する場合には、当該企業について本6の規定に定める独立の代理人とはされない。

もともとの要件である「a)当該企業の名において」に加えて、「b)当該企業が所有し、又は企業が使用の権利を有している財産について、その所有権を移転し、又は使用の権利を与えるため」、「 c)当該企業による役務の提供のため」に契約を締結する場合も、代理人PEに該当することとされた。

この改正により、上記の2015年BEPS最終報告書で指摘された「代理人PE規定を回避できる3つの方法」は、それぞれ以下の通り取り扱われることになった。(文献②P.8-9)

  • (a)コミッショネア・アレンジメント:コミッショネアが「コミッショネア自身の名において」、製品所有者である外国企業に代わって販売することで代理人PE認定を回避していたが、「a)当該企業の名において」に加えて、「b)当該企業が所有し、又は企業が使用の権利を有している財産について、その所有権を移転し、又は使用の権利を与えるため」に契約を締結する場合においても代理人PEに該当することとなった。
  • (b)コミッショネア・アレンジメントに類似した方法:契約の最終化は本人だからという理由でコミッショネアは契約締結権限を有しないとしていたが、「日常的に締結される契約のために、反復して主要な役割を果たしている場合」においても代理人PE認定ができるようになった。
  • (c)独立代理人に該当する場合:代理人が外国企業と密接に関連している場合でも、独立代理人となることで、代理人PE認定を回避していたが、「その者が、専ら又は主として一又は二以上の自己と密接に関連する企業に代わって行動する場合には」独立代理人に該当しないとされた。

 

■改正後の国内法

OECDモデル租税条約第5条における代理人PEの拡張に対応して、平成30年度税制改正において、国内法上も同様に拡張された。(下線は筆者。)

法人税法

第2条十二の十九 恒久的施設 次に掲げるものをいう。ただし、我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約において次に掲げるものと異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける外国法人については、その条約において恒久的施設と定められたもの(国内にあるものに限る。)とする。
イ 外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの
ロ 外国法人の国内にある建設若しくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供を行う場所その他これに準ずるものとして政令で定めるもの
ハ 外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの

法人税法施行令

第4条の4 7 法第二条第十二号の十九ハに規定する政令で定める者は、国内において外国法人に代わつて、その事業に関し、反復して次に掲げる契約を締結し、又は当該外国法人によつて重要な修正が行われることなく日常的に締結される次に掲げる契約の締結のために反復して主要な役割を果たす者(当該者の国内における当該外国法人に代わつて行う活動(当該活動が複数の活動を組み合わせたものである場合にあつては、その組合せによる活動の全体)が、当該外国法人の事業の遂行にとつて準備的又は補助的な性格のもの(当該外国法人に代わつて行う活動を第五項各号の外国法人が同項各号の事業を行う一定の場所において行う事業上の活動とみなして同項の規定を適用した場合に同項の規定により当該事業を行う一定の場所につき第四項の規定を適用しないこととされるときにおける当該活動を除く。)のみである場合における当該者を除く。次項において「契約締結代理人等」という。)とする。
一 当該外国法人の名において締結される契約
二 当該外国法人が所有し、又は使用の権利を有する財産について、所有権を移転し、又は使用の権利を与えるための契約
三 当該外国法人による役務の提供のための契約

8 国内において外国法人に代わつて行動する者が、その事業に係る業務を、当該外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合には、当該者は、契約締結代理人等に含まれないものとする。ただし、当該者が、専ら又は主として一又は二以上の自己と特殊の関係にある者に代わつて行動する場合は、この限りでない。

法人税法基本通達

(契約の締結の意義)
20-1-5 令第4条の4第7項《恒久的施設の範囲》の「契約」の締結には、契約書に調印することのほか、契約内容につき実質的に合意することが含まれる。(平26年課法2-9「五」により追加、平30年課法2-28「六」により改正)

 

(契約の締結のために主要な役割を果たす者の意義)
20-1-6 令第4条の4第7項《恒久的施設の範囲》に規定する「主要な役割を果たす者」とは、同項各号に掲げる契約が締結されるという結果をもたらす役割を果たす者をいい、例えば、外国法人の商品について販売契約を成立させるために営業活動を行う者がこれに該当する。(平30年課法2-28「六」により追加)

 

(反復して外国法人に代わって行動する者の範囲)
20-1-7 令第4条の4第7項《恒久的施設の範囲》に規定する契約締結代理人等には、長期の代理契約に基づいて外国法人に代わって行動する者のほか、個々の代理契約は短期的であるが、2以上の代理契約に基づいて反復して一の外国法人に代わって行動する者が含まれる。(平30年課法2-28「六」により追加)
(注) 本文の「一の外国法人に代わって行動する者」は、特定の外国法人のみに代わって行動する者に限られないことに留意する。 

(独立代理人
20-1-8 令第4条の4第8項《恒久的施設の範囲》に規定する「国内において外国法人に代わつて行動する者が、その事業に係る業務を、当該外国法人に対し独立して行い、かつ、通常の方法により行う場合」における当該者は、次に掲げる要件のいずれも満たす必要があることに留意する。(平30年課法2-28「六」により追加)

(1) 代理人として当該業務を行う上で、詳細な指示や包括的な支配を受けず、十分な裁量権を有するなど本人である外国法人から法的に独立していること。

(2) 当該業務に係る技能と知識の利用を通じてリスクを負担し、報酬を受領するなど本人である外国法人から経済的に独立していること。

(3) 代理人として当該業務を行う際に、代理人自らが通常行う業務の方法又は過程において行うこと。