移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

金融取引の移転価格の勉強

金融取引の移転価格について、これまであまり実務上考えることがなかったが、いい機会があったので、少し勉強してみた。

■関連条文

OECDが2021年8月3日に公開したTransfer Pricing Country Profilesにおける日本のCountry Profileを見ると、金融取引については、租税特別措置法関係通達(法人税編)66の4(8)-5と、移転価格事務運営要領3-7、3-8を参照することとしている。

租税特別措置法関係通達(法人税編)

(金銭の貸付け又は借入れの取扱い)
66の4(8)-5 金銭の貸借取引について独立価格比準法と同等の方法又は原価基準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る通貨が国外関連取引に係る通貨と同一であり、かつ、比較対象取引における貸借時期、貸借期間、金利の設定方式(固定又は変動、単利又は複利等の金利の設定方式をいう。)、利払方法(前払い、後払い等の利払方法をいう。)、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因が国外関連取引と同様であることを要することに留意する。(略)

(注) 国外関連取引の借手が銀行等から当該国外関連取引と同様の条件の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率を比較対象取引における利率として独立企業間価格を算定する方法は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法となることに留意する。

移転価格事務運営要領

(金銭の貸借取引)
3-7 金銭の貸借取引について調査を行う場合には、次の点に留意する。

(1) 基本通達9-4-2(子会社等を再建する場合の無利息貸付け等)の適用がある金銭の貸付けについては、移転価格税制の適用上も適正な取引として取り扱う。

(2) 国外関連取引において返済期日が明らかでない場合には、当該金銭貸借の目的等に照らし、金銭貸借の期間を合理的に算定する。

 

(独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法による金銭の貸借取引の検討)
3-8 法人及び国外関連者が共に業として金銭の貸付け又は出資を行っていない場合において、当該法人が当該国外関連者との間で行う金銭の貸付け又は借入れについて調査を行うときは、必要に応じ、次に掲げる利率を独立企業間の利率として用いる独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の適用について検討する。

(1) 国外関連取引の借手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

(2) 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率

(3) 国外関連取引に係る資金を、当該国外関連取引と通貨、取引時期、期間等が同様の状況の下で国債等により運用するとした場合に得られるであろう利率

(注)1 (1)、(2)及び(3)に掲げる利率を用いる方法の順に、独立企業原則に即した結果が得られることに留意する。

2 (2)に掲げる利率を用いる場合においては、国外関連取引の貸手における銀行等からの実際の借入れが、(2)の同様の状況の下での借入れに該当するときは、当該国外関連取引とひも付き関係にあるかどうかを問わないことに留意する。

■「事例集」の解説

今一つ、措置法通達66の4(8)-5について、その意味するところ、及び移転価格事務運営要領3-8との関係がピンとこなかったが、 国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下、「事例集」)の【事例4】(独立価格比準法に準ずる方法を用いる場合)の≪前提条件2:金銭の貸借取引の場合≫に掲載されている以下の図(P.29)で理解ができた(ように思う)。

  • 下図上段の「独立価格比準法と同等の方法 又は 原価基準法と同等の方法」が措置法通達66の4(8)-5の内容を表している部分で、ここに「実際の取引金利を使用」と説明が付されている。つまり、独立価格比準法と同等の方法に即して言えば、実際の具体的な第三者間取引(ある事業会社が銀行から借り入れている取引等)を探し出してきて、それを比較対象取引として適用することを述べている(と理解)。より見つかりやすい例としては内部CUPとして、自社が銀行から実際に借り入れている取引における金利を、比較対象取引として適用することが考えられる。

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  •  措置法通達66の4(8)-5の「独立価格比準法と同等の方法」としての「実際の取引金利を使用」する方法は、事務運営要領3-8の「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」としての「市場金利を使用」する方法に優先すると理解。(つまり上図の上から順に適用可能性を検討すればよい。「実際の取引金利」は事務運営要領3-8における「付されるであろう利率」「得られるであろう利率」よりも優先する。)
  • 「準ずる方法」については、これまで十分に理解・認識できていなかった*1が、「事例集」P.10‐11における以下の説明を読み、少し理解ができた。仮に「基本三法を適用した場合」に「比較対象取引を見いだすこと」ができたならば、わざわざ「準ずる方法を適用する可能性」を考える必要はないと理解した。

    (参考3)基本三法に準ずる方法

    基本三法に準ずる方法は、基本三法の考え方から乖離しない限りにおいて、取引内容に適合した合理的な方法を採用する途を残したものと解されている。

    法令の規定に従って基本三法を適用した場合には比較対象取引を見いだすことが困難な国外関連取引について、その様々な取引形態に着目し、合理的な類似の算定方法とすることで比較対象取引を選定できる場合、あるいは、合理的な取引を比較対象取引とすることで独立企業間価格を算定できる場合があり、基本三法よりも比較対象取引の選定の範囲を広げ得ることから、基本三法に準ずる方法を適用する可能性も念頭におき、比較可能性の検討を行う必要がある。  

    [基本三法に準ずる方法の例]
    (1) 国外関連取引と比較可能な実在の非関連者間取引が見いだせない場合において、商品取引所相場など市場価格等の客観的かつ現実的な指標に基づき独立企業間価格を算定する方法

  •  実務上は、事務運営要領3-8「(2) 国外関連取引の貸手が、非関連者である銀行等から当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等が同様の状況の下で借り入れたとした場合に付されるであろう利率」を独立企業間の利率として用いることが多いこと、具体的には「Liborに手数料を上乗せして料率を決めている」ケースが多いことが指摘されている。(山田晴美「チャレンジ!移転価格税制 子会社貸付に係る金利設定方法の現状と今後」『国際税務』Vol.40 No.10、P.95-96。また当記事で「一番多いやり方」として紹介されている事例は、『事例集』【事例4】≪前提条件2:金銭の貸借取引の場合≫も参照。)

■金融取引における比較対象取引の条件

措置法通達66の4(8)-5では比較対象取引として適用する場合の条件として、「通貨」のほか、「貸借時期、貸借期間、金利の設定方式(固定又は変動、単利又は複利等の金利の設定方式をいう。)、利払方法(前払い、後払い等の利払方法をいう。)、借手の信用力、担保及び保証の有無その他の利率に影響を与える諸要因」が「国外関連取引と同様であることを要す」としている。同じく、事務運営要領3-8においても「当該国外関連取引と通貨、貸借時期、貸借期間等」が「同様の状況」にあることを条件としており、ここでの「等」は措置法通達66の4(8)-5で述べられている「通貨、貸借時期、貸借期間」以外の要因を指すものと考えて差し支えないだろう。

■国外関連者寄附金の適用

実務上は、日本親会社と海外子会社との間の金融取引であれば、国外関連者寄附金の検討も必要と理解している。別記事でも触れたが、「事例集」【事例28】(国外関連者に対する寄附金) の説明(以下、抜粋)を読むと、国外関連者との取引は、①まずは国外関連者寄附金の検討が行われ、その上で、②寄附金の問題がない、ということになれば、移転価格税制の観点からの検討が行われる、と理解している。つまり、まずは国外関連者寄附金の検討から始まる。

そして、寄附金は「時価」が基準とされるが、「時価」とは何かは法令上明示されていないとされているものの、金融取引においては、課税当局は他の取引よりも市場金利等から「時価」を見出しやすいものと思われるため、注意が必要と考える。

すなわち、法人が国外関連者との取引に係る収益を計上していない場合において、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められるときには、当該法人が収益として計上すべき金額は国外関連者に対する寄附金となり、措置法第66 条の 4 第 3 項(国外関連者に対する寄附金の損金不算入)の規定の適用を受けることとなる(事務運営指針 3‐20 イ)。

一方、こうした検討により、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められない場合には、当該取引は移転価格税制に基づく課税の対象として取り扱うこととなる。

■追記:OECD金融取引ガイダンス

OECDが2020年2月に公表した金融取引に係る移転価格ガイダンスについても、理解をする必要がありそうだが、各種の記事を読んでも理解できない部分が多く、現時点では体系だった理解は 諦め、上記でも参照した山田晴美「チャレンジ!移転価格税制 子会社貸付に係る金利設定方法の現状と今後」(『国際税務』Vol.40 No.10)で指摘された以下2点を頭に入れておくことに留めたい。(以下はP.97より。)

  • これまでの「貸手の信用力を基にした金利の設定」(すなわち「親会社の借入金利を参照」すること)よりも「借入人の信用格付け」を考慮すべきとされた。
  • 独立企業間のレンジとして使用するためには、「実際の取引に基づくもの」でないといけない。単に「銀行から入手した金利」情報では使用できない。

グループ会社内における「個別会社の信用力」にどれほどの意味があるのかはやや疑問ではあるのだが…。

 

*1:もっと言えば「と同等の方法」も十分に理解できていなかった。「と同等の方法」がつかない、例えば「取引単位営業利益法」は棚卸取引に適用。「と同等の方法」がつく、例えば「取引単位営業利益法と同等の方法」は棚卸取引以外に適用。