移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

ロイヤルティ(無形資産の使用料)取引の基本

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前回の役務提供取引に引き続き、実務の基本的な勉強として、ロイヤルティ(無形資産の使用料)取引についてのメモをまとめる。もとにさせて頂いたのは前回同様、佐和周著「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」中央経済社と、佐和周著「海外取引の経理実務 ケース50」中央経済社の2冊(具体的には前者の第5章の1-3,3-7、後者の第3章「無形資産取引の経理処理」)。なお、厳密なところは、これらの本ないし他の書籍、そして税法にあたって頂きたい。また、海外関係会社にロイヤルティを支払う場合については、自分の実務上生じていないため、省略した。

 

■海外関係会社からロイヤルティを受け取る

①対価を決める

  • 日本親会社に帰属する無形資産を海外関係会社に使用させている場合、ロイヤルティ(使用料)を回収する必要がある。
  • ロイヤルティの独立企業間価格の算定は(1)ロイヤルティのデータベース等から比較対象取引を選定する独立価格比準法、ないし、(2)TNMMに基づき、海外関係会社の超過収益を日本に寄せるために、逆算でロイヤルティ料率を算定する方法、のいずれかを用いることになる。措置法通達66の4(8)-7「無形資産の使用許諾等の取扱い」には以下の通り定められている。

66の4(8)-7 無形資産の使用許諾又は譲渡の取引について、独立価格比準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る無形資産が国外関連取引に係る無形資産と同種であり、かつ、比較対象取引に係る使用許諾又は譲渡の時期、使用許諾の期間等の使用許諾又は譲渡の条件が国外関連取引と同様であることを要することに留意する。また、無形資産の使用許諾又は譲渡の取引について、原価基準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る無形資産が国外関連取引に係る無形資産と同種又は類似であり、かつ、上記の無形資産の使用許諾又は譲渡の条件と同様であることを要することに留意する。

  • 上記通達に定める原価基準法の適用については、羽床正秀編「移転価格税制詳解 令和2年版」P.144において、OECDガイドラインの「無形資産の開発費用に基づいて無形資産価値の推定を行う移転価格算定手法を使用することは、一般的に避けるべき(パラグラフ6.142)」を引用し、原価基準法の適用が難しい旨が指摘されている。
  • また、(2)のTNMMを用いる方法については、「別冊事例集」事例6≪前提条件3≫解説3を参照する必要がある。(詳細の検討は別途行いたい。)
  • 回収漏れがあった場合には、国外関連者寄附金の指摘リスクが高くなる。(「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」3-7④(P.143)において、「設立後間もない会社や赤字の会社からもロイヤルティを回収しているか」というチェック項目があり、回収を見合わせている場合には日本側の税務調査で「回収漏れ」の指摘を受けやすい、とされている。しかし、上記(2)の理屈を採用していた場合には、どうなるのだろうか?海外関係会社が赤字の場合、超過収益どころか、海外側に損失を与えていることになってしまい、海外当局側からは逆に指摘を受けそうである。)
  • ロイヤルティとしての個別回収ではなく、製品価格に含めて回収し、ロイヤルティとしての個別回収を省略することも可能。ただし、この場合は、日本親会社が無形資産を使用させている海外関係会社の製品を全量買い上げしている必要がある。日本親会社が介在しない外ー外取引がある場合には、省略ができない。(取引単位の問題については別の記事でも検討した。)

 

②収益認識

  • 会計上は、期間対応分のロイヤルティを収益認識する。
  • 税務上は、ロイヤルティの額が確定した日の属する事業年度の益金に算入するのが原則。ただし、継続適用を条件に、契約上ロイヤルティ支払いを受けることになっている日の属する事業年度の益金に算入する、という取り扱いも可能。(法基通2-1-30)

 

③契約書の準備、対価の計算

  • ロイヤルティの回収は、一般的には契約書に基づくべき。
  • ロイヤルティ額は、一般的には海外関係会社側において、売上高の一定パーセントという形で計算される。計算は当然、契約書に定められた方法に基づいて行われる必要がある。

 

④請求する場合の消費税の取り扱い

  • 役務提供の内外判定:原則として、(1)特許の場合は、権利を登録した機関の所在地により判定される。つまり、日本国外でのみ登録されている特許の実施権の場合は国外取引、日本でのみの登録の場合は国内取引、また、2ヵ国以上での登録の場合は権利の譲渡・貸し付けをする者の所在地となるため国内取引、(2)権利登録のないノウハウの場合は、権利の譲渡・貸し付けをする者の所在地となるため国内取引。
    →ここで国外取引と判定されれば、消費税は「不課税」となり、それ以上の検討は不要。国内取引と判定されれば、以下の検討に進む。
  • 輸出免税取引の判定:非居住者に対する無形資産の貸付・譲渡は、基本的には「輸出免税」の対象。

⑤対価の入金を受ける(外国税額控除の適用)

  • 海外からロイヤルティの入金を受ける場合、海外で源泉徴収が行われることが多い。
  • ただし、多くの場合、租税条約を適用することにより、源泉税率を低減させることができるため、租税条約の適用手続きを行う。
  • 租税条約適用後、それでも残った源泉税については、海外での源泉地国課税、日本での居住地国課税、の二重課税を解消するために、日本側で外国税額控除の適用を検討する。