移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

グループ内役務提供取引の基本

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実務の勉強として、知らないわけではないが、体系的には勉強してこなかったグループ内役務提供取引についてのメモをまとめる。もとにさせて頂いたのは佐和周著「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」中央経済社、佐和周著「海外取引の経理実務 ケース50」中央経済社の2冊(具体的には前者の第5章の1-7,1-8,3-5,3-6、後者の第4章「役務提供取引の経理処理」)。佐和先生の本は税の種類ではなく、それぞれの場面で必要な知識を横断してまとめているので、実務で非常に使いやすく、他にも数冊、手元に置いている。なお、厳密なところは、これらの本ないし他の書籍、そして税法にあたって頂きたい。

 

■海外関係会社に役務提供を行う

①対価回収の必要性の判断・対価を決める

  • 海外関係会社に対する役務提供の対価回収の必要性を判断する際の、基本的な考え方は、移転価格事務運営要領3-10(1)~(3)に以下の通り定められている。(下線筆者。)

移転価格事務運営要領3-10(企業グループ内における役務提供の取扱い)

(1) 次に掲げる経営、技術、財務又は営業上の活動その他の法人が行う活動が国外関連者に対する役務提供に該当するかどうかは、当該活動が当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうかにより判断する。具体的には、法人が当該活動を行わなかったとした場合に、国外関連者が自ら当該活動と同様の活動を行う必要があると認められるかどうか又は非関連者が他の非関連者から法人が行う活動と内容、時期、期間その他の条件が同様である活動を受けた場合に対価を支払うかどうかにより判断する。

イ 企画又は調整

ロ 予算の管理又は財務上の助言

ハ 会計、監査、税務又は法務

ニ 債権又は債務の管理又は処理

ホ 情報通信システムの運用、保守又は管理

へ キャッシュ・フロー又は支払能力の管理

ト 資金の運用又は調達

チ 利子率又は外国為替レートに係るリスク管理

リ 製造、購買、販売、物流又はマーケティングに係る支援

ヌ 雇用、教育その他の従業員の管理に関する事務

ル 広告宣伝

(注) 「法人が行う活動」には、法人が国外関連者の要請に応じて随時活動を行い得るよう定常的に当該活動に必要な人員や設備等を利用可能な状態に維持している場合が含まれることに留意する。

(2) 法人が行う活動と非関連者が国外関連者に対して行う活動又は国外関連者が自らのために行う活動との間で、その内容において重複(一時的に生ずるもの及び事実判断の誤りに係るリスクを軽減させるために生ずるものを除く。)がある場合には、当該法人が行う活動は、国外関連者に対する役務提供に該当しない。

(3) 国外関連者の株主又は出資者としての地位を有する法人(以下(3)において「親会社」という。)が行う活動であって次に掲げるもの(当該活動の準備のために行われる活動を含む。)は、国外関連者に対する役務提供に該当しない。

イ 親会社が発行している株式の金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第16項(定義)に規定する金融商品取引所への上場

ロ 親会社の株主総会の開催、株式の発行その他の親会社に係る組織上の活動であって親会社がその遵守すべき法令に基づいて行うもの

ハ 親会社による金融商品取引法第24条第1項(有価証券報告書の提出)に規定する有価証券報告書の作成(親会社が有価証券報告書を作成するために親会社としての地位に基づいて行う国外関連者の会計帳簿の監査を含む。)又は親会社による連結財務諸表(措置法第66条の4の4第4項第1号に規定する連結財務諸表をいう。以下同じ。)の作成その他の親会社がその遵守すべき法令に基づいて行う書類の作成

ニ 親会社が国外関連者に係る株式又は出資の持分を取得するために行う資金調達

ホ 親会社が当該親会社の株主その他の投資家に向けて行う広報

ヘ 親会社による国別報告事項に係る記録の作成その他の親会社がその遵守すべき租税に関する法令に基づいて行う活動

ト 親会社が会社法(平成17年法律第86号)第348条第3項第4号(業務の執行)に基づいて行う企業集団の業務の適正を確保するための必要な体制の整備その他のコーポレート・ガバナンスに関する活動

チ その他親会社が専ら自らのために行う国外関連者の株主又は出資者としての活動

(注)1 例えば、親会社が国外関連者に対して行う特定の業務に係る企画、緊急時の管理若しくは技術的助言又は日々の経営に関する助言は、イからチまでに掲げる活動には該当しないことから、これらが(1)に定めるとおり当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものである場合((2)に該当する場合を除く。2において同じ。)には、国外関連者に対する役務提供に該当する。

2 親会社が国外関連者に対する投資の保全を目的として行う活動についても、(1)に定めるとおり当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものである場合には、国外関連者に対する役務提供に該当する。

  • 上記事務運営要領3-10(1)(注)に注意が必要(オンコール取引)。
  • 対価回収の必要性の判断に当たっては、国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」の【事例26】(企業グループ内役務提供)が参考になる。これをみると、基本的には、上記事務運営要領3-10(2)の株主活動・重複活動を除き、海外関係会社に何かしらの役務提供を行った場合には、対価を回収すべき、ということになる。
  • 対価回収が必要となる場合には、役務提供に要した総原価の額に、一定のマークアップをした金額をその対価とする。マークアップ率は独立企業間原則に則り、比較対象取引に適用された率を使用する必要がある。(租税特別措置法関係通達66の4(8)-6には以下の通り、説明されている。前半の「独立価格比準法と同等の方法」は、グループ内向けとグループ外向けに同じ役務を提供している場合にのみ検討される方法と理解し、基本的には「原価基準法と同等の方法」を適用。)また、総原価には役務提供に関連する直接費のみならず、間接費までを含める。

(役務提供の取扱い)

66の4(8)-6 役務提供取引について独立価格比準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る役務が国外関連取引に係る役務と同種であり、かつ、比較対象取引に係る役務提供の時期、役務提供の期間等の役務提供の条件が国外関連取引と同様であることを要することに留意する。また、役務提供取引について、原価基準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る役務が国外関連取引に係る役務と同種又は類似であり、かつ、上記の役務提供の条件と同様であることを要することに留意する。

  • 実務上は、多種多様な内容の、かつ、金額的な重要性も様々な、グループ内役務提供取引の一つ一つについて、「国外関連取引に係る役務と同種又は類似であり、かつ、上記の役務提供の条件と同様である」比較対象取引を見つけてくることは難しいように思う。一般的には、「決め打ちのマークアップ率」を広く適用することになるように思うが、このことに伴う問題点、また、移転価格事務運営要領3-11(企業グループ内における役務提供に係る独立企業間価格の検討)に定める低付加価値役務提供との関係については、ここでは省略する(別途勉強)。
  • 対価の回収漏れは国外関連者寄附金の指摘を受けることになる。一方で、対価の妥当性は移転価格税制の問題となる。

 

②収益認識

  • 会計、税務ともに役務提供の完了した時点で収益認識・益金算入するのが原則。

法人税法基本通達2-1-5 《請負による収益の帰属の時期》

請負による収益の額は、別に定めるものを除き、物の引き渡しを要する請負契約にあってはその目的物の全部を完成して相手方に引き渡した日、物の引き渡しを要しない請負契約にあってはその約した役務の全部を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入する。

  • 報酬額が一定の期間ごと、あるいは段階ごとに確定する契約の場合には、その確定した金額をその確定した日の属する事業年度の益金に算入。(会計上も期間対応させる。)
  • 着手金等は、収受した日の属する事業年度の益金に算入。

法人税法基本通達2-1-12《技術役務の提供に係る報酬の帰属の時期》

設計、作業の指揮監督、技術指導その他の技術役務の提供を行ったことによる受ける報酬の額は、原則としてその約した役務の全部の提供を完了した日の属する事業年度の益金の額に算入するのであるが、その技術役務の提供について次に掲げるような事実がある場合には、その支払を受けるべき報酬の額が確定する都度その確定した金額をその確定した日の属する事業年度の益金の額に算入するものとする。…

(1)報酬の額が現地に派遣する技術者等の数及び滞在期間の日数等により算定され、かつ、一定の期間ごとにその金額を確定させて支払を受けることとなっている場合

(2)例えば基本設計に係る報酬の額と部分設計に係る報酬の額が区分されている場合のように、報酬の額が作業の段階ごとに区分され、かつ、それぞれの段階の作業が完了する都度その金額を確定させて支払を受けることとなっている場合

(注)技術役務の提供に係る契約に関連してその着手費用に充当する目的で相手方から収受する仕度金、着手金等の額は、後日精算して剰余金があれば返還することになっているものを除き、その収受した日の属する事業年度の益金の額に算入する。

  • 企業会計原則注解【注5】は、一定の契約に従い継続して役務の提供を行う場合の収益は、時間の経過に応じて認識すべきと定める。

 

③契約書の準備、対価の計算

  • 役務提供取引を始めるにあたって、一般的には契約書を締結する。
  • 対価の計算は契約書に基づいて行われる必要がある。その場合に、役務提供側(日本親会社側)のコストの集計状況が調査では確認される。上記の通り、総原価には間接費まで含める必要がある。
  • また、役務提供取引は「目に見えづらい」ので、現地側で問題になりやすいが、実際に役務提供が行われたこと、またその役務提供が現地側に便益をもたらしたことを示せるような資料を備えておく必要がある。

 

④請求する場合の消費税の取り扱い

  • 役務提供の内外判定:原則として役務の提供が行われた場所が国内かどうかにより判定する。国内外双方で行われる場合や役務提供が行われた場所が明確でない場合には、役務提供を行う者の役務の提供に係る事務所等の所在地により判定する(基本的に所在地は日本であることから、国内取引となる)。
    →ここで国外取引と判定されれば、消費税は「不課税」となり、それ以上の検討は不要。国内取引と判定されれば、以下の検討に進む。
  • 輸出免税取引の判定:非居住者に対する役務提供は、基本的には「輸出免税」の対象。(国内において直接便益を享受するものは除く、つまり課税売上となる。)

 

⑤対価の入金を受ける(外国税額控除の適用)

  •  海外から役務提供の対価の入金を受ける場合、海外で源泉徴収が行われないことが多いが、源泉税を課されている場合には、名目を確認し、妥当であれば(租税条約に適合する課税であれば)、外国税額控除の適用を検討する。
  • 一方で租税条約に適合しない課税の場合、日本で外国税額控除の対象とならないため、海外側で還付を求めることでしか二重課税を解消することはできない。
  • 特に新興国においては、日本企業による役務提供は、通常何らかの無形資産の提供を伴うものとして、使用料(ロイヤリティ)扱いで源泉税を課されてしまう場合がある。

 

■海外関係会社から役務提供を受ける

①対価回収の必要性の判断・対価を決める/③契約書の準備、対価の計算

  • 基本的には「海外関係会社に役務提供を行う」場合の対価回収の必要性の判断、対価の決め方、対価の計算、契約書・証憑等の用意と同じ。上記の「海外関係会社に役務提供を行う」場合で引用した移転価格事務運営要領3-10の続きには以下のように説明されている。

(4) 国外関連者が行う活動が法人に対する役務提供に該当するかどうかについては、(1)及び(2)と同様の方法により判断する。また、法人の株主又は出資者としての地位を有する国外関連者が行う活動が当該法人に対する役務提供に該当するかどうかについては、(3)と同様の方法により判断する。

  • 証憑については、海外関係会社側が役務の提供を受けた場合と同様に、日本側において、海外関係会社から役務の提供を受けた実態を国税に説明できるように準備しておかないと、国外関連者寄附金を適用される可能性があることに注意が必要。移転価格事務運営要領3-10では以下の通り説明されている。

(5) 法人が国外関連者に対し支払うべき役務提供に係る対価の額の妥当性を検討するため、当該法人に対し、当該役務提供の内容等が記載された書類の提示又は提出を求めることとする。この場合において、当該役務提供の実態が確認できないときは、措置法第66条の4第3項の規定の適用について検討することに留意する。

 

②費用認識

「販売費、一般管理費その他の費用」については、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用のうち、償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものに限られています。

この償却費以外の費用で当該事業年度終了の日までに債務が確定しているものとは、別に定めるものを除き、次に掲げる要件の全てに該当するものをいいます。

  1. (1) 当該事業年度終了の日までに当該費用に係る債務が成立していること。
  2. (2) 当該事業年度終了の日までに当該債務に基づいて具体的な給付をすべき原因となる事実が発生していること。
  3. (3) 当該事業年度終了の日までにその金額を合理的に算定することができるものであること。
     修繕費を例にとると、建物等の修繕を発注し、業者によって修繕が完了し、かつ金額の見積りが客観的にでき得る状況にあれば、上記の3つの要件を満たし未払金等として計上できることになります。

(法法22、法基通2-2-12)

 

④対価の送金を行う(源泉徴収

  • 海外関係会社に対して役務提供の対価を支払う場合には、源泉徴収の要否を検討する必要がある。
  • 検討の順序としては、まず日本の所得税法に基づく検討、次に租税条約に基づく検討を行う。
  • 所得税法においては、国内における人的役務提供事業の対価は国内源泉所得となる。そのため、対価の支払いにあたっては20%の源泉徴収が必要となる。租税条約を締結していない相手国との取引については、これが最終的な結論となる。
  • 租税条約においては、人的役務提供事業の対価は「事業所得」に該当する場合が多く、事業所得については、役務提供者である海外関係会社が日本にPEを有しない限りは日本の課税は行われない(源泉徴収は不要)。