移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

本社費の個別回収②(頼まれていなくても…)

以下2つの続き、というか補足。 グループ内役務提供取引の基本 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com) 本社費の個別回収 - 移転価格税制の実務研究ノート (hatenablog.com) あらためて、役務提供取引となるかどうかの基本的な判断基準となる移転…

国外関連者寄附金のポイント再確認

内国法人の国外関連者間取引を検討する際に、順序としてまずは寄附金規定が優先され、寄附金に該当しないことが明らかになった後に、移転価格税制についての検討が行われることは、以下の説明や「参考事例集」で明らかである。 「条文上、国外関連取引につい…

金融取引の移転価格の勉強③(規定等まとめ)

2022年6月の事務運営要領の改正を踏まえ、改正後の金融取引に係る移転価格税制に関連する規定等を単純に備忘メモとして貼り付けておく。 措置法通達 事務運営要領 3-7(金融取引) 3-8(金融取引に係る独立企業間価格の検討を行う場合の留意事項) 別冊「事…

工場・販社の無形資産とは

今村隆「移転価格税制についての最近の裁判例と諸問題ーデジタル課税における同税制の今後の役割」(『租税研究』2019年8月号、P219-246)に基づき、多国籍企業グループの製造子会社、販売子会社における無形資産について考えてみたい。 東京地裁平成29年11…

藤本隆宏著「能力構築競争」(中公新書)に基づいて考えてみる

藤本隆宏著「能力構築競争」(中公新書)に沿って、以下の1.と2.の問いについて考えてみたい。(3.はメモ。)以下のページ数は本書のページ数を示す。 1. 製造会社(工場)の「強さ」の差は存在するのか? 2. 存在するとすれば、それはどのようなもので、そ…

井藤正俊著「移転価格の実務Q&A」(清文社)

移転価格の書籍、あるいはより広く、税務の本には珍しく、「主張がある」本のように感じた。個人的には税法の解説を粛々とされるだけよりも、当局側の課税実務や会社側の実務についての説明・紹介、より深い理解のための視点・材料の提示がある本が好きであ…

伊藤恭彦著「タックス・ジャスティスーー税の政治哲学」風行社

伊藤恭彦著「タックス・ジャスティスーー税の政治哲学」風行社を(何度か目の)読了。 「移転価格税制の実務」からは一見遠いところにあるが、本書の主張には非常に共感、納得した。実務からは遠いとしても、税務という仕事の意味や、税務の仕事をする上で根…

アドビ事件のおさらい①(販売会社から役務提供会社への再編)

アドビ事件について、以下の本及び論文を用いて考えてみたい。 ①藤枝純・角田信広著「移転価格税制の実務詳解(第2版)」中央経済社(特にP.158~164) ②海老原宏美「独立企業原則の限界と修正ーアドビ事件を題材としてー」(2013年、「租税資料館賞受賞論文…

会社法との関係

以下の記事で紹介した中里先生の著書にも出てきた税務と会社法との関係についての、中里先生の論文(「アグレッシブな租税回避と会社法 : Tax compliance の視点からの研究ノート」『法学新報』123巻第11-12号、2017-03-21、P.221-244)を拝読。率直に言って…

田島宏一、西村憲人(編著)、南繁樹著「移転価格税制・海外寄附金のケーススタディ」(中央経済社)

直近で(2022年7月)刊行された移転価格の本。移転価格の本は少し前は続々と出版されていたような気がするが、最近は落ち着いていたので、久しぶりで嬉しい。 以前に取り上げた以下の本の田島先生が共著者であり、内容的にも移転価格と海外寄附金を合わせて…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ⑤)

ここまでAmount Bについて、以下2回かじってみたが、実務上の疑問点に軽く触れておきたい。 tpatsumoritaira.hatenablog.com tpatsumoritaira.hatenablog.com 以下の図のような親会社Pを中心とした同一多国籍企業グループ内での商製品・ロイヤリティ取引を想…

Amount B続き(Pillar One勉強用メモ④)

前回の記事ではPillar Oneのうち、Amount Bの概要に触れたが、今回はAmount Bについての以下の論文を読んでみたい。 Michael C. Durst, "A Simplified Method for Taxing Multinationals for Developing Countries: Building on the 'Amount B' Proposal to …

Amount B(Pillar One勉強用メモ③)

Pillar Oneの勉強の続き。 Pillar Oneのうち、Amount Bについては、「既存の移転価格税制を簡素化し、新興国の税務執行の便宜を図るという点において新しいにすぎない」*1と評価され、注目度は低いように感じている。 また、Statement on a Two-Pillar Solut…

事前確認の勉強

以下の資料、特に「資料①」をメインに、ユニラテラルAPAとバイラテラルAPAを比較しながら、事前確認について、勉強のメモを残しておきたい。 大野雅人「論説 事前確認の法制化は何故必要なのか」筑波ロー・ジャーナル16号(2014年5月)(以下、「資料①」) …

中里実著「租税史回廊」(税務経理協会)

www.zeikei.co.jp 過去の様々な税務専門誌への寄稿論文や講演を収録したもので、自分の知識では歯が立たない部分も多い。しかし、全体的には平易な言葉で書かれており、取っつきやすく、また、租税という分野に限定されない広い視点が非常に参考になった。 …

「アイデアを生み出したプロセスは集団に帰属する」(Pillar One勉強用メモ②)

前回の記事の続きとして、Pillar Oneの意義を考えるために、鈴木将覚 専修大学教授の昨年末の日経新聞解説記事(2021年12月20日「法人課税 国際合意の意義(上)デジタル化でルール大転換」)の内容を以下の通り、まとめてみた。「経済のデジタル化は伝統的…

経済産業省「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書を読む(Pillar One勉強用メモ①)

以前の記事で主としてPillar Twoの勉強に使用した、経済産業省が2021年8月19日に公表した「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書(以下「中間報告書」)を取っ掛かりとして、今度はPillar Oneについて勉強してみたい。 1. Pillar Oneの概要 2…

機能と関数

移転価格とは全く関係のない分野の本からの脱線です。 中谷礼仁「近代建築史講義」(インプレスト)より、建築の世界におけるモダニズム、そして機能主義が説明されている部分からの抜粋(P.176)。 機能主義はモダニズムの中心的思想のひとつであり、その解…

金融取引の移転価格の勉強②

以前の金融取引の移転価格に関する記事で日本の移転価格税制における取り扱いをみた後の補足として、最後に、OECDが公表した金融取引に関する移転価格ガイドラインについて、以下の通り記載した。 OECDが2020年2月に公表した金融取引に係る移転価格ガイダン…

根源的欲求としての「領域侵犯」とTNMM

脱線します。過去に書いたことの繰り返しかもしれませんが。 建築家の伊東豊雄は、菅付雅信「これからの教養 激変する世界を生き抜くための知の11講」(ディスカヴァ―・トゥエンティワン)の中で、過去の自身の「モダニズム建築は一枚の壁によって内と外をは…

外国子会社合算税制の初歩の勉強

前回の記事で、外国子会社合算税制(以下、CFC税制)について、経済産業省の「第4回 デジタル経済下における国際課税研究会」の事務局資料P.27を引用掲示した。この資料がわかりやすかったことに触発され、CFC税制の初歩をもう少し勉強したい。 他の記事でも…

経済産業省「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書を読む(Pillar Two勉強用メモ)

経済産業省が2021年8月19日に「デジタル経済下における国際課税研究会」の中間報告書(以下「中間報告書」)を公表している。当研究会は「経済のデジタル化が加速する中、我が国企業の競争力強化及び経済活性化に資する公正な国際課税の在り方を検討するため…

無形資産の定義の勉強②

前回の記事の続き。「無形資産の会計上の定義と、移転価格税制上の定義は同じなのか、それとも異なるのか?異なるとすれば、どこが異なるのか?」について、勉強する。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 目次 3. 結局、違いは? 4. どのような場面でこの定義…

無形資産の定義の勉強①

「無形資産の会計上の定義と、移転価格税制上の定義は同じなのか、それとも異なるのか?異なるとすれば、どこが異なるのか?」について、勉強の過程を残しておきたい。 目次 1. 会計上の定義 企業結合における無形資産 PPAプロセスにおける無形資産の定義 PP…

移転価格課税を受けた場合の相互協議の手続き

日本または国外関連者の所在国で移転価格課税を受けた場合の相互協議の手続きについて、以前の記事でも取り上げたEY税理士法人編「BEPS対応 移転価格文書化の実務入門」(中央経済社)の「5.4 租税条約に基づく救済手続」に沿って、その根拠条文を見ていきた…

金融取引の移転価格の勉強

金融取引の移転価格について、これまであまり実務上考えることがなかったが、いい機会があったので、少し勉強してみた。 ■関連条文 OECDが2021年8月3日に公開したTransfer Pricing Country Profilesにおける日本のCountry Profileを見ると、金融取引について…

複数年度データ

TNMMで検証対象法人の利益率と、比較対象取引の利益率(レンジ)とを比較する際に、この双方の利益率は単年度損益を元に算定するのか、それとも複数年度損益を元に算定するのか、という論点がある。実務上遭遇する典型的な場面は、移転価格文書を作成すると…

PE勉強の続き⑤(PE帰属所得の計算)

PE

ここまでPEについて複数回にわたって勉強用のメモを作成してきたが、ここでは、PEを有する場合の外国法人に対する法人税の課税(国内法)について取り上げたい。 といっても、まさに一からの勉強になるので、すでに他の記事でも取り上げた以下の2冊の教科書…

PE勉強の続き④(代理人PE)

PE

これまでPEについては複数回(「手始め」、勉強①(国内法と租税条約)、 勉強②(サービスPE)、勉強③(準備的・補助的活動))に渡って、ごくごく基本的なところから勉強用のメモを作成してきたが、今回もその続き。今回取り上げたいのは「代理人PE」である…

PE勉強の続き③(準備的・補助的活動)

PE

これまでPEについては複数回(「手始め」、勉強①(国内法と租税条約)、勉強②(サービスPE))に渡って、ごくごく基本的なところから勉強用のメモを作成してきたが、今回もその続き。今回は、「PEから除外される特定の活動」である。 使用した文献は以下の2…