移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

Courseraを受講する③(CSRと租税回避)

前々回、前回と2回続けて、Courseraの Rethinking International Tax Lawという講義を受講したことについて書いた。今回はこの講義で、Tax planning & ethical dimensions(タックスプランニングと倫理的な側面)という6週目(最終週)のテーマの必読文献と…

Courseraを受講する②(Apple Case)

前回の記事で、Courseraの Rethinking International Tax Lawという講義を受講したことを書いた。そのなかで、4週目のTransfer pricingの講義の中に、アップル社の租税回避が取り上げられたApple Caseという小トピックがあり、解説動画に続けて、以下3点の…

Courseraを受講する①

www.coursera.org Courseraという様々な大学のオンライン講義を提供しているサイトで、ある方が講義を受けられた経験を書いておられるブログを拝見して、税務に関連する講座はないか検索をしてみた。この時見つけた講義が、ライデン大学のProf. Dr. Sjoerd D…

ガブリエル・ズックマン著「失われた国家の富――タックス・ヘイブンの経済学」(NTT出版)

本書の原書は2013年にフランスで出版された一般向けの本とのことで、フランスの読者を意識してか、「タックス・ヘイブンの経済学」との副題であるが、焦点が当てられているのはヨーロッパ内のタックス・ヘイブンであるスイスとルクセンブルクである。 個人の…

炭素税の国境調整措置と移転価格税制への波及

2021年4月29日の日本経済新聞に「脱炭素『国境調整』の行方は」と題した記事(記事①)が掲載されたり、同紙5月4日「ニュースがわかる」では「加速する脱炭素 排出量取引の機運」という解説記事(記事②)が載るなど、カーボンプライシングを巡る議論が活発化…

「情報の歴史21」から読み取る国際税務の流れ

少し脱線します。 松岡 正剛 (監修), 編集工学研究所 (著, 編集), イシス編集学校 (著, 編集)「情報の歴史21: 象形文字から仮想現実まで」(以下、「本書」)を購入。アマゾンの紹介文からの抜粋は以下の通りで、簡単に言えば、日本史・世界史を跨った500ペ…

穴を掘って、穴を埋める

当ブログを始めるに当たって、最初の記事として以下の記事を書いた。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 要は当ブログは移転価格の専門書を自分で読み、それらを紹介する場として考えていたということで、しばらくはそのような趣旨に則った記事が多かった。し…

OECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(2)

前回の記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com 今回はOECDによる「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」の「第2章」について(及び最後に自分としてのまとめも)。前回同様、以下、「本ガイダンスからの抜粋(下…

OECD「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(1)

OECDによる「新型コロナウイルス感染症の世界的感染拡大に関する移転価格執行ガイダンス」(Guidance on the transfer pricing implications of the COVID-19 pandemic)の仮訳(及び原文へのリンク)が国税庁ホームページに掲載されている。(以下、「(本…

移転価格税制と仕事と私――どこへ向かうのか?(2)

前回の記事の続き。 tpatsumoritaira.hatenablog.com ■将来の法人課税のもう一つのあり方 前回の記事の論考①*1には、今後の法人課税のあり方として、仕向地主義課税とは別の方法も提示されている。このブログでも過去に言及したことのある「定式配賦」(フォ…

移転価格税制と仕事と私――どこへ向かうのか?(1)

移転価格税制分野を中心とした仕事を担当し始めてから数年になる。 幸いなことに、新たな仕事に興味を持つことができて、仕事の時間中はもちろんのこと、仕事の時間以外でも移転価格税制のことを考えたり、専門書を読み漁ったり、本では満足できずに論文にも…

日本からの各種支払い時の外国法人の課税関係(勉強)

仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局を教科書として、外国法人が「日本において何らかの活動をする場合にどのような課税関係が生じるか」(P.26-27)について勉強した。 これは「外国側当事者だけの問…

PE勉強の続き②

PE

前回は仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局の第2編「第1章 恒久的施設とは」(P.392~408)を読みながら、国内税法での定義と、日米租税条約の定めを対比させながら、自分の理解のためにまとめてみたが…

PE勉強の続き①

PE

以前に「PE勉強の手始めに」と題した記事を書いたが、今回はその続きというか、より体系的にPE課税の勉強をする必要に迫られ、そもそもPEとは何なのか、という初歩の初歩を仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究…

TNMM=「構想と実行の分離」?

今回も脱線します。 ■「構想と実行の分離」 2020年1月のEテレの「100分de名著」は、カール・マルクス『資本論』を取り上げていた。放送途中から斉藤幸平先生によるNHKテキストも買って、興味深くみていた。 放送とテキストの中で、特に興味を惹かれたのが、…

「変動ロイヤリティ」と価格調整金の交錯

国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「参考事例集」)の以下2つの事例が「交錯する」ところを検討してみたい。(といっても、答えには辿り着けず。以下ページ数は「参考事例集」のページ番号である。) 【事例6】(取引単位営業…

諸富徹著「グローバルタックス—―国境を超える課税権力」(岩波新書)

二年ほど前(2019年1月19日)の朝日新聞の天声人語は以下のような書き出しで始まっている。 「将軍たちは一つ前の戦争を戦う」という格言がある。指揮をとる者は、どうしても前回の戦争での経験をもとに戦略を立ててしまいがちだ。時代とともに技術や有効な…

雪かき仕事と火消し仕事

ちょっと脱線します。 題名の「雪かき仕事」は内田樹著「村上春樹にご用心」(アルテスパブリッシング)に収められている「村上春樹とハードボイルド・イーブル・ランド」の以下の箇所(P.205)より。 雪が降ると分かるけれど、「雪かき」は誰の義務でもない…

本社費の個別回収

グループ内役務提供取引を考えるに当たって、個人的によく整理ができていない問題の一つが、「本社費をどこまで個別回収すべきか?」という論点である。 ■移転価格事務運営要3-10(3)の注書きについての疑問 移転価格事務運営要領3-10(3)は、いわゆる「株主活…

取引単位のもやもや

役務提供取引やロイヤリティ取引を考える上で、実務上悩ましい問題の一つが、「役務提供取引、ロイヤリティ取引は棚卸取引と一体化できるのか?」という問題である。この点について、考えてみたい。 ■事案例及び論点 事案例として使用するのは、国税庁が提供…

ロイヤルティ(無形資産の使用料)取引の基本

前回の役務提供取引に引き続き、実務の基本的な勉強として、ロイヤルティ(無形資産の使用料)取引についてのメモをまとめる。もとにさせて頂いたのは前回同様、佐和周著「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」中央経済社と、佐和周著「海外取引の経…

グループ内役務提供取引の基本

実務の勉強として、知らないわけではないが、体系的には勉強してこなかったグループ内役務提供取引についてのメモをまとめる。もとにさせて頂いたのは佐和周著「海外進出企業の税務調査対策チェックリスト」中央経済社、佐和周著「海外取引の経理実務 ケース…

歴史は繰り返す、か?

以下の日系企業に対する移転価格税制についてのアンケート調査結果の上位回答は、どこの国を念頭に置いた回答だと思われるだろうか。 明確な基準がないままに税務当局の判断により所得の増額更正が行われるおそれがある 商品の利益率が低い場合や欠損会社の…

PE勉強の手始めに

森信茂樹著「デジタル経済と税」(日本経済新聞出版社)の中の、第2章「巨大プラットフォーマーと租税回避」の中の「4 アマゾンの租税回避」を題材に、少し考えてみたい。若干の苦手意識のあるPE(恒久的施設)にも関係する問題であり、まだ深くは考えられな…

フォーミュラ方式がキラリ☆

以前に多国籍企業の取引コスト節約の観点から移転価格税制、とりわけ独立企業間原則について考える記事を書いたが、その後読んだ海老原宏美「独立企業原則の限界と修正ーアドビ事件を題材としてー」(2013年、「租税資料館賞受賞論文集22(中)」pp,3-105(…

利益分割法(の難しさ)にまつわるエトセトラ

今回は大沢拓・牛島慶太・平野潤一・梶巻重幸・坂本安孝編著「移転価格ローカルファイル 作成実務と実践上の留意点」(清文社)を取り上げたい。 2017年6月に国税庁は「移転価格ガイドブック」を発表しており、その中で庁はローカルファイル(LF)の具体的な…

取引コストと移転価格

■取引コスト 松岡真宏著「持たざる経営の虚実」(日本経済新聞出版社)において、松岡さんは「『持たざる経営』や『選択と集中』という、ある種の減量経営的なスローガン」(P.3)に対して、「経済学者のロナルド・コースの『取引コスト(Transaction cost)…

「創って、作って、売る」の上位に位置するもの

前回の記事の続きだが、別の観点から少し付け加えたい。 三品和広著「戦略不全の因果」(東洋経済新報社)の第4章「戦略の核心」は以下のような問題提起から始まる(P.102)。 企業の業績は、どのようにして決まるのであろうか。一般に企業の中では、何千人…

「創って、作って、売る」のどこに課税すべきか

■ 「創って、作って、売る」と「創る」偏重 三枝匡著「V字回復の経営」(日経ビジネス人文庫)には事業の原点として「商売の基本サイクル」という概念が登場する(P.136~138)。事業の原点は「商品やサービスを顧客に買っていただくこと」であり、会社は「…

角田信広著「BEPS移転価格文書の最終チェック Q&A100」(中央経済社)

BEPS最終報告書を受けた日本の平成28年度税制改正における新しい移転価格文書の最初の提出が2018年3月以降、行われることになるタイミングである2017年12月に出版された本書では、その最初の提出に向け、各国税務当局の関心を引いてしまう「落とし穴」(P.1…