2025年11月のOECDモデル租税条約改訂(The 2025 Update to the OECD Model Tax Convention | OECD)のうち、第5条(PE)のコメンタリー改正について、確認していく。
ここでは『国際税務』の以下4記事を確認し、所々、コメンタリーの英語原文にも当たってみる。
- EY税理士法人パートナー戸崎隆太「OECDモデル租税条約2025年改訂による『国境を越えたリモートワークの取扱い』について」『国際税務』2026年3月号(以下「戸崎」)
- 税理士川田剛、税理士徳永匡子「OECDモデル租税条約条文及びコメンタリーの改正<1>」『国際税務』2026年5月号(以下「川田/徳永」)
- EY税理士法人 税理士藤井恵「実例で学ぶ 外国人雇用と海外出向者にまつわる税務・給与・社会保険 第188回 海外リモートワーク時代の税務リスクと企業対応策 その1」『国際税務』2026年5月号(以下「藤井➀」)
- EY税理士法人 税理士藤井恵「実例で学ぶ 外国人雇用と海外出向者にまつわる税務・給与・社会保険 第189回 海外リモートワーク時代の税務リスクと企業対応策 その2」『国際税務』2026年6月号(以下「藤井➁」)
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まず、第5条そのものを確認。
Model Tax Convention on Income and on Capital 2017 (Full Version) | OECD
ARTICLE 5
PERMANENT ESTABLISHMENT
- For the purposes of this Convention, the term “permanent establishment” means a fixed place of business through which the business of an enterprise is wholly or partly carried on.
- The term “permanent establishment” includes especially:
a) a place of management;
b) a branch;
c) an office;
d) a factory;
e) a workshop, and
f) a mine, an oil or gas well, a quarry or any other place of extraction of natural resources.
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その上で本題の背景を確認すると、「これまでPEとは、企業が自ら賃借したり所有したりするオフィス等を想定していた」ところ、「最近はテクノロジーの深化により」「従業員が海外の自宅等からパソコン1台で自国の企業のために働くことが可能にな」(藤井➀P.114)っていることがある。
そして、「リモートワークにおけるPEに関する問題点とは、リモートワークを行う個人の自宅等が」「『事業を行う一定の場所』」(”a fixed place of business”)「に該当するかどうかという点にあ」(戸崎P.68)る。
「今回の改訂により、リモートワークに係る自宅等に関するPEリスクの判定は、原則として、『一定性』、『勤務時間割合』、『商業上の理由』の3要素により行うことが明確化されました。」(戸崎P.73)これらの3要素をいずれも満たす場合において、「リモートワークを行う個人の自宅等が」「『事業を行う一定の場所』」(”a fixed place of business”)「に該当する」と判定される、という理解である。
以下、それぞれの要素について確認していく。
- ➀『一定性』
- 第5条に追加されたコメンタリー44.4は、第5条そのものの「事業の場所」(”a place of business”)の定義に立ち返り、「事業の場所」がPEを構成するためには、その場所は”fixed”である必要があるとする。続けて、そのためには「事業の場所」には、ある程度の”permanency”(川田/徳永P.87の訳語では「恒久性」)が必要であるとする。
- この「一定性」、「恒久性」を今回の論点である海外リモートワークに当てはめた際に若干分かりづく感じたが、追加コメンタリー44.21に示されている例Aと例Bを対比させるとわかりやすい。
- 以下の例Aと例Bの説明の引用は藤井➁P.133-4より。
- 「例A R国の企業であるR社の従業員は、通常の勤務形態の一部としてR国から働いている。12か月の期間中、彼女はS国での休暇滞在に続き、連続する3か月間、S国の場所を借りてそこから働く。」
- 「例B R国の企業であるR社の従業員は、12か月の期間を通じて週に1~2日、S国にある彼女の自宅から働く。これは、その12か月の期間中の彼女の労働時間の30%に相当する。」
- ここで、例AではR社によるS国での事業は「12か月の期間中の3か月間のみであるため、彼女が働くS国の場所は『一定(fixed)』」ではなく「恒久性を欠いている」と判断されるのに対して、例Bでは「彼女が働くS国の自宅は、その場所が12か月の期間を通じてR社の事業に関連する活動を行うために使用されており」、「恒久性を有している」。
- つまり、”permanency”の基準とは、12か月の期間中ずっとその場所が『事業の場所』として確保されているかどうか、と理解した。(事業の性質等による短期的な使用について、既存のコメンタリー(パラグラフ28~34)を参照すべき点が川田/徳永P.87で指摘されている。)
- ➁『勤務時間割合』
- この『勤務時間割合』と次の『商業上の理由』は、追加コメンタリー44.6における「第5条第1項におけるPEを構成するためには、自宅等がa place of business of the enterpriseである必要がある」を判断するための要素として提示されている。
- 44.6では単純に従業員等が事業に関連する活動を行うためにある場所を使用するというだけで自動的にその場所が「事業の場所」(川田/徳永P.87の訳語)であるという結論にはならない、とされている。
- 続けて44.7では従業員等の自宅において事業に関連する活動を行った場合でも、その活動はintermittent or incidental(断続的ないし偶発的)であることが多く、その場合にはその場所が「事業の場所」となることはないと指摘する。しかし、一定の事実があればその場所が「事業の場所」と判定されるべきということになるかもしれないとして、提示されているのが➁『勤務時間割合』と➂『商業上の理由』である。
- ➁『勤務時間割合』について、追加コメンタリー44.8で「当該事業年度に開始又は終了するいずれかの12か月においても、その個人が自宅等から勤務する時間が、その企業のための全労働時間の50%未満である場合は、その自宅等は一般に事業を行う場所とはみなされないとされ」(戸崎P.69)た。
- この判断基準から、上記例Bは、➀『一定性』は満たすものの、➁『勤務時間割合』は「30%」であることから満足せず、PEには該当しないという結論となっている。
- この『勤務時間割合』と次の『商業上の理由』は、追加コメンタリー44.6における「第5条第1項におけるPEを構成するためには、自宅等がa place of business of the enterpriseである必要がある」を判断するための要素として提示されている。
- ➂『商業上の理由』
- 上記➁『勤務時間割合』の条件に該当し、「個人が総労働時間の少なくとも50パーセントをその自宅又はその他の関連する場所で働く場合、企業が当該場所に事業の場所を有するか否かは、当該場所が所在する締約国において当該個人が行う活動に『商業上の理由』があるか否かで判断される。」(川田/徳永P.88)
- この「商業上の理由」(”a commercial reason”)は、自宅等が所在する締約国におけるその個人の物理的存在(”the physical presence of the individual”)自体が企業の事業を推進(”facilitate”)する場合に、存在するものと判定される。(追加コメンタリー44.11)
- 例えば、当該個人による、企業の顧客とのミーティング、新規得意先の開拓や新規事業機会の探索、異なる時間帯に所在する顧客等とのリアルタイムでの対応、事業に関連する専門知識へのアクセス等の活動を行う場合に「商業上の理由」が存在するとみなされる。(追加コメンタリー44.17)
- これらの得意先等との「関与が断続的また付随的なものであるとき」、「当該個人の役務を確保又は維持するためにのみ自宅…で仕事することを認める場合」、「単にコスト削減(例えば、オフィススペースの支出削減)を目的として自宅…での仕事を許可する場合」等には「商業上の理由があるとはみなされない。」(川田/徳永P.89)