移転価格税制の実務研究ノート

移転価格税制の勉強の過程。実務のヒントを探しています。

PE勉強の続き①

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以前に「PE勉強の手始めに」と題した記事を書いたが、今回はその続きというか、より体系的にPE課税の勉強をする必要に迫られ、そもそもPEとは何なのか、という初歩の初歩を仲谷栄一郎・井上康一・梅辻雅春・藍原滋共著「国際取引と海外進出の税務」税務研究会出版局を教科書として勉強した。

 

この本にはこれまで「難しそう」という漠然としたイメージを抱いており、入手した後もあまり手に取ることはなかったが、説明の中で具体的な税法条文がすべて提示され、かつ、論理立てて説明されているので、今回の勉強では自分でもその条文の一つ一つに実際にあたりながら、本書を読み進めて行くと、相当理解が進んだ(ような気がする)。

 

以下は第2編「第1章 恒久的施設とは」(P.392~408)を読みながら、国内税法での定義と、日米租税条約の定めを対比させながら、かつ相当程度端折りながら、自分の理解のためにまとめたもの。(本記事に限らずであるが、記述に誤りがある場合はすべて自分の理解不足によるものなので、本書そのもの、あるいは該当条文にあたって頂きたい。)

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なお、上記法人税法第2条第1項第12号の19に定められている、租税条約が優先する旨の規定は以下の通り。(下線部分。下線は筆者。)

十二の十九 恒久的施設 次に掲げるものをいう。ただし、我が国が締結した所得に対する租税に関する二重課税の回避又は脱税の防止のための条約において次に掲げるものと異なる定めがある場合には、その条約の適用を受ける外国法人については、その条約において恒久的施設と定められたもの(国内にあるものに限る。)とする。
イ 外国法人の国内にある支店、工場その他事業を行う一定の場所で政令で定めるもの
ロ 外国法人の国内にある建設若しくは据付けの工事又はこれらの指揮監督の役務の提供を行う場所その他これに準ずるものとして政令で定めるもの
ハ 外国法人が国内に置く自己のために契約を締結する権限のある者その他これに準ずる者で政令で定めるもの

 

「日米租税条約以外の租税条約が定める恒久的施設の基本的な枠組みもおおむね国内税法で定めるもの、あるいは日米租税条約で定めるものに重なるものとなっていますが、細かく見ていくと、租税条約ごとに若干の違いがみられます。」(P.406)とのことなので、これをベースに、あとは実務の具体的な場面で、対象相手国ごとの租税条約にきちんとあたっていけばいい(その手間を惜しんではいけない)ものと理解した。それと、実際には事実認定の部分、及び、課税当局の実際の執行姿勢の把握も必要と考えているが、これらには経験の積み重ねが必要と感じており、一つ一つの実務の場面に真摯に対応していきたい。

TNMM=「構想と実行の分離」?

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今回も脱線します。

 

■「構想と実行の分離」

2020年1月のEテレの「100分de名著」は、カール・マルクス資本論』を取り上げていた。放送途中から斉藤幸平先生によるNHKテキストも買って、興味深くみていた。

 

放送とテキストの中で、特に興味を惹かれたのが、第3回で取り上げられた、アメリカのマルクス研究者ハリー・プレイヴァマンが唱えた「構想と実行の分離」という概念である。(以下ページ数はNHKテキストのページ数を示す。)

  • …資本主義のもとで生産力が高まると、その過程で構想と実行が…分断される…。「構想」は特定の資本家や、資本家に雇われた現場監督が独占し、労働者は「実行」のみを担うようになる…。(P.80)
  • 構想と実行が統一されていた労働として、イメージしやすいのは…職人仕事でしょう。職人は、長年の修練によって身につけた技術や知識、そこで培われた洞察力や判断力を総動員して、自分が作ろうと思った(=構想した)物を、自分の手で作り出す(=実行する)ことができます。(P.80)
  • 彼ら(筆者注:職人たち)は、自分たちの「構想」力と「実行」力を自主管理することで(筆者注:例えばギルドのような同職組合を作ることで)、無用な競争を防ぎ、自分たちの仕事と労働環境を守っていたのです。(P.81)
  • しかし、こうした状況が、資本家にとっては不利・不都合…。(P.81)
  • だから、資本主義はギルドを解体していくのですが、その際に、重要だったのが、労働者の「構想」と「実行」の分離なのです。(P.81)
  • では、どうやって「構想」と「実行」を分離するのでしょうか。一番簡単なのは、生産工程を細分化して、労働者たちに分業させるという方法でしょう。…職人が一人でやっている作業を単純作業へと分解していくのです。(P.82)

「分業」を推し進めていくと、その一部のみを担当する労働者にはやりがい、自律性、達成感、成長がなくなり、極めて弱い立場に貶められる。この構想と実行の分離を貫徹したのが、科学的管理法を提唱した「テイラー主義」とのことである。

「彼(筆者注:マルクス)が何より問題視していたのは、構想と実行が分離され、資本による支配のもとで人々の労働が無内容になっていくこと…。…マルクスが目指したのは、構想と実行の分離を乗り越えて、労働における自律性を取り戻すこと。過酷な労働から解放されるだけなく、やりがいのある、豊かで魅力的な労働を実現することです。」(P.95)

 

■移転価格税制における「構想と実行の分離」?

ここでふと思ったのは、「構想と実行の分離」は、移転価格税制におけるTNMM(取引単位営業利益法)が前提とする「機能・リスクが限定されている海外子会社(製造・販売機能のみを担当することが多い)」と、「複雑な機能・リスクを担い、重要な無形資産を保有している親会社」という形で、多国籍企業グループの構成会社を強制的に二分していくことに通じるところがあるのではないか、という点である。親会社が「構想だけ」を担い、海外子会社はそれを「忠実に実行すること」「だけ」を行う。そして、「構想」という仕事には価値があるが、「実行」という仕事にはそこまでの価値はないと見なしてしまい、だから「実行」しか担わない海外子会社には限定的なリターンを与えておけばよい、残余の利益は「構想」を担う親会社が総取りするべきである。アメリカのCPM(利益比準法)を源流とするTNMMには、実は抜きがたい「実行」への軽視があるのではないか。

 

このような「構想」と「実行」に役割を単純に二分化してしまう発想、そして「実行」の軽視は、子会社所在国への所得配分を減らすという意味で、TNMMは税を通じた世界の不平等の促進に少なからず寄与してしまっているのではないだろうか。少なくとも、全く無関係とはいえないのではないだろうか。やはり、別記事でも触れたフォーミュラ方式への切り替えが望ましいように感じた。

tpatsumoritaira.hatenablog.com

 

■余談:日経新聞の記事より

ここで、1月28日の日経新聞の「半導体微細化 TSMC独走」という記事に触れておきたい。世界一の微細化技術を持つとされる台湾積体電路製造(TSMC)の存在感が、世界的な半導体不足の状況下で増しており、その強みに迫るという趣旨の記事である。(以下の引用は当記事より。)

  • TSMCの創業は1987年。
  • 米国では投資マネーが主導する形で、半導体製造企業の効率化も進んだ。当時はまだ設計から製造までを全て一社が担う「垂直統合モデル」だったが、新たな経営モデルとなる「水平分業」を志向するよう促したのだ。水平分業で米企業は上流の設計開発に特化するようになった。投資が巨額になる割に、付加価値が少ない下流の生産部門は「アジア企業に」と考えた。

 これに対応して創業したのがTSMCである。米国半導体企業の生産を請け負い、順調に成長していく。

  • 下請け仕事の受託生産でためた巨額資金を一気に、製造技術の研究開発に投じた。これがさらなる受託生産の仕事が舞い込む好循環をつくり、存在感を高めた。
  • 気付けば世界で今、先端の半導体を生産できるのは、TSMC、韓国サムスン電子インテルの3社。
  • 米国は自ら描いた水平分業と「工場を持たない経営」でクアルコム、米エヌビディアなどの有力企業を生んだ。だが特許やデータなどの無形資産に傾斜し「生産はアジアに」と突き放した結果、分業が進みTSMCが予想以上の力を持ったことに焦りが募る。

 「『生産はアジアに』と突き放」す。生産=実行を下に見る発想はやはりTNMMの発想に近いものがあるように感じた。

「変動ロイヤリティ」と価格調整金の交錯

国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(以下「参考事例集」)の以下2つの事例が「交錯する」ところを検討してみたい。(といっても、答えには辿り着けず。以下ページ数は「参考事例集」のページ番号である。)

  • 【事例6】(取引単位営業利益法を用いる場合)≪前提条件3:無形資産の使用許諾取引の場合≫(以下「【事例6】前提3」)
  • 【事例29】(価格調整金等の取り扱い)≪前提条件2: 法人と国外関連者との事前の取決めに基づいて価格調整金等の支払が行われる場合≫(以下「【事例29】前提2」)

■検討の前提

  1. 【事例6】前提3では、下図(P.35)の取引関係においてTNMMを適用することを前提に、「S社の残余の利益を特許権及び製造ノウハウの使用許諾に係る対価の額として間接的に独立企業間価格を算定する」(P.36)としている。(この方法によって算定される特許権及び製造ノウハウの使用許諾に係る対価を以下、「変動ロイヤリティ」と呼ぶ。)f:id:atsumoritaira:20210116070417p:plain
  2. 【事例29】前提2では、下図(P.112)の取引関係において、「P社とS社は、取引単位営業利益法の適用に係る比較対象取引の売上高営業利益率を独立企業間価格の算定に係る指標として、S社の製品A輸入販売取引に係る売上高営業利益率の水準をこれに一致させることとし、各事業年度における製品A輸入販売取引に係る売上高営業利益率の実績値が当該指標と乖離した場合には、当該指標までの調整を行うために期中の取引価格をS社の決算期末で改定する旨を取り決め、覚書を取り交わして」(P.112)おり、P社からS社に対して、価格調整金の支払いが行われたこととされている。f:id:atsumoritaira:20210116071109p:plain
  3. 【事例6】前提3ではP社とS社との間には製品取引はなく、「特許権及び製造ノウハウの使用許諾」取引(以下、「ロイヤリティ取引」)のみが存在する前提となっている。一方で、【事例29】前提2では【事例6】とは逆に、製品取引のみが存在し、ロイヤリティ取引は存在していない。
  4. ここで検討したいのは、「製品取引とロイヤリティ取引の両方」が存在する下図のケースである(以下、「本ケース」)。この場合における、「変動ロイヤリティ」と価格調整金との間の交錯の問題である。(このケースにおいて、国外関連者S社は、製造、販売の両機能について、「基本的活動のみを行う」(P.46)ものと仮定する。)f:id:atsumoritaira:20210116073106p:plain

■論点

  • 論点①
    本ケースでS社を検証対象法人としたTNMMを適用する場合において、価格調整金を使用する時に、この価格調整金は、部品aの価格を調整するものなのか、それとも、ロイヤリティの価格を調整するものなのか、あるいは両取引の価格を調整するものになるのか。これらはP社とS社との契約の中で決めてしまえばよいのだろうか、それとも、契約で決めていても、日本あるいはX国の税務当局によって契約内容を覆されるリスクはあるのだろうか。
  • 論点②
    同じく本ケースでS社を検証対象法人としたTNMMを適用する場合において、P社とS社との間のロイヤリティ契約で、「ロイヤリティ額はS社の比較対象取引の利益率レンジを上回る残余利益である」と定めておけば、上記①のような疑問は回避できるのか。そもそも、「ロイヤリティ額はS社の比較対象取引の利益率レンジを上回る残余利益である」とロイヤリティ契約で定めることと、「ロイヤリティの価格を調整する価格調整金」との間に本質的な違いはあるのか。
  • 論点③
    価格調整金は、S社の利益率実績次第で、P社→S社、S社→P社の双方向での支払いが想定されるが、変動ロイヤリティ契約においても、双方向の支払いは可能なのだろうか。つまり、通常のロイヤリティはS社→P社という方向での支払いとなるが、S社が赤字の場合、逆にP社→S社への「マイナスのロイヤリティ」の支払いは実務上、認められるのだろうか。

■現時点での検討結果(というほどのものではないが…)

  • 価格調整金、あるいは変動ロイヤリティという方法は、その影響を除外した損益を容易に算定することができることから、グループ会社の管理会計・業績評価の観点からは使い勝手のよい方法である(棚卸取引価格を期中に頻繁に変更してしまうと、グループ会社の損益はその会社の業績評価には使えなくなってしまう)。
  • その一方で、「棚卸取引の価格を調整する価格調整金」には、別記事で触れたように、関税や輸入消費税との関係が、税務当局・税関間で整理・調整されていないこと等から、実務上、使い勝手が非常に悪くなっている。本ケースでは、部品aがX国輸入時に関税対象となる場合である。
  • 仮にTNMMを前提にした国外関連者S社の利益率コントロールを、変動ロイヤリティないし、「ロイヤリティの価格を調整する価格調整金」で実施できるとしたら、関税等での課題を回避しつつ、業績評価面での利点を享受できると考えた。
  • 上記論点①~③について、本ケースにおいては、変動ロイヤリティ、「ロイヤリティの価格を調整する価格調整金」、「棚卸取引の価格を調整する価格調整金」のいずれも、各国間での利益配分を決定するという意味での本質的な差はなく、いずれの方法も移転価格税制上、認められるべきとは考える。しかし、理論上の問題はなくても、実務上、実行可能かどうかは、日本とX国双方の税務当局の執行姿勢によるところが大きいと考える。価格調整金自体、また、変動ロイヤリティという概念自体が受け入れられにくい新興国がX国の場合にはまだまだ導入は不可能と考えるが、より柔軟な執行姿勢の国が相手の場合はどうだろうか。もう少し、実務上の検討が必要と考えている。

諸富徹著「グローバルタックス—―国境を超える課税権力」(岩波新書)

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二年ほど前(2019年1月19日)の朝日新聞天声人語は以下のような書き出しで始まっている。

「将軍たちは一つ前の戦争を戦う」という格言がある。指揮をとる者は、どうしても前回の戦争での経験をもとに戦略を立ててしまいがちだ。時代とともに技術や有効な戦い方などが変わっているのに、ついていけない。待っているのは敗北である。

ここで取り上げたい「一つ前の戦争」とは、現行の移転価格税制における大原則、移転価格税制の代名詞的なルールである「独立企業原則」である。

昨今のOECDにおける国際税務をめぐる議論の動向には今一つ疎く、各種セミナーを拝聴していてもよく理解ができなかった。また、このような国際的な議論は各国での具体的な法制化までの道のりは長く、自分の実務には関係ないこと、と切り捨てて考えてしまいがちだった。

しかし、本書を拝読して、議論に至る背景・経緯から、議論の中身に至るまでが大きな流れとして理解でき、一気に目を見開かされた思いである。また、これを理解しないことには自分自身が「一つ前の戦争」を戦っていることになってしまうと感じた。

 

一言で言えば、今の議論は「独立企業原則」あるいは移転価格税制そのものの「終わりの始まり」ではないか、と感じた。もちろん、移転価格税制そのものがなくなるわけではないが、今のような理論・理屈を背景に持つ税制としてではなく、ごく単純な、ある意味で「浅い」「機械的な作業」としての税制になってしまうのではないかと感じた。この分野を集中的に勉強してきた自分としては、「足元を崩されている」感もなきにしもあらず、である。ただ、これを悲観的に捉えているというわけではなく、むしろ「オラ、ワクワクすっぞ!」(@孫悟空)という気分である。本書を出発点に今後の動きを注視していきたいし、いつの間にか「一つ前の戦争」を戦っていることのないようにしたい。

 

もう一つ、本書で衝撃を受けたのは第3章「立ちはだかる多国籍企業の壁」の「6 租税回避を助け、国際協調を妨げる者」における指摘である。その「者」が誰を指しているのかはここでは触れないが、以下のような指摘のみ引用しておきたい(P.57‐58)。

もし…租税回避に向けた国際協調の枠組みが成立し、移転価格税制に代えて定式配分法…が採用されれば、租税回避の余地はなくなり、彼らのビジネス機会も消滅してしまう。…

究極のところ、もしすべての国が同一の税率、同一の課税ベースを採用してしまえば、企業は利益を高課税国から低課税国に移す動機を失うとともに、租税回避産業のビジネス機会も消失する。

これを読んで思ったのは、「彼ら」はなぜ「やりすぎる」のだろうか、という点である。本書で紹介されているような、グーグルに代表される巨大多国籍企業の租税回避はそのスキームの複雑さ・精緻さ、そして回避している税額ともに、どう考えても「やりすぎ」である。税制の不備や抜け穴、という「機会」があれば、そこに乗じるのは「当然」なのだろうか?でも、それは本業の理念に反することになるとは考えないのだろうか?税務に関わる者として考えないといけない問題だと感じた。

 

雪かき仕事と火消し仕事

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ちょっと脱線します。

題名の「雪かき仕事」は内田樹著「村上春樹にご用心」(アルテスパブリッシング)に収められている「村上春樹とハードボイルド・イーブル・ランド」の以下の箇所(P.205)より。

雪が降ると分かるけれど、「雪かき」は誰の義務でもないけれど、誰かがやらないと結局みんなが困る種類の仕事である。…人知れず「雪かき」をしている人のおかげで、世の中からマイナスの芽…が少しだけ摘まれているわけだ。私はそういうのは、「世界の善を少しだけ積み増しする」仕事だろうと思う。

同じ文章の最後(P.211)にはさらに、以下のことも書いてある。

そして、おそらく、そのような危機の予感のうちに生きている人間だけが、「世界の善を少しだけ積み増しする」雪かき的な仕事の大切さを知っており、「気分のよいバーで飲む冷たいビールの美味しさ」のうちにかけがえのない快楽を見出すことができるのだと私は思う。

脱線している記事のなかで、さらに脱線すると、内田先生のこの文章の初出は昔よく読んでいたMeets Regionalという関西の雑誌の2002年3月号で、この文章は当時読んだ記憶がある。Meets Regionalという雑誌は自分にとって不思議な雑誌で、特集にもよるが、典型的には様々な関西の場所(京都、大阪、神戸など)の飲み屋・レストランが紹介されていて、ぱらぱらとめくるのが楽しいけれども、実際に紹介されている飲み屋には元々飲み歩くことが好きでもないので一軒も行ったことがない。でもなぜかーー記事が魅力的なのか、写真なのか、編集なのかーーよくわからないけれども、Meets Regionalは一時期よく買っていた。(Meets Regionalに限らず、実はこの雑誌を発行している京阪神エルマガジン社という出版社の出版物全般が魅力的。)

 

話をもとに戻すと、企業内における移転価格実務で最も大事なのはこの「雪かき仕事」だと思っている。「世界の善」を積み増しするほど大げさなものではもちろんないのだが、要は雪が降る中で(=企業内外の状況が様々に変化していく中で)、いかに降り積もってしまって「みんなが困る」前に、「マイナスの芽」(=将来の課税リスク)を摘んでおけるか、にかかっている。それは例えば、移転価格の典型的な実務であれば、「毎年の海外関係会社の利益率をとにかくレンジ内に収めること」だったり、一つずつの新しい取引の検討だったり、各部門にガイドラインを提示したり、さらには、より難易度の高い、買収会社との移転価格ポリシーの話だったり、というような対応をいかにしっかりとできるかにかかっている。

 

しかし、このような地味な「雪かき仕事」に対して、一方で、題名で取り上げた「火消し仕事」も税務の世界には存在する。こちらは、勝手に命名しただけだが、移転価格実務で言えば、課税当局に目をつけられてしまい、移転価格調査の対応をする仕事である。要はすでに火がついて、炎上しているイメージの仕事である。原因としては「芽」のうちに対応できなかった、そもそも気付いていなかったこともあるし、あるいは、会社側では全く問題ないと思っていたが、ある種「理不尽」と感じられるような突然の指摘もあり得る。

企業内で税務の仕事をしていると、実は「火消し仕事」の方が社内的な「受けがいい」と感じてしまうことがある。「調査が入った!」「〇億円の課税の指摘を受けた!」と事業部門や経営層等の社内関係者に報告している方が「仕事をしている」と見られがちかもしれないし、自分自身でも「仕事をしている」という実感、あるいは変な高揚感すら味わえるかもしれない。

もちろん「火消し」も必要であるし、大事なことではあるが、やはり、税務の実務担当者としては「火」が発生した根本的な原因に遡らないといけないと思っている。「なぜ指摘を受けてしまったのか」から、過去の「雪かき仕事」をよく見返し、どこに「漏れ」があったのか、なぜ「漏れてしまったのか」を考え、そして、今後に向けて必要な手を打っていかないといけない(それはあまりに「過去」のことで、自分が担当していなかった時期のことかもしれないが、そんなことは関係ない)。

 

こんなことを考えていたら、月刊「国際税務」の2020年12月号の記事「誌上座談会 税務調査への対応経験を活かしたグローバル税務マネジメント力の向上〈上〉」に同じようなこと(と勝手に解釈しただけかもしれないが)が書いてあって、やっぱり、と意を強くした。

以上、自分に対する「戒め」として書きました。

本社費の個別回収

グループ内役務提供取引を考えるに当たって、個人的によく整理ができていない問題の一つが、「本社費をどこまで個別回収すべきか?」という論点である。

 

■移転価格事務運営要3-10(3)の注書きについての疑問

移転価格事務運営要領3-10(3)は、いわゆる「株主活動」として、グループ内役務提供の対象外として、対価の回収は必要ないものを定めている。ここで気になるのが下線部の注書き(注1)である。(下線は筆者。)

(3) 国外関連者の株主又は出資者としての地位を有する法人(以下(3)において「親会社」という。)が行う活動であって次に掲げるもの(当該活動の準備のために行われる活動を含む。)は、国外関連者に対する役務提供に該当しない。

イ 親会社が発行している株式の金融商品取引法(昭和23年法律第25号)第2条第16項(定義)に規定する金融商品取引所への上場

ロ 親会社の株主総会の開催、株式の発行その他の親会社に係る組織上の活動であって親会社がその遵守すべき法令に基づいて行うもの

ハ 親会社による金融商品取引法第24条第1項(有価証券報告書の提出)に規定する有価証券報告書の作成(親会社が有価証券報告書を作成するために親会社としての地位に基づいて行う国外関連者の会計帳簿の監査を含む。)又は親会社による連結財務諸表(措置法第66条の4の4第4項第1号に規定する連結財務諸表をいう。以下同じ。)の作成その他の親会社がその遵守すべき法令に基づいて行う書類の作成

ニ 親会社が国外関連者に係る株式又は出資の持分を取得するために行う資金調達

ホ 親会社が当該親会社の株主その他の投資家に向けて行う広報

ヘ 親会社による国別報告事項に係る記録の作成その他の親会社がその遵守すべき租税に関する法令に基づいて行う活動

ト 親会社が会社法(平成17年法律第86号)第348条第3項第4号(業務の執行)に基づいて行う企業集団の業務の適正を確保するための必要な体制の整備その他のコーポレート・ガバナンスに関する活動

チ その他親会社が専ら自らのために行う国外関連者の株主又は出資者としての活動

(注)1 例えば、親会社が国外関連者に対して行う特定の業務に係る企画、緊急時の管理若しくは技術的助言又は日々の経営に関する助言は、イからチまでに掲げる活動には該当しないことから、これらが(1)に定めるとおり当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものである場合((2)に該当する場合を除く。2において同じ。)には、国外関連者に対する役務提供に該当する。

2 親会社が国外関連者に対する投資の保全を目的として行う活動についても、(1)に定めるとおり当該国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものである場合には、国外関連者に対する役務提供に該当する。

下線部は一体何を言っているのだろうか。

  • まずわからなかったのは「特定の業務に係る」がどこまでかかるのか。「企画」だけにかかるのか、それとも、その後にもかかるのかーー例えば「特定の業務に係る日々の経営に関する助言」という形でつながるのか。
  • 仮に「日々の経営の助言」には「特定の業務に係る」という限定が付かないのであれば、「日々の」「助言」のすべてが回収対象の本社費になってしまうのだろうか。
  • また、「特定の業務」とはそもそも何なのか。

本社の活動は大雑把に言えば、グループ全体の事業戦略を策定し、その戦略に沿った研究開発を実行したり、戦略に基づくグループ経営を行うことである。そしてそのグループ経営には、子会社が全体戦略に沿って動いているか、問題が起きていないかを確認し、軌道修正することが含まれているところ、国外関連者に対する「日々の経営の助言」のすべてが国外関連者に対する役務提供と言われると、本社費の大きな部分を個別請求しないといけないことになってしまう。本社は連結経営を志向するので、すべての業務が「回りまわって」グループ全体のためになるのが当然であるが、「回りまわって」の部分まで請求対象なのか。そうではないとしたら「回りまわって」の部分と、そうでない部分との線引きはどうすればよいのか。また、役務提供を受けた立場となる国外関連者側の税務当局に費用請求(の損金算入)が認められるのか、という観点でも考えないといけない。

 

■個別回収すべき本社費についての検討

ここで参照させて頂くのは『月刊国際税務』2017年2月号における、田島宏一「パターン別 海外進出中堅企業の移転価格&寄付金課税リスクと対策<5>第5回 経営指導料・マネジメントフィーの回収」という記事である。

この記事では上記の下線部について、以下のように解説されている。(田島先生の記事の執筆時には移転価格事務運営要領における該当箇所は3-9。また、上記の現3-10の下線部の文言は旧3-9における注書きとは若干文言が異なるが、内容的にはほぼ同じと判断した。)

…上記注書きの通り、本社業務の中でも、子会社の要請に基づいて行うものや、本社が行わなければ対価を支払ってでも第三者に依頼すると考えられる代行業務、子会社のために行う個別具体的な支援などは、「経済的又は商業的価値を有するもの」として対価を回収しなければ移転価格課税の対象となります。(中略)

対価回収が必要な「経営指導」は、子会社の社長や経営企画部等が行うべき活動を本社が代行することや、個別具体的に現地での経営方法を本社が指導するような場合に限られるものと考えられます。

上記解説のうち、「子会社の要請」、「代行業務」、「個別具体的な支援」がキーワードと考えた。仮に国外関連者がTNMMの検証対象となるような、比較的単純な製造機能、あるいは販売機能のみを有する子会社と考えた場合、「その子会社の本来的な機能(製造ないし販売)に関する依頼に対して、本社として具体的な支援をした場合」(だけ)が、回収対象となるのではないだろうか。海外製造子会社は製造機能を自ら遂行すべきであるが、具体的に発生した製造に関する困りごとに対して、自らだけでは解決できず、本社の支援を子会社側から頼んできた場合が該当する。個人的にはこれですっきりしたように感じたが、実務上はどうだろうか。

仮にまとめるとすると、子会社から個別回収すべき本社費かどうかの判定は、以下の点を検討すればよさそうである。以下に該当すれば、個別回収すべき、ということになる。(ただし、抜け漏れ、重複のない状態まで整理できたチェックリストにはなっていない。)また、これらの点を満たしていれば、役務提供を受ける側の税務当局にも認められるのではないだろうか。*1

  • 本社が行わなければ、子会社自らその活動を実施(ないし別途他法人に依頼)しないといけない活動か?(移転価格事務運営要領3‐10における大原則)
  • 子会社から依頼されているか?
  • 子会社の本来的な機能(製造や販売)に関する依頼か?
  • 本社側から個別具体的に支援をしたか?…最も分かりやすいのは本社から現地に出張して支援をする場合。
  • 株主活動に該当しないか?

 

■「参考事例集」【事例26】を用いた検討

ここで、国税庁「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」の【事例26】(企業グループ内役務提供)に列挙されている、日本法人から国外関連者に対するイ~タの活動例が国外関連者に対する役務提供に該当するかどうかを考えてみたい。このイ~タの活動例のうち、二、ホ、ト、チ、ヨ及びタは「株主活動」として国外関連者に対する役務提供に該当しない旨が説明されているため、これらを除いた活動例について、考えたい。

また、【事例26】では必ずしも明らかではないが、日本法人P社は本社としてグループ全体の事業戦略の策定、研究開発(生産技術含む)、販売戦略等を担い(重要な無形資産もP社が保有)、一方の国外関連者S社は製造・販売という限定機能のみを担う(重要な無形資産は保有しない)という仮定を追加した上で考えてみたい。

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ただ、考えれば考えるほど、具体的な活動内容、そもそもの本社と子会社の間の機能保有の線引き等、様々な仮定を加えて考えないと結論が導き出せず、つくづく役務提供取引の判断は難しいと感じた。そのため、このような検討は思考訓練に過ぎず、実務上は具体例のなかで、関係部門に話を聞き、また、証憑となる資料等を確認しながら、いかに「事実」を把握するか、にかかっていると思う。

*1:山川博樹編著「移転価格対応と国際税務ガバナンス」中央経済社所収の細野裕子「企業内役務提供取引に関する具体的対応策の検討」で説明されている、中国が企業内役務提供の合理性を判断する基準である「6つのテスト」参照。

取引単位のもやもや

役務提供取引ロイヤリティ取引を考える上で、実務上悩ましい問題の一つが、「役務提供取引、ロイヤリティ取引は棚卸取引と一体化できるのか?」という問題である。この点について、考えてみたい。

 

■事案例及び論点

事案例として使用するのは、国税庁が提供している移転価格ガイドブック〜自発的な税務コンプライアンスの維持・向上に向けて〜|国税庁の中の「Ⅲ 同時文書化対応ガイド ~ローカルファイルの作成サンプル~」の「サンプル1」である。(この「ローカルファイルの作成サンプル」は、日本のローカルファイルを作成する実務上、非常に重要な参考資料となる。)ここで想定されているのは、内国法人である「当社」と、A国に所在する100%子会社である「A社」との間の取引で、取引の概要、及び両社の機能の概要は以下の取引図で示されている。A社の製造販売機能は当社と比較して単純であると説明されている。(図は上記国税庁作成サンプルより。)

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また、当社ーA社間の各取引についての概要は以下のように説明されている。(同じく、国税庁作成サンプルより。)

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ここで考えたいのは、「取引ハ」(ロイヤリティ取引)や、「取引二」(役務提供取引)は、「取引ロ」(原材料取引)と一体化できるのかどうか、という点である。もっと直接的に言えば、「ハ」や「二」は取引として省略してもいいのか(「ロ」に含めていることとしてよいのか)、という問いである。

 

■原則的な考え方、及びロイヤリティ取引について

まず、租税特別措置法関係通達66の4(4)-1では、取引単位について、以下の通り定められている(下線筆者)。

 (取引単位)
66の4(4)-1 独立企業間価格の算定は、原則として、個別の取引ごとに行うのであるが、例えば、次に掲げる場合には、これらの取引を一の取引として独立企業間価格を算定することができる。…

(1) 国外関連取引について、同一の製品グループに属する取引、同一の事業セグメントに属する取引等を考慮して価格設定が行われており、独立企業間価格についてもこれらの単位で算定することが合理的であると認められる場合

(2) 国外関連取引について、生産用部品の販売取引と当該生産用部品に係る製造ノウハウの使用許諾取引等が一体として行われており、独立企業間価格についても一体として算定することが合理的であると認められる場合

つまり、原則は個別の取引ごとに独立企業間価格を算定する必要がある、ということである。(1)で述べられているのは、例えば、棚卸取引において、複数の製品の売買取引があったときに、それらの製品を一定の「かたまり」や「束」で見ることができる、ということと理解できるので、ここで検討している問題とは直接的に関係はない。一方で、(2)では、ロイヤリティ取引と棚卸取引の独立企業間価格を「一体として算定する」ことができる可能性について説明されている。

ここでよくわからないのは、独立企業間価格を「一体として算定する」ことと、個々の取引を立てるかどうかとの違いである。例えば、「取引ハ」(ロイヤリティ取引)は個別の取引として行わなくても、「取引ロ」(原材料取引)と一体で独立企業間価格を算定し、全体として独立企業間原則に則っていればよいのか。

 

■役務提供取引について

次に、「取引二」、「当社」から「A社」への役務提供取引である。

この「Ⅲ 同時文書化対応ガイド ~ローカルファイルの作成サンプル~」の「サンプル1」として提示されているローカルファイルでは、「A社との各国外関連取引がそれぞれ密接に関係していることを考慮し、個別の検証は行わず、全ての取引を一体として検証を行っています」(P.86)、「金型、機械設備及び原材料の輸出取引、無形資産を使用させる取引、役務提供取引の各国外関連取引は、A社の製品Xの製造販売事業に当たり一体として行われていますので、独立企業間価格についても、一の取引として算定することが合理的であると判断しました。」(P.93)と記載されている。そして、「A社の製造販売取引に係る損益」(P.93)全体を検証対象損益としたTNMMで独立企業間価格を算定している(つまり、取引イ~二の個別検証は行っていない)。

ここでは、上記のロイヤリティ取引のみならず、役務提供取引についても、独立企業間価格を「一の取引として算定することが合理的」とされている。やはり、ここでもわからないのは、「取引二」(役務提供取引)をそもそも行う必要があるのか、という点である。端的に言ってしまえば、A社損益が独立企業間レンジに入っていさえすれば、「取引二」は不要なのか。

事務運営要領3-9には、以下の記述もある。(下線筆者。)

(役務提供)
3-9 役務提供について調査を行う場合には、次の点に留意する。

(1) 役務提供を行う際に無形資産を使用しているにもかかわらず、当該役務提供の対価の額に無形資産の使用に係る部分が含まれていない場合があること。

(注) 無形資産が役務提供を行う際に使用されているかどうかについて調査を行う場合には、役務の提供と無形資産の使用は概念的には別のものであることに留意し、役務の提供者が当該役務提供時にどのような無形資産を用いているか、当該役務提供が役務の提供を受ける法人の活動、機能等にどのような影響を与えているか等について検討を行う。

(2) 役務提供が有形資産又は無形資産の譲渡等に併せて行われており、当該役務提供に係る対価の額がこれらの資産の譲渡等の価格に含まれている場合があること。

 

■仮の結論

「取引ハ」や「取引二」は取引として省略してもいいのか(「ロ」に含めていることとしてよいのか)、という最初の問いについては、今のところ、以下のように考えている。

  1. ロイヤリティ取引や、役務提供取引について、独立企業間価格の算定、つまり独立企業間原則に従っているかどうかの「検証」は、棚卸取引と一体として行うことができる。(「移転価格ガイドブック」の「Ⅱ 移転価格税制の適用におけるポイント ~移転価格税制の実務において検討等を行う項目~」の「4 取引単位に関する検討」(P.49)には「移転価格調査及び事前確認審査においては、複数の国外関連取引の価格設定が一体で行われているか、複数の国外関連取引が密接不可分であるか、という論点について、契約書、経営管理資料、顧客との価格交渉資料などを確認しながら、取引単位の合理性を検討していくこととなります。」と説明されている。)
  2. しかし、日本においては、移転価格税制を考える上で、措置法66条の4第3項(国外関連者寄附金の損金不算入)との関係を考慮する必要がある。そして、その適用順序は、「条文上、国外関連取引についてまず寄附金課税の適用の有無を検討し、その適用が認められない場合に初めて移転価格税制の適用の有無を検討するものと理論的に整理できます」(藤枝純・角田信広著「移転価格税制の実務詳解(第2版)」中央経済社、P.236-237)と指摘されている。「まず寄附金課税の適用の有無」が検討されることを考えると、「取引ハ」や「取引二」を省略することはできないように思われる。
  3. 上記「サンプル1」でも、「検証」は一体で行いながらも、棚卸取引である「取引ロ」とは別に、「取引ハ」や「取引二」を行っていることは行っており、決して取引自体を省略することまではしていない。つまりロイヤリティ取引や、役務提供取引の個別取引は、きちんとそれぞれで行っておく必要がある。

上記2.については、前の記事でも引用した、「別冊 移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」【事例28】(国外関連者に対する寄附金)の解説でも、やはり、検討の順序は①国外関連者寄附金、②移転価格税制、ということのように読める。(「『金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与』に該当する事実が認められない場合に」、はじめて、移転価格税制の検討が行われる。)

すなわち、法人が国外関連者との取引に係る収益を計上していない場合において、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められるときには、当該法人が収益として計上すべき金額は国外関連者に対する寄附金となり、措置法第66 条の 4 第 3 項(国外関連者に対する寄附金の損金不算入)の規定の適用を受けることとなる(事務運営指針 3‐20 イ)。

一方、こうした検討により、当該取引につき「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当する事実が認められない場合には、当該取引は移転価格税制に基づく課税の対象として取り扱うこととなる。

 なお、上記解説で参照されている事務運営指針3-20イは、以下の通りである。

(国外関連者に対する寄附金)
3-20 調査において、次に掲げるような事実が認められた場合には、措置法第66条の4第3項の規定の適用があることに留意する。

イ 法人が国外関連者に対して資産の販売、金銭の貸付け、役務の提供その他の取引(以下「資産の販売等」という。)を行い、かつ、当該資産の販売等に係る収益の計上を行っていない場合において、当該資産の販売等が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与に該当するとき

 

これが、先の問いに対する現時点での「仮の結論」であるが、実務上、気になるのは、相手国の観点である。「役務提供が国外関連者にとって経済的又は商業的価値を有するものかどうかを検証する便益テストを厳しく執行している中国やインド」(藤枝・角田、P.310)に対しては、個々のロイヤリティ取引や役務提供取引を厳密に行うよりも、棚卸取引に含めてしまう(国外関連者の利益率は当然レンジ内にコントロールする)方が、現地での否認リスク、対外送金事情、関税評価額をめぐる議論等を考えると、実務ははるかにスムーズのようにまわるように思う。また、TNMMに基づく利益率管理がきちんとできている限りにおいては、日本・相手国間の所得配分にも大きな影響はないはず、とも思うが、どうなのだろうか。